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フィールド vs. ゼウス

 11月。いよいよ京王杯2歳Sの週がやってきた。

 このレースでは、函館2歳S優勝馬のライスフィールドと、小倉2歳S優勝馬のトランクゼウス、そして札幌2歳S優勝馬のトゥーオブアスが直接対決をするということで、かなりの盛り上がりを見せていた。

 ちなみに新潟2歳S優勝馬のソルジャーズレストはファンタジーS、函館2歳S 2着のフシチョウはデイリー杯2歳Sに向かったため、直接対決はお預けとなった。

 鴨宮君を含む村重厩舎の陣営は、坂江騎手と作戦について綿密に打ち合わせをし、勝つ気満々だった。

 一方、トランクゼウスは逗子騎手を乗せて栗東の坂路で最終調整を行い、無傷の3連勝をもくろんでいた。


 レースは11頭立てとなり、注目のトゥーオブアスは1枠1番、トランクゼウスは2枠2番、ライスフィールドは3枠3番になり、隣同士になった。

 人気はライスフィールドとトランクゼウスの2頭が1番人気と2番人気を分け合っており、頻繁に入れ替わっている状態だった。

 最終オッズは2頭が単勝2.4倍となり、両方とも1番人気だった。

(相手にとって不足はない。絶対に勝ってやる!)

 双方の陣営はお互いに相手を警戒し、一歩も引かずに真っ向勝負を挑む覚悟だった。

 なお、トゥーオブアスは単勝4.0倍で、少し離れた3番人気だった。

 3強の中でややダークホース的な存在になってしまったものの、鞍上の赤嶺騎手を含む陣営は漁夫の利を狙うような感じで、綿密に作戦を立てていた。


 レースはトゥーオブアスが先頭に立ち、ライスフィールドがそれに続いて2番手につけた。

(よし、まずは作戦通りだ。最後の直線は長いけれど、この馬なら粘りきれるはずだ。とにかくこちらのペースで行くぞ。)

 善郎はそう思いながらライスフィールドと坂江騎手を見つめた。

 一方、トランクゼウスと逗子騎手は作戦通り中段に待機する手に打って出た。

(よし、まずは作戦通りだ。最後の長い直線をうまく生かせばきっと差し切れるはずだ。とにかくペース配分に気をつけるぞ。)

 稚内 たいら調教師はそう思いながら腕組みをしていた。

 レースは3コーナーに入ってもトゥーオブアスが先頭をキープし、ライスフィールドはピッタリとマークするように後ろを走り続けた。

 トランクゼウスは6番手を走っており、まだじっくりと脚をためていた。

 4コーナー。1頭、また1頭とスパートを開始していく中、トランクゼウスは外に持ち出しただけで、逗子騎手の手はまだ動いていなかった。

 一方の坂江騎手もまだ微動だにせず、トゥーオブアスの真後ろにつけていた。

 そして最後の直線。先頭のトゥーオブアスは全く脚色が鈍る気配はなかった。

(よし、行け!一歩たりともライスフィールド、トランクゼウスには前を走らせないぞ!)

 赤嶺騎手はそう思いながら手綱をしごき、残り400mでスパートを開始した。

 一方の坂江騎手は待ってましたと言わんばかりに、続いてスパートを開始した。

 偶然にも後方にいたトランクゼウス鞍上の逗子騎手も残り400m付近でスパートを開始し、5馬身先にいるライスフィールドと7馬身先にいるトゥーオブアスを追いかけた。

 残りの距離が減っていく中、トゥーオブアスの脚色はまだ鈍らず、ライスフィールドとの差は縮まらなかった。

「おいおい!このまま逃げ切るんじゃないか?」

「これじゃフィールドとゼウス、2頭とも負けるかもしれないぞ。」

 観客席からはそのような声がこだまするようになってきた。

 残り250m。先頭はトゥーオブアス。リードは1馬身半。

 2番手はライスフィールド。外から伸びてきているトランクゼウスはライスフィールドの4馬身後ろにおり、まだ5番手だった。

 残り200m。トゥーオブアスは少しずつ疲れてきたのか、少しずつペースが落ちてきた。

 一方のライスフィールドは全くバテる様子もなく、2頭との差はみるみる縮まっていった。

「よし、いける!絶対に勝つぞ!頑張れ坂江さん!」

 善郎は大声で叫んだ。

「頑張って!絶対に差し切るのよ!」

「陽八さん、勝って!お願いっ!」

 蓉子と葉月は2人とも手を合わせ、神に祈るようにしてライスフィールドを見つめた。

 ライスフィールドは残り100m手前で先頭に立ち、後は粘り切るだけの状態だった。

「ゼウス!頑張ってくれ!頑張ってくれ!」

 逗子騎手は懸命にムチを入れ、まだ2馬身半前にいるライスフィールドを追いかけた。

「よし、あと少しねっ!」

「これならいけるっ!」

 蓉子と葉月はすでに勝利を確信したのか、ガッツポーズをしながら叫んだ。

 トランクゼウスは残り50mでトゥーオブアスを交わし、2番手に浮上した。

 しかし目指す馬はまだ2馬身先を走っており、もはや逆転は不可能な状態だった。

 レースはこのままライスフィールドがゴール板を駆け抜けていき、トランクゼウスとの直接対決を制した。

「よっしゃああっ!勝ったぞ!ナイス坂江さん!」

 善郎は両手でガッツポーズし、その両手を上に突き上げた。

「キャアーーッ!本当に勝った!トランクゼウスとトゥーオブアスに勝ったーーっ!」

「やったわね、葉月!GⅢだけでなく、GⅡも勝ったわ!すごいすごい!!」

 葉月と蓉子はお互い抱き合いながら、そして飛び跳ねながら喜びを爆発させた。

 一方の坂江騎手はゴールインした後も全く表情を変えず、冷静にライスフィールドをクールダウンさせると、ウィニングランもすることなく、他の馬達と一緒に引き上げ場へと向かっていった。

「とにかくこの馬の能力を出し切ることだけを考えて乗りました。結果的にその通りのレースができましたし、会心の出来でした。」

 彼はインタビューでも表情を崩すことはせず、冷静にコメントを発していた。


 レースはライスフィールドが1着、トランクゼウスが1 3/4馬身差で2着。さらにトゥーオブアスが1馬身差で3着となり、3強による決着となった。

 表彰式では善郎や道脇君。蓉子、葉月、太郎を含む牧場の陣営。さらには坂江騎手が満面の笑みを浮かべている一方、負けたトランクゼウスの陣営は悔しさでいっぱいだった。

「正直、ベストは尽くしました。しかし今日はライスフィールドが強すぎました。あの馬はスピードだけでなく豊富なスタミナも持っていると思いますし、それを最大限に引き出した坂江騎手の手腕もさすがでした。」

 逗子騎手はこのようなコメントを言うのが精一杯だった。

「確かに逗子君の言うとおりだ。あの馬に今日のようなレースをされては、こちらは打つ手がない。正直、あの小柄な体(今日の馬体重は410kg)のどこにあんな力があるんだろうという思いはある。でも次回は相手の方が遠征をすることになるし、条件は有利になる。勝てる要素は増えるはずだ。」

 稚内調教師は表彰式の様子を見つめながら、阪神競馬場で行われる朝日杯での打倒ライスフィールドを心に誓った。


2歳11月の時点におけるライスフィールドの成績

4戦3勝

本賞金:3700万円

総賞金:7600万円


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