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勇者の強くてニューゲーム  作者: 千歳衣木
三章 たった一人の旅路
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八十四話 「いこうか」

 ベルナイア。それがこの街の名前でした。娯楽と女と暴力の街と呼ばれるこの最前線の街では、様々な冒険者や沢山の勇者達が奮闘し続けています。

 そんな別称とは裏腹に、質実剛健とでも言うようなそびえ立つ外壁を見上げながらエルロッド達が街に入ると、どこからか人々が集まってきました。

 何が起きているのかと訝しげな雰囲気でありつつも笑顔は崩さない商人に、警戒感を隠そうともせず相手を確認する勇者。しかしエルロッドのその顔は徐々に笑顔へと変わっていきました。


 「……お前ら!」


 「なんや、遅かったな、ジブン!」


 集まってきた人々は、勇者育成機関で出会ってきた勇者達でした。なぜ一言目がキングなのかは疑問でしたが、きっと指揮能力の高さを存分に発揮して勇者軍の指揮官とでもいうべき立ち位置に収まっているのでしょう。

 周りの勇者達はエルロッドが魔人だと思ってはいますが、恐れてはいないようでした。


 「はは、悪い。思ったより手間取っちまったな…」


 素直に謝る魔人エルロッドに少し意表を突かれた様子のキングでしたが、学生の頃からそうだったと思い返すと、おう、と返事をしました。

 アキンドがエルロッドの様子を見てどうやら勇者達だと気が付くと、ゲシュタルト商会の宣伝を始めました。といっても、みんなはエルロッドとは違ってゲシュタルト商会のことをよく知っている上に利用もしていましたが。


 「そういや、イムとフレデリカは…」


 「呼んだかい、エルロッド君?」


 エルロッドがふと、よく知った顔がいないことに気付きそう呟いた途端、背後の人混みからイムが躍り出てきました。文字通り躍り出てきました。


 「お、おぉ、いたのか。……いや、今来たのか?」


 タイミングの良さに驚いたエルロッドでしたが、そういうこともあるだろうとそう尋ねると、このふざけた不死者は薄ら笑いを浮かべて首を横に振ります。


 「いやいや、エルロッド君が気付いた瞬間に出てこようとフレデリカ嬢と決めてたんだよぉ」


 「へぇ。そんで、フレデリカは?」


 イムが出てきた方に視線をやるエルロッド。そちらでは、身体能力が足らずに中途半端に人混みからはみ出ているフレデリカが心なしか頬を赤らめて恥ずかしそうにぷるぷるしていました。イムは華麗に躍り出てきたのですが。


 「あれか」


 「あれだね」


 「うるっさいですわね!燃やしますわよ!」


 相変わらず妙な言葉遣いですが、フレデリカだなぁと思ったエルロッド。にこやかに笑っています。

 何を笑っているのかとエルロッドを睨みつけて威嚇するフレデリカ。それをイムがなだめます。そんな光景を眺めていると、人垣の一角がざわめいて、二つに割れました。


 「おや、何かと思えばエルロッドさんではないですか」


 「なぁにが何かと思えば、じゃ。エルロッド・アンダーテイカーがこの街に到着したら知らせるように命じたのは其方じゃろうが」


 長い銀の髪を揺らしながら柔らかな笑みを浮かべてやってきたのは、ベルルカ・レオン・ハルバード。その隣で溜息をつきながらジト目でベルルカを見る着物の幼女が、シキ・ヨイヤミ。どちらもエルロッドには届かないまでも規格外の強さを持つ強者でした。


 「ベルルカ、シキ……それでこんなに人が…歓迎会みたいなものだと思えばいいけどさ」


 エルロッドも苦笑いを浮かべます。

 するとベルルカは心外だというように言いました。


 「こうでもしなければ、貴方は一人で魔王を倒しに行ってしまいそうですので」


 「そんなこと…」


 ない、と言いきれないエルロッドは言葉に詰まります。アキンドがそれを見てニコニコしました。


 「まぁそういうわけである。どうするであるか?ここの皆は全員いつでも出撃できるであるが」


 ベルルカ達に続いて姿を現した巨漢はアザト・バッシュです。純粋な力は人間の限界をはるかに超えています。

 その厳しい顔に疑問符を浮かべるアザトに周囲は少なからず恐怖している様でしたが、そこはエルロッド、屈託のない顔で答えました。


 「アザト!折角だけど、今日は休もうぜ。その代わり、明日の朝からピクニック、ってのはどうだ?」


 勿論魔王領に。

 ニヤリ。笑い合うふたり。

 アザトが口を開こうとした途端、アザトの頭を踏み付けてくるりと回って華麗に現れたのは、稀代のミミック娘、ヒスイ・ミミックでした。


 「痛ぁ!?」


 「ピクニックー!?明日はピクニックなのかにゃ!?いくいくいくー!ヒスイも行くー!」


 思い切り舌をかんだ様子のアザトを意にも介さず喜色満面のヒスイ。ピクニックだー!と叫んでベルナイアの石畳の上で軽快な足音とともに踊っています。

 ヒスイに「一緒に行こうなー」と言ってエルロッドはにこり。その後あたりを見回して、ハココはどこにいるのか尋ねました。


 「あぁ、彼女は今少し旅に出ていますよ。ここから南東に向かった所にあるという超古代文明の遺跡へ…何の用かは知りませんが」


 どうやらハココはこの場所にいないようです。むしろSクラスが四人も揃っていることの方が異常なくらいだと考えると、ハココがいなくてもするりと納得してしまうエルロッドでした。



―――――



 夜を明かした勇者達は、ベルナイアの北にある旧コルサーム領――そのさらに北、遥か遠くに感じる禍々しい気配に向かって旅を始めました。

 前回は三ヶ月掛けてどうにか辿り着いた魔王領。通常、戦闘など抜きにすれば一月ほどで行ける距離にあるそこを目指します。


 「気を付けるのですぞ、エルロッド殿」


 「あぁ。任せとけ」


 ベルナイアで留守番をするアキンドは、絶望の象徴とも言える魔王と相対するため死地に向かうエルロッドに対して、全く悲壮の表情もなく笑顔で言いました。応ずるエルロッドもまた笑顔です。


 「さて…いこうか。最終決戦はすぐそこだ」


 エルロッドの決して大きいとはいえない一言はしかし、総勢二百名あまりの勇者達全員の耳に届きました。

 月曜日と金曜日は更新サボりがち、千歳衣木です。


 空気になりがちなアキンド、ついに置いていかれる。まぁ前話で言ってましたが。


 プライベートで色々あって精神が疲弊しています…ので、エルロッドには爽快な旅をしていただいてストレス発散したいと思います。


 いつもお読みいただいてありがとうございます。これからもよろしくお願い致します。では、また。

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