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勇者の強くてニューゲーム  作者: 千歳衣木
三章 たった一人の旅路
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七十七話 「暗躍」

 「い、いえ、俺は魔物じゃないです…っ!」


 エルロッドにお前らは魔王側かと訊ねられた男はひどく慌てた様子で否定しました。その視線は一瞬エルロッドから外れ、周りで無様に転がる味方を見て、無傷のエルロッドに戻りました。


 「どういうことだ?何故俺を攻撃したんだ?」


 「さ、さぁ?あはは…」


 いや笑ってる場合じゃないだろ、とエルロッドは呆れ顔です。これから会う人全員から突然襲われてはいちいち面倒なので、エルロッドはノーザスで何が起きているのかだけでも聞くことにしました。


 「さっき外から黒煙が見えたんだけど、ここで何が起きてるんだ?」


 「いや、その…」


 歯切れの悪い男。

 仕方が無いのでエルロッドは自分なりに状況を整理することにしました。

 ベルナイアに次ぐ前線、人が人を襲う状況、立ち上る黒煙、恐らくは少数精鋭の相手…ここから推測されるのは。


 「なるほど。…凄まじく高い擬態能力と戦闘力を併せ持つ魔物の襲撃か」


 「え?」


 勇者の出した結論に呆気に取られた顔で目を見開く男。


 「正解みたいだな。安心してくれ。どんなに精巧な擬態でも、警戒していれば見破るのは簡単だ。俺がいる限りこの街は守ってやる」


 エルロッドの決して大きくはない、ですが頼りがいのある声が開けた広場に浸透していきます。

 そんな勇者に笑顔を向けると、男は心から助かったという表情で言いました。


 「そ…そうなんです…!もう俺たち大変で大変で…うっ…うっ…」


 そこでエルロッドは周りを見渡しました。まるで統一感のない武器や装備を見るに、急遽作られた自警団のようなものでしょうか。この状態では確かに、怪しいものは攻撃するというスタンスでなければ勝てないのかも知れません。

 相手がただの人間であった場合、それは犯罪行為と変わらないですが、魔物相手に挑んで戦ってやるという心意気は評価すべきものでした。


 「よく頑張った。…とすると、こいつらには悪いことをしたな。回復(ヒール)


 エルロッドが申し訳なさそうな顔で魔法を行使すると、周りの男達の顔の腫れが引き、呻き声も安らかな吐息に変わっていきました。やがてゆっくりと何人かが起き上がり始めます。


 「…えっ」


 最初に起こされた男が焦りの表情に変わります。


 「魔法が珍しいのか?」


 「あ、はい、は、恥ずかしながら…」


 エルロッドの問いに真っ赤な顔で答える男。納得したエルロッドは起き上がった他の男達に向かって頭を下げます。


 「悪かった。これからはお前達の力になるよ」


 謝罪というには横柄な態度ではありますが、男達も問答無用で襲いかかったという負い目から何も言えません。

 というより、何が起きているのかわからずに面食らっているのでした。


 「え…と、これは一体…」


 「ほらあの、人に化ける魔物!あいつらから俺たちのことを守ってくれるんだってよ!!いやー助かった!」


 不思議そうな顔の男達でしたが、少しずつ理解したようで、歓声をあげ始めます。


 「…え…あ…本当か!助かった!」


 「よ、よかったああ!これで俺たちは…!」


 「こんな強いひとが…心強いぜ…」


 嬉しそうな彼等の声が広場を超えて建物に反響します。エルロッドもつられて笑顔になりました。



―――――



 エルロッドは宿屋に案内される道すがら、ノーザスの詳細な状況を男達から聞かされていました。


 「実は気付かれないうちに領主様がすり変わっていたらしく…あまりにもひどい圧政を敷くものですから、直訴しに行ったのです」


 「ふむふむ」


 「ですが、直訴しに行った住民達は皆口を揃えて『領主様の深い考えに感動した。このままでいいのだ』と言うものですから」


 「全員すり変えられたと…」


 「はい。ひとりが誤って落馬し、首を折って死んでしまったのですが…醜い化物の姿に変わっていき、どうやら入れ替わっているということがわかったのです」


 「なるほど…」


 死んで姿が変わるまでわからないということは、身近な人物でも言動や性格の変化からは分からないくらい精巧に成り代わっているということになります。

 ただの人間では対処が難しいのも仕方ないな、とエルロッドは小さく頷きました。


 「さ、ここです。お寛ぎください」


 「ありがとう」


 そうこうしているうちに宿屋に辿り着いたエルロッド。女将さんに男が何事か耳打ちすると、快くいい部屋を無料で貸してくれました。


 「私たちの街を助けていただけるのなら、お金など…」


 「…お金ならあるんだけど…お言葉に甘えます」


 厚意を無駄にするのもどうかと思ったエルロッド。微妙な表情で階段を登り、与えられた部屋に向かいました。


 「さて…魔物を見つけると言っても、遭遇戦じゃらちがあかないし」


 少し前にベルナイアでも使った索敵魔法でノーザスを覆います。ベッドに寝転がりながら片手間に常識外れなことをしないでもらいたいところですね。


 「…あれ?」


 魔物の波長を探るエルロッドが違和感に気付きます。

 この街には人の波長しか感じられないのです。


 「波長さえも偽装する魔物…!?そんなのいるわけ…」


 そうは言いましたが、いないとは言い切れません。あくまで軽い索敵程度なら魔物の波長を纏って誤認させることは、エルロッドにもやろうと思えばできますから。


 「となるとまずい…うまく出し抜かれた可能性がある…!」


 最初に会ったのが魔物である可能性を考えると、なかなか危険かも知れません。

 エルロッドは認識阻害の魔法で自分を隠すと、階段を降りて女将たちのいる食堂へと近づいて行きました。



―――――



 ソレは、隠れ潜んでいた。強い魔力と天才的な頭脳をひた隠しにして、自分を守るように生きてきた。

 ソレは、常に影にいた。決して表舞台では戦わず、弱者を演じ続けていた。


 ソレは、歓喜していた。望んでいた時が来たことに。自らの計画が実を結ぶことに。


 強い魔族としてこの世界に君臨する未来を夢見て、薄暗い部屋で笑う。


 「人間なんて愚かなもの。見ていてください、魔王様。必ずや、勝利を」

 どうも一ヶ月ぶりです、サボり癖の付き始めた千歳衣木です申し訳ございませんこんにちは。

 前にどこまで書いたかすら忘れてました。ノーザス編プロットが無ければ確実に死んでました。


 死ぬとか良くないですね。

 ノーザス編はそこまで長くなる予定はないですが、三、四話くらいはかかると思います短いですねびっくりびっくり!


 冗談は置いておきますが、終わりも見えてきてますので走り切れるように執筆していきたいと思います。既に失速気味なのは指摘した人から謎の失踪を遂げるとかなんとか…。


 …というわけでいつもお読み頂いてありがとうございます。これからも頑張りますので、見捨てないで読んでいただいている読者の方々、これからも宜しくお願いします。

 それではこのあたりで。失礼しました。

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