表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の強くてニューゲーム  作者: 千歳衣木
三章 たった一人の旅路
80/91

七十九話 「本当の魔人」

 エルロッド達がノーザスの前まで来ると、衛兵が二人近付いてきました。


 「何者だ」


 「ゲシュタルト商会の会長、アキンドと申しますぞ。こっちは護衛のエル君」


 「へぇ、あっしは護衛をさせてもらってる…やす、エルと申しやす」


 誰だよ。思わず真顔になったアキンドでしたが、すぐに笑顔を浮かべると身分証の提示をして、衛兵に言いました。


 「面白い品をいくつか持って来ました。領主様もお気に召すかと」


 「…行商か。ゲシュタルト商会長なら通さぬわけにもいくまい。だが領主様は今御病気を患っているのでな…会えたとしても衝立越しとなるがよろしいか?」


 「おや…それはそれは。ではこちら、万病に効くと言われる珍しい薬草を…これからも良き取引相手になっていただけると信じておりますぞ」


 アキンドさん、領主は別人になってる可能性が高いって自分で言ってたのに忘れたのかな、と不安になるエルロッドでしたが、まぁ一流の商人らしいし大丈夫かと思い直して勝手に安心するのでした。


 アキンドとの話がついた衛兵は、門を開いてアキンド達を中に通します。

 先ほどとは別の衛兵が先導として立ち、どうやら領主の館まで直接連れて言ってもらえるようです。


 「…アポとか取らなくていいのか?」


 「こういうこともたまにですがあります。領主様に予定がない時などは領主様の館にてお待ちさせて頂くのですぞ」


 「…ふん」


 エルロッドとアキンドの会話はモノ知らずな護衛と親切な雇い主という関係にしか見えなかったようで、衛兵は鼻で笑いました。



―――――



 「馬鹿め…馬車も持たぬ行商など信じるわけがあるまい。手持ちでいくつか持っていた珍しい品を奪い、殺して終いだ」


 街を守る衛兵たちの詰所で、衛兵がニヤニヤと下卑た笑いを浮かべながらそう吐き捨てます。

 その場にいるふたりの衛兵も同意してくっくと笑いました。壁にかかったランプの火がユラユラと揺れています。


 「違いない。しかし…モーノ様に領主が変わってから、随分と楽になった」


 狭い部屋は蒸すようで、一人の衛兵が窓を開けながら呟きました。窓を開け、そのまま木造の机の上に座って足を組むと、あくびをひとつ。


 「全くだ。ノーザスは末の娘を除いて全員が外道だったからな」


 それを見た同僚は、上司が来たら怒られるぞと思いつつそう言うと、水筒を取り出して水を飲み始めました。


 「何も知らずに可哀想に…領主を止めようとして地下牢に入れられて久しい。モーノ様も出して差し上げればいいものを…」


 「簡単に行かないのだろう。なんせ外道とはいえ自分の親を殺した相手だ。民の暮らしが良くなっているからと行って、そうやすやすと結婚など…」


 水を飲む男をよそにそう言い合うと、目を合わせてため息をつきます。


 「…うむ、そうだな…それにしても、暇だ」


 「することがないな。困った」


 日頃からやることのないノーザスの衛兵達は、今日も暇を持て余すのでした。



―――――



 「見た目は魔族だ」


 「そのようですな」


 領主の部屋に入り、「このままで失礼する」と申し訳なさそうに言う声を無視して衝立を引き倒したエルロッド。

 案内してきた衛兵は凍り付き、領主のベッドで寝るモーノは顎が外れるほど呆然と突然の暴挙を起こした勇者を見ています。


 「えっと…どういう…了見…ですかゴルァ!」


 段々と状況を理解したらしいモーノ。セリフのクレッシェンドがすごいです。


 「また魔族の暗躍だろ?色々考えるのめんどくさいし、一発殴らせてくれよ」


 「貴様もしや巷に聞くごろつきの類か!?」


 口の端を吊り上げ、拳を鳴らしながら近寄るエルロッドに向かって叫ぶモーノ。あと一歩で届くという距離になってようやくベッドから跳ね起きて距離を取ります。


 「くっ、本当になんのつもりだ!私が何者かわからぬのか!?」


 臨戦態勢ながらも自分の顔を指さして叫ぶモーノ。対するエルロッドも叫びます。とても真剣な顔で。


 「誰だテメェ!」


 「…えっ…」


 ここでようやく異常な自体に気付いたのか、扉の外に待機していた衛兵が「敵襲!」と叫びました。領主の館が俄に騒がしくなり、たくさんの足音が近づいてきます。


 「…私を愚弄した罪、許さぬ!皆のもの、やれぃ!」


 自信たっぷりにポーズまで決めてエルロッドを指さすモーノに従い、各々武器を突き出す衛兵。狭い室内では槍は不利ですが、もはや壁とでも言うべき密度で放たれる突きを交わすことはそう簡単ではありません。

 故にエルロッドは全ての槍を叩き折りました。


 「室内で刃物とか振り回すなよ!危ないだろうが!」


 そして逆ギレ。衛兵に向かって怒鳴るエルロッドの背中は完全に隙だらけ。モーノは腰に吊ってある直剣を音も無く抜くと、実に精密な動作で足音を殺して踏み込み、斬りかかりました。


 「取っ…」


 ぶお、と風を切る音が部屋を満たします。


 「だから室内で武器を振り回すな」


 いつの間に振り向いたのか、エルロッドが足を蹴りあげた状態でモーノを睨みつけていました。


 「…刃?」


 「ここだ」


 手に持つ柄の先に美しい直線を描く刃が無いことに気づいたモーノがエルロッドの指差す先を見ると、蹴りあげられたと思われる刀身が天井に突き刺さっていました。


 「なん…だ…おまえ…」


 靴を履いているとはいえ、単なる布製の靴で振り下ろされた剣を真っ向から破壊するなど人間業ではありません。


 「俺はエルロッド。エルロッド・アンダーテイカー。職業は勇者だ」


 その言葉を聞いたアキンド以外の人間が自然と一歩後退りました。


 「ここまで轟いていたのですな、エルロッド殿の名は」


 アキンドが青い顔に冷や汗を流した衛兵達を見回し、感慨深そうに呟きます。


 「…ま…魔人…エルロッド…」


 「まぁ俺が勇者として恐れられてるとは思わなかったけどさぁ」


 少し苛立ち気味に告げるとエルロッドは腰を抜かしているモーノにゆっくりと近付いて訊ねます。


 「さて…本物の領主様方はどこにいるのかね?」

 いつもお読みいただいてありがとうございます、昨日に引き続き頑張って執筆した衣木千歳です!愛用のエコバッグを無くしてエコという名前を改名するかどうかで迷っています。


 大抵執筆時間が朝になりがちなので寝惚けてますが、私は昼も夜も寝ぼけているので、いつ書いても同じだという結論に達しました。

 幼女が好きなのですが、どこかいい幼女カフェはないものでしょうか。


 連日更新すると後書きに書くこともそう無くなってきて、いわゆるネタ切れというものなので、今日はこのあたりで。

 千歳英孝でした!またね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ