その日への決意
進はオーディションを受ける事を店長に伝え、オーディションの応募用紙をポストに投函してから、仕事が終われば真っ直ぐに帰る進の帰り道が変わった。
まず、仕事が終われば書店に行き、俳優になるための本や、演技のための本を買い、自宅に帰って読んだ。
そして本に書いてあることを自宅や近所の公園で、隣や周りに迷惑にならないように実践した。
進はその時思った。もしオーディションに受かって、稽古をすることになったら、やはり迷惑とか考えずにやれるんだろうなぁ、と。
そんなある日のこと、進の自宅に封筒が届く。スピリットプロダクションからだった。
封筒を開け、中身をみる。
内容はオーディションの場所と日時であった。
日にちは今日を入れて一週間後、場所はスピリットプロダクションのビル。そして内容はそれだけではなく
ー美月進様、この度は我々スピリットプロダクションのオーディションに参加していただき、ありがとうございます。オーディションでは、貴方の夢を掴めるように全力を尽くしてください。-
と、書かれていた。
進はその紙を見ながら小さく呟く。
「…やってやる。」
その小さな言葉に、強く大きな決意がこもり、火を炎に変えていくガソリンのように、進の気持ちを強くさせたのだった。
ーオーディション前夜ー
仕事が終わり、帰り支度をする進に店長が声をかける。
「進くん」
進は後ろからかけられた声に反応し、はい、と返事をする。進は明日オーディションがあることを、プロダクションから手紙が来た翌日に店長に伝えていた。オーディションの日を確実に休みにするためと、勧めてくれた以上、店長には必ず伝えなければならないと思ったためであった。
「明日、オーディションなんだね?」
「はい、そうです。」
進は、やってやるという気持ちを込めて答える。
「いいかい?別に落ちたとしても、誰も責めない。誰も蔑んだりしない。君は君のやることをしっかりやればいい。たとえミスをしても、気にせず堂々とするんだ。」
店長は進に応援の言葉を与える。その言葉を授かった進も答える。
「わかりました。店長がくれたチャンス、絶対に無駄にしません。」
「ああ、頑張ってこい。」
店長は、進を送るように言った。
「はい、行ってきます。」
進は店長に頭を下げ、去っていった。
明日、明日なんだと、心の中で呟きながら進は家に向かって歩いて行った。