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勇者の強くてニューゲーム  作者: 千歳衣木
三章 たった一人の旅路
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七十八話 「ヒトという魔物」

 「まだ王都にはバレてないと思っていい。このタイミングで王都から人がやってくるとは思わなかったが…おそらくあいつはただのアホだろう」


 「…ちゃんと王都の方に言えば、どうにかならないのかしら…やっぱり言った方が…」


 「もう遅いさ。どう言い訳したって殺してしまったら俺たちは悪だ。それに…」


 「…やっぱり…もうダメなのか…」


 階下に降りたエルロッドはそんな会話を耳にして足を止めました。一体この人たちは何を言っているのだろう…やはり正体は魔物だったのだろうか、とエルロッドが考え始めた時、宿屋の扉が開いて一人の男が入ってきました。くすんだ灰色の髪から魔力の塊のような角が二本生えていて、明らかに人間ではないとひと目でわかる姿です。

 服もまた、庶民とは違ういい生地を使用している燕尾服。位の高い人物だということが分かります。


 「ここか?王都からの来訪者がいるという宿は…」


 「は、はい…お願いします」


 男の言葉に確固たる意志を持って頷く女将や男たち。その様子に満足そうに頷いた魔族の男は大仰な仕草で両手を広げて言います。


 「可愛い下々の願いだ…多少強い程度の冒険者など…私が始末してくれよう!」


 二階へと上がっていく男を見送ったエルロッドははっと我に帰って焦りました。いないことがバレると何やら面倒なことになるのでは…。

 そんなエルロッドの不安は的中します。


 「おらぬではないかァ!」


 「そんな馬鹿なァ!?」


 魔族の怒気を孕んだ叫び声に次いで男の謎のテンションの叫び声が聞こえてきました。


 「勘づいたかゴミ虫の分際で!どこに行きよったァ!?自ら探し出して八つ裂きにしてくれる!」


 「お願いしますモーノ様ァ!」


 宿屋の窓を突き破る勢いで飛び出そうとしたモーノと言うらしい魔族は、男の嘆願の声を聞き、うむ、と力強く頷くと階段を降りていき、玄関から出ていきました。


 「…何でいなくなったんだ…まさか…本当に気付い」


 「あの」


 「ラァイ!」


 物凄く真剣な顔で考え込む男にエルロッドが後ろから話しかけると、凄まじい勢いで肩を震わせながら奇声を発して振り向きました。


 「あっ、ごめん。ちょっとトイレ借りてたんだけど…なんかあった?騒がしくなかった?」


 白々しい勇者がいたものですね。しかし男はエルロッドが逃げていないということと、どうやら話を聞かれていないことに安堵しました。


 「あぁ、憲兵が来ただけですよ。定期的に巡回して魔物を探す必要があるので、よくあることです。気にしないでください」


 よくもまぁこんな嘘がつけるものですね。罪悪感の欠片も見当たらない笑顔です。エルロッドが先程の会話を聞いていなければ騙されていたところでしょう。


 「あ、そうなんだ。ありがとう」


 「いえいえ。ゆっくり休んでください」


 「うぃっす」


 エルロッドは自分の部屋の扉を締めると、穏やかな笑顔から一転、荷物を纏めて外に転移しました。

 宿屋の屋根の上に移ると、索敵魔法を展開しました。と言っても、索敵魔法で先程の魔族らしき男、モーノを見つけ出せるとは思っていないのですが。


 「あいつも…人間と同じ波長だったな…」


 人間と接する際に余計な威圧感を与えないように人間の波長に偽装しているのだとしたら説明がつかなくはないですが、そうなると人間と魔族が協力しているということになります。

 つまり、最初から人間に化ける魔物は存在せず、人間と魔族が協力して暗躍しているということになるのです。


 「参ったな…わからん。騙されてたのか、俺は…」


 考え込むエルロッドでしたが、急に顔をあげると一人で考えていても仕方ないと思い立ち、ノーザスの外へと飛び出しました。



―――――



 「意外と早くて驚きましたぞ」


 「俺はあんたがピンピンしていることにビックリだ」


 エルロッドがアキンドを下ろしたあたりに向かっていると、街道をのんびりと歩くアキンドを見付けたので降りてきたのです。

 少し頭や荷物に葉が乗っていたりはしますが、盗賊や魔物に襲われた形跡はありません。


 「数時間も経ってないとはいえ、戦闘手段もないのによくそんな呑気に歩いていられるな」


 呆れ気味にエルロッドが言うと、アキンドはどうせ敵にあったら終わりなのですから、こそこそしても仕方ありますまい、と笑ってみせました。笑い事じゃないのですが。


 「そうか…まぁ無事でよかった。危険なとこにおいていって悪かったな…」


 「何、しがない商人ひとりの命よりノーザスという街全体を優先するのは当然の帰結ですぞ。むしろあそこでああしていなければ、私はエルロッド殿を軽蔑し、呪い、やがて我が身を削っても禁呪に手を出し、地獄の業火にて永遠の苦しみを味わってもらうことになっていたでしょうからな」


 「罪重いな!」


 エルロッドは早速アキンドと今回の件を話し合うことにしました。

 するとアキンドは即座に結論を出して見せます。


 「それでしたら…最近はノーザスからの税収が増えすぎていて恐ろしいと国王様がぼやいておりましたな」


 「どういうことだ?」


 「不自然なのですよ。この時勢、他所からの難民も少なからずいる中、税収が跳ね上がるとなると、無理な徴税を行っている可能性が高いのです」


 「まぁそりゃそうだろうな」


 アキンドの言葉に頷くエルロッド。


 「今までは全くそんなことはなく、むしろ赤字になる程税収が少なく、問題になるくらい民に優しいというのがノーザス領主の評判でした」


 「へぇ。なんで急に変わっちまったんだろうな」


 「そこは推測にすぎませんが…例えば洗脳技術を持った魔族の仕業であったり、領主に成り代わって人間の力を弱めようとする策略であったりしたかもしれません…ですが!」


 アキンドが身振り手振りを交えて話すのをエルロッドが聞いています。歩きながらだというのに器用なものです。


 「恐らく今起きているクーデターのことを鑑みるに、圧政で民の力を削るとしてもノーザスのみでは大した打撃にはなりません。むしろ国全体からすれば税収自体は潤います」


 「なるほどなるほど…今クーデターって言ったな?」


 エルロッドがきょとんとした顔で訊ねます。


 「はい。恐らくですが、現在無理な政を行った領主達は一族郎党皆殺し…新たに指導者になる者が街にいるかと思います。ですが…魔族、ひいては魔王軍の仕業だとすれば、こんな回りくどい手でノーザスを弱らせるくらいなら直接襲撃するほうが効率がいい。それが疑問なのですぞ…」


 エルロッドは再度なるほどとうなずいてみせました。アキンドがうーんと唸るなか、エルロッドが呟きます。


 「魔王に滅ぼされる前に贅沢がしたかった、とか…ないか」


 「…そ、そんな馬鹿なことが…ないとは…言えませんな。善良な領主とて、人の子ですからな…」


 アキンドとエルロッドは顔を見合わせ、直接当事者に聞かなければ答えの出ない問にため息をつきました。

 およそ十数時間ぶりです。千歳衣木です。サボりませんでしたよ!物語の展開に頭が痛くなってます。ここからどうしようかなーとか…いやプロットは組んでるんですけども。大雑把すぎて何話構成にするかすらもまともに決まっていな…あ、今の聞かなかったことにしてください。


 一話を書いた時から何話で何を描くかを決めていて、大まかな終わり方ももちろん決まっています。ええ。決まっていますとも。まぁここで話してしまうとネタバレになってしまい面白くないので、何も言いませんが。

 決して浮かんでいないわけではないです。はい。


 というわけでこれからも自分の敷いたレールから外れて執筆し続けていきたいと思います。応援していただけると幸いです。

 千歳衣木でした。さよなら。

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