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末足勝負のレース

 天皇賞(秋)のゲートが開くと、鴨宮君は指示通り、前に出ていくように馬に指示を出した。

 それと並走するように内からフシチョウ、外からはユーアーゼアも前に出ていき、ライスフィールドと並走するような形になった。

 結果的に見た目ではこの3頭が逃げに打って出るような形になった。

 その後ではホタルブクロが6番手、インノケンティウスが中段、ファントムブレインとクリスタルロードが中段より後方から、そしてストアーキーパーは大外枠だったこともあってか、最後方になった。

「ペースは速くない。むしろ遅いくらいね。それに先頭からしんがりまであまり差がない。この展開なら確か、前につけた馬が有利という傾向がある。だったら、ライスフィールドにとっては好都合ね。」

 蓉子はひとまず有利な展開になったと思い、少しほっとした。

 先頭集団にいるフシチョウ、ユーアーゼア、ライスフィールドは、それぞれ鞍上の逗子騎手、ベニー騎手、鴨宮君がみんな抑えるように指示を出していたため、どの馬も飛び出していかず、結果的に3頭のペースはみるみる落ちていった。

 一方、後続の馬も前に出ていこうとしなかったため、馬群がどんどん集中していき、押しくらまんじゅうのような形になった。

「先頭からしんがりまでほとんど差がないな。」

「これじゃ、馬群に包まれた馬は苦しいでしょうね。」

「フィールドが包まれたらと思うとぞっとする。」

 善郎、アキ、道脇君も、前に行くように指示を出したことがひとまず大成功となり、少しは楽観的にレースを見ることができた。

 18頭の馬達は一段となったまま向こう正面を走っていき、前半の1000mを通過した時、画面には62.7秒という通過タイムが表示された。

「良馬場なのに、おっそ!このタイム!」

「本当だ。まるで春天みたいだな。」

 葉月と太郎はその数字を見るなり顔をしかめた。

 そうしている間に各馬は次々と3コーナーに入り、位置取りやペースにも少しずつ変化が出てきた。

 後方にいたファントムブレインやストアーキーパーは外に持ち出し、距離ロスを覚悟の上で回り込む作戦に打って出た。

 一方、同じく後方にいたクリスタルロードはまだ動かない。

 さらには中段にいたインノケンティウスとやや前方にいたホタルブクロにもまだ動きは見られなかった。

 先頭の3頭に乗っている逗子騎手、ベニー騎手、鴨宮君はまだお互いをけん制し合っているのか、3コーナー終盤でもなかなか抜け出そうとしなかった。

 4コーナー。ここでベニー騎手がスパートのサインを出し、ユーアーゼアが頭一つ抜け出してきた。

 それを見た逗子騎手と鴨宮君も一足遅れてスパートを開始し、ペースは一気に上がった。

「徐々に一団は崩れ出しましたね。それでも馬群の中にいる馬達は包まれたままですが。」

「確かにそうだな。恐らく出られずにイライラしている騎手や馬もいるだろうな。」

 道脇君と紅君がそう会話をしているうちに、いよいよレースは最後の直線の攻防になった。

 先頭集団にいたフシチョウ、ライスフィールド、ユーアーゼアは横に並んだまま内を走り続けていた。

 そのため、3頭のすぐ後ろにいたホタルブクロは前がふさがったままの状態だった。

(これらの3頭が並走していては仕方がない。外に持ち出すしかないか。)

 鞍上の網走騎手がそうしようとした瞬間、今度はすぐ外からファントムブレインとインノケンティウスが続けざまにやってきた。

(外にも持ち出せないのか。一体どうすればいいんだ!)

 彼はどうすることもできないまま、結果的に不利だけを受けるはめになってしまった。

 一方、ホタルブクロの左斜め後ろにおり、内ラチスレスレを走るクリスタルロード騎乗の弥富伊予子騎手も、八方ふさがりの状態になっていた。

(くっ。このままでは前に出られないまま惨敗するのを待つだけになってしまうわね。この馬は11番人気ではあるけれど、実力も出し切れないままむざむざと負けるわけにはいかない。こうなったら馬群に隙ができることを信じて、突っ込んでいくしかないわね。)

 彼女は一か八かの賭けに打って出ることを決意し、ムチをふるった。

 残り400m。ここでライスフィールドが頭一つ抜け出し、先頭に立った。

「行けえ、ライスフィールド!そのまま押し切れえっ!」

 葉月は馬の方向を向いて、力いっぱい叫んだ。

「頼む、フィールド!朝日杯以来の勝利を挙げてくれ!」

 太郎も葉月に負けないくらいの大声を上げた。

 外からはファントムブレインとインノケンティウスがするすると伸びてきて、2番手にまで上がってきた。

 ライスフィールドが抜け出したことで、フシチョウとユーアーゼアの間には隙間ができた。

(よし、チャンスができた!この間をすり抜けて行ってやる!)

 弥富さんはクリスタルロードに指示を出すと、精一杯のスパートをかけた。

 残り300m。ここで外からファントムブレインがライスフィールドに並びかけてきた。

(よし、ここで並べたのは大きい。ファントムブレインの方が足場のいいところを走っているだけに、このまま行けば十分優勝できる。行け、ブレイン!)

 坂江騎手は確かな手応えを感じていた。

 残り200m。ファントムブレインは坂江騎手の思惑通り先頭に立ち、ライスフィールドは2番手に後退した。

 ライスフィールドのすぐ後ろではインノケンティウスが懸命に食い下がっている一方、レース前半で先頭を走っていたフシチョウとユーアーゼアはずるずると後退をしていった。

 一方、最後方からのレースとなったストアーキーパーは、ただでさえ大外枠だったことに加えて、大外に持ち出したことでさらに距離をロスしてしまった。

 そんな中、唯一の救いは馬場の一番いいところを走っているということだった。

(残り100m。ファントムブレインが完全に先頭に立った。これで勝ったも同然だ。)

 確かな手応えを感じている坂江騎手はほぼ勝利を確信しているようだった。

(頑張れフィールド!目の前のブレインを交わせば栄光のゴールなんだ!あきらめないでくれ!頑張ってくれ!)

 鴨宮君は初めてのGⅠというプレッシャーも忘れて、必死に手綱をしごいた。

 するとライスフィールドも持ち前の勝負根性を発揮してファントムブレインに追いすがり、最大4分の3馬身あった差をグングン縮めていった。

(何?この馬はまだこんな力を残していたのか?朝日杯でトランクゼウスを差し返したあの根性なのか?)

 坂江騎手は朝日杯でライスフィールドに乗っていた張本人だけに、あの再現が頭をよぎった。

 すでにライスフィールドと3番手のインノケンティウスの間にはすでに2馬身以上の差がついていた。

 そのため、勝負は完全に2頭に絞られていた。

 ファントムブレイン粘る!ライスフィールド迫る!

「フィールド、お願いっ!」

「シン!頑張れ!」

 蓉子や善郎は祈る気持ちで叫んだ。

 競馬場に集まった大勢の人達の視線を集める中、2頭の馬はゴールラインを駆け抜けていった。

 勝ちタイムは2分0秒2で、結果的には後半はスピード勝負のレースになった。

 それから一瞬遅れてインノケンティウスが2馬身2分の1差でゴールを駆け抜け、馬群の間をうまくすり抜けたクリスタルロードがクビ差でそれに続いた。

 弥富さんは結果的に賭けがどうにか的中した形になった。

 5着は大外から追い上げたストアーキーパー。ホタルブクロは不利がまともに響いて7着。先頭を走っていたユーアーゼアとフシチョウは、先行馬が有利なスローペースだったにもかかわらず、それぞれ10着、14着に惨敗してしまった。

 3着以下の順位はすんなりと決まった中、果たして勝った馬は…!


(1、2着の結果は次号にて。)


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