表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/85

あの差を取り返せ

 天皇賞(秋)で、ライスフィールドはファントムブレインに追いすがったものの、アタマ差届かずに2着に敗れ去った。

 このような結果に終わってしまったことは、10カ月ぶりの勝利を期待していた陣営にとって相当なショックで、レース後、彼らはその場に茫然と立ち尽くすばかりだった。

 馬のクールダウンを終えて引き上げ場に戻ってきた鴨宮君は陣営のただならぬ雰囲気に気付き、途端に近寄りがたい気持ちになってきた。

「ヨシさん、ミチ、姉さん、トッキー。そして野々森牧場の皆さん…。勝てなくて…、申し訳ありませんでした…。」

 鴨宮君は恐る恐る頭を下げた。

「仕方ありません。ファントムブレインが強すぎました。」

「それでも上出来でしたよ。初めてのGⅠ騎乗にしてはね。」

 道脇君と紅君は何とか口を開き、精一杯のねぎらいの言葉をかけた。

「…でも、必勝を喫して臨んだレースでしたし、最後の直線でファントムブレインをあそこまで追い詰めた以上、逆転したかったです。せめてあと30m残っていたら…。」

 鴨宮君はそう言うと、再度頭を下げ、それ以降何も言えなくなってしまった。

 一方の善郎や蓉子達もかける言葉に詰まってしまい、結局アキが「とにかく胸を張って検量に行ってきなさい。」と言うのが精いっぱいだった。


 その後、勝利ジョッキーインタビューに臨んだ坂江騎手は、次のように語っていた。

「勝つことはできましたが、正直危なかったです。先頭に立った時には一旦は勝利を確信しましたが、あわや差し返されるところでした。朝日杯で僕自身がライスフィールドに騎乗し、トランクゼウスを差し返す根性を見ていたから良かったですが、あれを経験しなかったらどうなっていたかと思いました。」

 彼はファントムブレインの能力をしっかりと出し切ることには満足しながらも、ライスフィールドの実力についてもしっかりと認めていた。

 だが、結果として坂江騎手がライスフィールドに騎乗していたことがあだになってしまい、それが陣営の悔しさを一層際立たせる形になってしまった。

「坂江さん、最高の味方から最強の敵になってしまったわね。」

「ファントムブレインも強そうだし、これは厄介だな。」

「多分ジャパンカップでもぶつかるでしょうし、この馬を倒さないと…。」

 葉月、太郎、蓉子は高い壁を見せつけられたような気持ちを感じていた。


3歳10月の時点におけるライスフィールドの成績

9戦4勝

本賞金:1億200万円

総賞金:2憶1120万円


 それから厩舎での合言葉は「あの差を取り返せ」となった。

 善郎達はファントムブレインと坂江陽八騎手という高い壁を何とか乗り越え、次なる直接対決となるジャパンカップ(GⅠ、東京、芝2400m)に向けて調整を重ねていった。

 鞍上は鴨宮君が引き続き乗ることになった。

「ヨシさん、本当に僕を乗せてくれるんですか?」

「ああ。秋天では見事な騎乗で好走してくれたからな。野々森牧場の人達にもOKをもらったし、引き続き頼んだぞ。」

「はいっ、分かりました!全力で頑張ります!」

 鴨宮君は乗り替わりの心配がなくなったことで、余計なことを気にせずにライスフィールドの調教に専念できることになり、一層気合が入るようになった。

 一方で、フロントラインやライスパディーを担当している道脇君や紅君には、頭の痛い要素もあった。「ヨシさんには併せ馬の時にはライスフィールドをいかに先着させるかを考えてくれと言われているけれど…。」

「でも一方では、僕達が乗っているフロントラインやライスパディーのやる気も引き出さなければいけないし…。」

 彼らは相反する要素と向き合いながら調教を重ね、何とかライスフィールドに続く活躍馬を輩出して、一発屋というイメージを払しょくしようと奮闘していた。

「うーーん、ファントムブレインは比較的長距離向きの馬だと思っていたけれど、秋天のような中距離でも結果を出したし、これは厄介ね。これも坂江さんの騎乗によるものでしょうね。とにかく弱点があれば何とかそこを突いていきたいんだけれど…。」

 作戦担当を任されているアキは、連日ファントムブレインやホタルブクロなどの有力馬、さらにはジャパンカップで来日を予定している外国馬のデータを集め、どんな小さな情報でも陣営に報告をしていた。


 ライスフィールドが登録したジャパンカップには海外からの招待馬5頭を含む15頭が出走することになった。

 その中には、サージングクラウド(牝4歳、英語表記:Surging Crowd)というオーストラリア馬がいた。

 この馬に騎乗を予定している騎手は久矢 大道ひろみち君だった。

 彼は元々日本で騎乗していたが、英会話の講師をしているガールフレンドのレッスンを受けて英語が話せるようになり、その後、オーストラリアに活動の場を移すようになった。

 最初は言葉の壁や文化の違いに戸惑ったり、騎乗馬に恵まれずに悔しい思いをすることもあった。

 その度にテレビ電話やメールでガールフレンドと連絡を取り、悩みを打ち明けたり、英語で何と言えば良かったのかを教えてもらっていた。

 そんな日々を過ごすうちにやがて実力が認められていき、騎乗も増えていった。

 最初は条件戦しか乗れずにいたレースでも今ではオーストラリアのGⅠでも騎乗するようになり、サージングクラウドに騎乗してついにビッグタイトルの奪取に成功した。

 それが認められて今回、同馬がジャパンカップに出走を表明した時、彼に白羽の矢が立つことになった。

 日本に凱旋帰国した久矢君は空港でガールフレンドとの懐かしい再会を果たし、ハグをしながら喜びを分かち合った。

 そしてそのままトレセンに向かうとファントムブレインやホタルブクロ、ライスフィールドなどの情報を集め、それをサージングクラウドの関係者に包み隠さずに打ち明けていた。

(僕は日本人だ。日本でまた乗れることはうれしい。でも今回はオーストラリアのために戦う。日本を敵に回す形にはなるけれど、全力で日本馬に立ち向かい、そして勝つ!)

 彼の心には、ジャパンカップに向けた並々ならぬ決意がみなぎっていた。


 ジャパンカップに出走する主な有力馬と枠順、前売りにおける人気は次の通りになった。


・ファントムブレイン 2枠3番 1番人気

・ホタルブクロ 6枠11番 2番人気

・ライスフィールド 5枠9番 3番人気

・トランクゼウス 8枠14番 4番人気

・ユーアーゼア 3枠4番 7番人気 

(以上日本馬。以下は外国馬)

・パーマフロスト(英語表記:Permafrost)4枠6番 6番人気

・サージングクラウド(Surging Crowd)4枠7番 8番人気

・アブソルートゼロ(英語表記:Absolute Zero)2枠2番 12番人気


 結果は、ファントムブレインのGⅠ2連勝なのか?

 ホタルブクロが1番人気を奪われた悔しさを晴らすのか?

 ライスフィールドが雪辱勝利を果たすのか?

 トランクゼウスが善戦マンから脱却するのか?

 久矢君がサージングクラウドでジャパンカップを制覇するのか?

 それともそれ以外の馬達が制覇するのか?

 みんなが負けられない理由を背負いながら、いよいよジャパンカップ発走の時間を迎えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ