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勇者の強くてニューゲーム  作者: 千歳衣木
三章 たった一人の旅路
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七十話 「最前線」

 嘘をついた人間が思い浮かべた死を再現する、真実の口という魔法。魔女狩りの男達が真実の口によって一人残らずどこかへ消えたあと、エルロッドは攫われた魔女達をどう送り返すか迷っていました。


 「全員連れて飛んでもいいんだけど…ちょっと遠いしなあ…」


 手際よく魔女達の拘束を解きつつ呟くエルロッド。最初はあまりに凶暴な魔法に怯えていた魔女達でしたが、エルロッドが正義感が強いだけの馬鹿だとわかってからは落ち着いた様子でした。


 「あのー、えっと…」


 「ん?どうした?」


 魔女の一人がエルロッドに声をかけようとして、名前を聞いていないことに気付きます。


 「…な、何さんでしょうか?」


 「…ん?」


 一瞬何を言われたのかよく分からなかったエルロッドでしたが、すぐに理解すると優しげな笑顔で答えます。


 「あぁ、エルロッド。エルロッド・アンダーテイカーだ」


 勇者が口にした名前に頷く魔女。


  「エルロッドさん、ですね。助けてくれてありがとうございます。…あの、地下にある転移陣で帰ることは出来ないんでしょうか?」


 先程からエルロッドの独り言を聞きながら魔女達全員が思っていたであろう質問です。


 「あぁ、残念ながらサリィヘイムとベルナイアを繋ぐ転移陣は隠蔽工作のために壊されてるんだ」


 エルロッドは気付いていなかった訳では無いのですが、転移陣を使ってきた訳では無いので知らなかったのです。


 「いえ、この家の地下にはサリィヘイム以外の街への転移陣もあります。ほかの街経由でならすぐに戻れるんじゃないでしょうか?」


 そう、それぞれの街にはサリィヘイムの魔女狩りのアジトのように、いくつもの転移陣が設置された家があるのでした。

 魔術都市サリィヘイムが本部だったからあんなにたくさんの転移陣があると思い込んでいたエルロッドでしたが、よく考えれば行き来がめんどくさくなるのに簡単に転移陣を壊すわけないな、と納得しました。


 「…それじゃ、どっかの街経由で帰るか。みんな立てるか?」


 エルロッドが魔女達に声をかけると、先程とは別の魔女が元気に手を挙げました。


 「はーい!はい!私、ベルナイアの冒険者街見たーい!です!」


 「いや今帰るって言ったじゃねえか!」


 突然の申し出にキレ気味のエルロッドでしたが、最前線と言われるこの街の状況がどうなっているのか見ておくのは悪いことではないはずです。


 「えぇ、ケチ!」


 「私も冒険者街見てみたい!」


 お前らここで売り飛ばされるはずだったんだぞ、と思いつつも、救われた彼女達の恐怖をわざわざ掘り返す必要もなければ、エルロッド以上の護衛もいません。


 「……ちょっとだけだぞ」


 そう言うと魔女達は歓声を上げて走って行ってしまいました。


 「あぁ、サリィヘイムから出たことないのか。普通の冒険者ってのも見たことないんだろうな…」


 魔女達は別に籠の中の鳥という訳ではありませんが、なんとなく切なくなったエルロッド。フッと笑うと魔女達に続いて扉を潜り、ベルナイアの綺麗な石畳に降り立ちます。


 「……おい」


 魔女達の境遇に少し同情したエルロッドでしたが、街に出ると途端に眉間にシワを寄せてブチ切れました。


 「団体行動しろやボケ共ォ!」


 失敗だったと理解させられた時には既に遅く、エルロッドの目の前にいたのは数人のみ。他の魔女達は思い思いに冒険者を眺めたり酒場に入って行ったりしています。


 「待て待て待てそれは良くないぞほんとに」


 エルロッドが焦りながら駆け回り、どうにかこうにか全員を回収しました。

 ある者は冒険者とぶつかり因縁をつけられかけ、またある者は無防備に貴族に近付いて馬車に乗せられそうになったり、またある者はガラの悪いチンピラ冒険者達を返り討ちにしていたり、ほんのわずかな時間で大量のトラブルを生み出していたのです。


 「お前らふざけんなよ、面倒掛けやがって!死にてーのか!」


 エルロッドの凄まじい形相にも関わらず、魔女達は楽しげな笑顔を浮かべて辺りをキョロキョロしています。

 何か喋っているのを注意しようとしたエルロッドは、聞こえてきたセリフにぞくりと体を震わせます。


 「お隣のユキちゃんを買った家はあそこみたいだよぉ」


 「指の一本でも減っていたら我慢出来ないね!」


 「仲間は助け出して、クズは皆殺しよー!」


 きゃー、と歓声が上がる魔女達を見ながら、魔封じのアクセサリーさえ外せばこいつらほっといても大丈夫なんじゃね、とエルロッドは額の冷や汗を拭い、魔女達にこう言い残してベルナイアの冒険者街へ向かって歩き始めました。


 「お前らがやった痕跡はあんまり残さないようにしろよ…?」


 彼女達の元気のいい返事を背中で受け止めつつ、エルロッドは最前線で戦っている同級生達の姿を無意識のうちに探し始めていました。

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