七話 「バカが動いても碌なことにならない」
課題に忙殺されています
五十人近くの盗賊が倒れた廃鉱前の広場で、エルロッドは悩んでいました。
「こいつら一度に運ぶのすごくめんどくさい」
と。
もちろん魔力量には余裕がありますし、全員飛行魔法を掛けてもいいのですが、疲れるものは疲れるのです。
一度帰って誰かに連絡取ってみんなで運んで貰おうか。そう考えて振り向いたエルロッドと目が合ったのは、冒険者五人のパーティ。
目が合う距離では無かったはずなのですが、何せ規格外の勇者。見えないわけがありません。
一瞬にして冒険者パーティの傍まで近付くと、「ちょうど良かった。こいつらもう使い物にならないだろうから引き取って欲しいんだ」と笑顔で盗賊たちを指さしました。
まぁ勇者、テテアに来たのは盗賊を捕縛するためだけで、魔人という誤解を解いたりしたいわけではありません。
つまり、盗賊を捕縛したらさっさと次の街へ向かうつもりだったのです。ここで引き渡してそのまま次に向かえるなら万々歳、と冒険者たち迷惑など微塵も考えずに飛んでいってしまいました。
そもそも、勇者は自分が魔人だと思われてることすら知りませんし。
一方残された冒険者たちは頭を抱えていました。運ぶ方法がないことと勇者のセリフについてです。
「いやこれ…こんなにどうしろっていうんだ…」
「そもそもあいつさっき、使い物にならないだろうから、って言った?」
「…あの魔人の手下だったけど、役に立たなくなったかなにかで切り捨てたってこと?」
「こええな!?」
「これは報告しないと…」
こうしてどんどんエルロッドが極悪な魔人に仕立てあげられていくのですね。
―――――
テテアの街の冒険者ギルド、依頼報告カウンターにて。
五人の冒険者たちが受付嬢に詰め寄っていました。
「あれは単なる魔人ではありません!人間の悪人も操り自分の駒として扱い、使い物にならないと判断したら即切り捨てる。冷酷かつ頭が回る…魔王軍幹部クラス、下手したら次期魔王かも知れません!」
いないところで好き放題言われちゃっていますね。この誤解を招いたのはエルロッド本人なので自業自得なのですが。
「なるほど、そのような特殊技能まで…これからどこに行くのかはわかりませんが、マークしておかなければなりませんね。報告ありがとうございます。お疲れ様でした」
受付嬢はエルロッドが予想より遥かに格上の魔人のようだと知り内心穏やかではありませんでしたが、その動揺を表に出すことなく落ち着いて冒険者パーティに応対しました。
「あぁ…ただもうこんな依頼は一般に出さない方がいい。最低でもA…それ以上のランクでないと危険だ。生きた心地がしなかった」
疲れきった顔でそう言うと、冒険者パーティはゆっくりとギルドを後にしたのでした。
そしてその頃の勇者ですが。
「次の街とその次の街は…悪徳商人に騙されたことと人買いに連れ去られた女の子を助けた覚えしかないな…」
前回の勇者人生を思い出して次の街に行くか否かで迷っていました。
二つの街を飛ばせばすぐにでも王都の勇者育成機関に入学できるのですが。
「…まぁ人助けは勇者の基本だな。悪の組織は潰すに限る!」
基本的にはお人好しな勇者なので悪い芽は先に摘んでおくことにしたみたいですね。
また妙なことにならないといいのですが。
―――――
「ふあぁ、暇だな」
「全くだ。平和すぎる」
ここは旧王都、アトル。遥か昔は世界で最も栄えていた街です。
その内と外を繋ぐ四つの門の一つの検問で二人の兵士が欠伸をしながらだらけていました。
「やることがないな」
「せめて商人でも通ればいいんだが…」
上司に見られても怒られないギリギリの態度でそんな事をつぶやく二人。王都の次に栄える街とは言え、あくまで旧王都。暇なものは暇です。
「ちょっといいか」
そうしてだらけきっていた二人にかかる少年の声。
気配も足音もなかったため完全に油断していた兵士の片方は急に立ち上がり膝を机にぶつけ、もう片方は椅子ごと後ろにひっくり返りました。
「なっな、なんでしょう!?」
落ち着いた方がいいと思います。
慌ただしくなった検問を見て苦笑する声の主はもちろん、我らが勇者エルロッドです。
「あー、街に入れて欲しいんだけど…」
「あっはい!!ではこちらへ…」
こうして勇者は旅立ちから二日にして普通なら三週間かかる距離を踏破してやってきたのでした。
「さて、軽く仕事してさっさと王都に向かおう」
―――――
報告します。
本日アトルの街にて大規模な違法商会の一斉摘発。一般人からの情報提供があったとのことです。
さらに同日、トゥバの街にて人攫いと脱獄中の犯罪者数人を拘束。十数人の少年少女が保護されました。
我々も手を拱いていた案件だったため、立て続けに解決されたことは非常に喜ばしいのですが、問題が一つ。
アトル、トゥバ両方において例の魔人の暗躍が確認されています。
短時間の間に長距離を航行する技能の所持が確定しました。それから、徐々に王都に接近しているようです。お気を付けください。