八話 「入学」
不定期投稿を辞めたい
一刻も早く勇者育成機関に入り、公に勇者として活動できるようにしたかったエルロッドは、途中で通った街の悪意を摘みとり、名乗ることもせず王都へと向かいました。
しかしその勇者育成機関から目をつけられているため、彼の魔力を感知した各街の支部によって暗躍をしているのだと勘違いされてしまいました。
「やっとか。ってまぁ、五日で辿りついたんだから早すぎるんだが…」
当のエルロッド本人はそんなこと知らずにいるのですが。
「まずは入学試験か。まぁ余裕だろ」
何の気負いも見せずにそう呟くエルロッド。実際、勇者育成機関という教育機関は一般的な、学力とお金があれば入れる学校と違い、特殊技能を持ち一定の戦闘能力を有していることが入学条件なのです。
そしてその条件であればエルロッドは十分の一の力でも満たすことが出来るでしょう。
「さて、んじゃ二週目行きますか」
―――――
「こちらは勇者育成機関受付でございます。本日はどのようなご要件でしょうか」
勇者育成機関の自動で開く扉を抜けるとまず正面に見えるのは全く心がこもっていないのに魅力のある作り笑いを浮かべる受付嬢。
美しい声でいつでも綺麗な姿勢を保ち、誰にでも笑顔で接するある意味人間離れした女性達には外部にたくさんのファンがいるとかそうでないとか。
「エルロッド・アンダーテイカー。勇者志望だ。試験を受けたい」
しかしそんな存在にも二週目の勇者は動揺する心を持ちません。本性までわかっているのですから。
「承りました。こちらへどうぞ」
受付嬢に促されたエルロッドは、時期が早すぎるために他の人が全くいない試験場へと向かいます。
試験場に着くと、受付嬢は試験の説明を始めます。
「試験の方式は四つございます。物理特化型であれば、召喚魔導人形。魔法特化型であれば召喚魔狼。魔法剣士型であれば召喚魔蜂隊。軍師型であれば仮想戦場において各種兵三百ずつ合計千五百の兵士を操る仮想戦争。以上から選択していただくのですが…」
受付嬢の顔がエルロッドの方を向いた途端に怪訝なものに変わります。
なぜ笑顔が崩れたのか。それは、試験場に備え付けられた召喚器をエルロッド本人の魔力で起動、全ての試験用召喚体を召喚していたからです。
「前回は物足りなかったからな。これくらいやればいけるだろ」
獰猛な笑みを浮かべ飛び掛るエルロッドの姿はどう見ても悪役にしか見えなかったらしいです。
―――――
説明の途中で勝手なことを始めたにも関わらずエルロッドが無事入学できたのは、物理攻撃軽減を持つゴーレムを素手で殴り倒しつつ魔法耐性が異様に高いフェンリルを初級魔法で完全に抑え、隊列を組み死角から襲いかかってくるフォースビーに対してかすり傷すら負わずすべて撃墜するという明らかに人間離れした動きを見せたからです。
記録水晶によって記録されているこの映像を試験官が見るまでもない。これは確実に合格だ、と受付嬢は開いた口がふさがりません。
「ちょっとだけ疲れたな…合否はここの宿に送ってくれると助かる。そんじゃ」
疲れたと言いつつ疲労の色が全くないエルロッドは、呆然として動かない受付嬢を放置して宿に帰ってしまいました。
―――――
「エルロッド・アンダーテイカー。あなたの入学を歓迎します。
勇者育成機関 機関長 ブレイブ=リザード」
宿で寝ていたエルロッドが受け取った手紙にはそのような文面が記載されていました。
わかりきっていたとはいえ安心したエルロッドはもう一度眠りました。
疲れてたのでしょうか。馬鹿ですね。
そして、エルロッドが眠っているちょうどその頃、勇者育成機関本部の会議室では臨時会議が行われていました。
「エルロッド・アンダーテイカーとかいうのは例の魔人ではないのか!何故入学など!」
一人の初老の男性がそう叫びます。
それに対し落ち着いた雰囲気の老人が口を開きました。
「魔人だと直接聞いたわけではあるまい。いくら強くとも勇者の卵の中では大きく動くこともできんよ」
そんな会話をただ傍観するだけの機関長、ブレイブにいくつかの視線が向けられました。
視線を向けたうちの一人が眉間にシワを寄せて尋ねます。
「何か考えがあるんだろうな」
目をつぶっていたブレイブ=リザードはゆっくりと目を開き、一言。
「有能だから、それだけで充分だろう」
その言葉が頭に来たのか何人かが立ち上がり会議室を出ていってしまいました。
「話にならん!何か問題が起きたとしてもお前ら賛成派の責任だからな!」
最後に出ていった人間がそう言い放ち扉を叩きつけるかのように締めます。
そんな人間達の様子にブレイブは嘆息しました。
「…勇者育成機関のトップともあろう者共が…何をそう恐れる?見ればわかるだろうに。彼は魔人などではない。ただ、強い力を持ちすぎただけの…」
呟き、手元の映像水晶データを一瞥しました。
「勇者だよ」
一章一区切りですかね〜