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1600mの争い

 ゲートが開き、朝日杯フューチュリティーSがスタートすると、真っ先に2番人気のフシチョウが先頭に立った。

 そして外からはシリコンヒルがやってきて、先頭に並びかけてきた。

 1番人気のライスフィールドは上記の2頭の後ろにつけ、3番手の位置を確保した。

 そのすぐ斜め後ろには、トゥーオブアスがぴったりとライスフィールドをマークするような形で走っていた。

 3強の一角である3番人気のトランクゼウスは中段よりやや後ろにつけていた。

 穴馬としてある程度の人気を得たトランクミラクルは後ろにつけ、長い阪神競馬場の直線での勝負にかける形になった。

「うーーん。有力馬はトランクゼウス以外、前の方に固まったわね。」

「その内、お互い張り合ったりとかしないかしらね。」

「ありうるかも。でもつぶし合いだけは勘弁してほしいな。」

 蓉子、葉月、太郎の3人はライスフィールドを見ながら、不安げな表情を浮かべていた。

「ヨシさん、これでは、ゼウスの漁夫の利になりませんか?」

 道脇君はただでさえ恐ろしいまでの緊張感を感じている上に、さらにプレッシャーをかけられてしまい、恐る恐る聞いてみた。

「坂江さんならきっと大丈夫だ。きっと馬の気持ちを理解した上で対処し、無駄のないレースをしてくれる。それに馬にとっては有力馬が前に集中しているなんて分からんだろう。」

 善郎は震えるような声で、強がるように言い切った。

「あっ、それもそうね。どの馬が有力馬かなんて、確かに馬達には分からないでしょうね。」

 蓉子は善郎の言ったことを聞いて、多少なりとも落ち着きを取り戻すことができた。


 レースは内にフシチョウ、外にシリコンヒルが先頭で並んだまま、淡々と流れていた。

 その後ろをライスフィールドとトゥーオブアスがマークするように並走していた。

 そうしているうちに、先頭の2頭は前半の800mを通過した。タイムは48秒台で、それ程速いというわけでもなかった。

(さすがは腕のいいジョッキーだな。どの馬もかかっている様子はなさそうだし、まだあどけない2歳馬をうまくなだめているようだ。そう考えると、現時点の鴨宮君では荷が重いだろうな。)

 善郎は無茶苦茶緊張しながらレースを分析していた。

 レースも後半にさしかかると、いよいよ馬達に動きが出てきて、位置取りが頻繁に変わるようになってきた。

 後方にいたトランクミラクルや、中段にいたトランクゼウスはペースを上げて順位を着々と上げてきており、前にいる有力馬との差がみるみる縮まってきた。

 そんな中でもライスフィールドに乗っている坂江騎手は全く動きを見せず、スパートする様子もなかった。

「いよいよ4コーナーを回っていくわね。一体どうなるのかしら?」

「さあな。とにかくこちらは坂江さんとフィールドを信じるまでだ。」

 アキと太郎は逃げ出したい程の緊張感の中で、声を震わせながら会話をした。

 それは蓉子も同じだった。


 最後の直線にさしかかる頃、先頭のフシチョウとシリコンヒルはそろってスパートを開始し、他馬を引き離しにかかった。

 それに続くような形でトゥーオブアスもスパートをする中、ライスフィールド鞍上の坂江騎手の手はまだ動かなかった。

(まだ直線入り口だ。直線の短い中山競馬場だったらスパートをしただろうが、ここは阪神の外回りだ。とにかくまだ我慢だ。どうか我慢してくれ。)

 坂江騎手ははやる気持ちを懸命に抑えていた。

 そうしているうちにライスフィールドは単独4番手に後退した。

 さらには後ろから何頭もの馬が迫っており、その中にはトランクゼウスもいた。

「このままでは交わされる!早くスパートして!」

「坂江!早く追わんかい!しばくぞ!」

 蓉子と太郎は思わず坂江騎手に向かって叫んだ。

 一方の葉月は手を合わせて、黙ったままひたすら祈り続けていた。


 残り400m。坂江騎手はいよいよスパートを開始した。

 その時、トランクゼウスは外からライスフィールドに並びかけ、さらには追い抜いて4番手に浮上した。

 一方、先頭はフシチョウが懸命に粘っており、シリコンヒルは少しずつフシチョウに差をつけられ始めた。

(頑張って、シリコンヒル!坂もあるし、ここでバテてはだめよ!)

 弥富さんは手綱をしごきながら懸命にスパートをした。

 残り300mの時点で、先頭はフシチョウ、2番手はシリコンヒル。以降トゥーオブアス、トランクゼウスと続いていた。

 そのトランクゼウスは坂の手前でトゥーオブアスを交わし、さらにはシリコンヒルにも襲いかかりそうな状況だった。

 一方、ライスフィールドは坂江騎手の指示で猛スパートをかけ、前を走る馬を追い抜きにかかった。

 残り200mから始まる坂の時点でトランクゼウスはシリコンヒルも交わし、2番手に上がった。

 このまま行けば先頭のフシチョウも交わし、十分に1着になれそうな勢いだった。

(…ここまでね。頑張ってほしかったけれど…。)

 シリコンヒル鞍上の弥富さんはトランクゼウスのスピードの前に、もはや観念するしかなかった。

 トランクゼウスは坂を上り切る残り100mの手前でフシチョウをも交わし、ついに先頭に立った。

(あと少しだ。あの馬に借りを返すチャンスだ!行け!行け!)

 逗子騎手は京王杯の雪辱を果たそうと必死だった。

 一方、ライスフィールドは一旦は交わされたトゥーオブアスを抜き返し、さらにはフシチョウをも交わしていよいよ2番手に上がった。

 残り100mを切った時点で、レースはトランクゼウスとライスフィールドの一騎打ちになった。

『トランクゼウスか!?ライスフィールドか!?デッドヒートになった!さあどっちだ!?』

 アナウンサーも大声で絶叫をしていた。

 このまま行けば、2頭がゴールした瞬間に並びそうな状態だった。

「フィールド…。」

 葉月は祈りながらそう言うと、思わず目を閉じてしまった。

 蓉子、太郎、善郎、道脇君は何も言えないまま、ゴールの瞬間を見届けようとしていた。

 そしていよいよ2頭はゴールへと差し掛かった。

 トランクゼウスとライスフィールド。勝ったのは…!


(決着は次回にて。)


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