六十九話 「考えたことが現実になる魔法」
人によってはなんか痛そうな描写が入ります。
エルロッドが感じ取ったのは一ヶ所にまとまった多人数の驚愕と歓喜。今いる場所からは少し離れていますが、さしたる問題ではありません。
エルロッドはすぐに男達の大体の座標を算出すると移動しました。
「うっ、うわぁあ!?」
「なんなんだよお前はぁあああ!?」
転移によって、突如仲間の身体の中から現れたエルロッドに慌てふためく魔女狩りの男達。
「悪い、座標ミスった」
そう言いつつ、悪びれた様子もなく服についた血や肉片を払っているエルロッド。
転移は単純な座標と座標の点移動ですが、その際転移した先に物があった場合どうなるのか。
転移魔法は空間と空間を移動する魔法ですが、正確に言うならばモノそれ自体ではなく、空間自体を無理矢理ねじ込む魔法です。先程のエルロッドと男のように、転移した空間にある物質は硬度に関係なく引き裂かれます。
例えば小石だろうと転移魔法で相手の体内に転移させれば、魔力の続く限り、予測不可能で防御不可能、そして不可視の攻撃が可能というわけです。
勿論その座標から相手が逃れれば無意味に終わりますが。
複数の相手を目の前にしながらも洗浄魔法まで使って服を綺麗にする勇者に、正気を取り戻した魔女狩りの一人が襲い掛かります。
「な…舐めたことしてんじゃねぇぞおお!」
振り上げた剣がエルロッドの脳天に吸い込まれるように振り下ろされます。純粋な戦闘色ではないにしても、なかなかどうして見事な太刀筋です。
今から起こるであろう出来事を予測し、囚われた魔女達から小さく悲鳴が上がりました。
しかし。
「何のつもり?それ」
エルロッドの髪一本切り落とすことも出来ず、それなりの鋭さと高度を持った魔女狩りの剣はエルロッドの頭部で受け止められ、へし折れます。
魔女達からは安堵のため息が漏れました。
「な…こ…鋼鉄だぞ…!」
「いや、闘気すら纏ってない攻撃とか、その剣が騎士王の聖剣でも通らないから。せめて魔法剣とか使えないの?」
未だに服を洗うのをやめないどころか、ついには服を脱いで洗い始めながらそう言うエルロッド。魔女狩りの男達は頭に血が上っているのか、圧倒的に強いであろう目の前の男から逃げるという選択肢もなく一斉に切りかかってきます。
「…まだ魔物の方が賢いんじゃねーの?これ」
そう言いながら発動したエルロッドの魔法は物理反射。魔王に対して有効な手の一つとして、幼少期に編み出した魔法の一つです。
「ぐぅあっ!?」
「いっ…!」
相手に対する攻撃としてではなく、、自分に対する状態異常として発動することで魔王も打ち消すのが難しくなるだろうと考えたエルロッドが作り出したそれは、純粋な物理エネルギーの作用を完全に跳ね返す効果を持ちます。
作用と反作用を考えるだけでも相手の攻撃は二倍の衝撃で自分に返ってきます。
「…まぁ、武器相手だと精精弾いたり折ったり、手首痛めたりが関の山だな、やっぱ」
洗濯で忙しいので自滅してもらおうと考えたエルロッドでしたがそううまくは行きませんでした。
折れた剣を取り落としたり、手首を抑えたりしながらエルロッドを睨みつける魔女狩りでしたが、当の本人は歯牙にもかけません。
「つかお前らこれ初犯?転移魔法陣あったし、そんなことなさそうだけど」
ちらりと魔女狩りを見てそう尋ねる勇者に魔女狩りが顔を見あわせてから答えます。どちらにせよ武器か人間のどちらかが使い物にならなくなっていてエルロッドに対する攻撃手段もない魔女狩り達は、すぐに殺されないとわかり逃走の算段を立て始めました。
「だ、だったら何だってんだよ」
少しでも時間を稼ぐために会話を続けようとする魔女狩り。
「質問したのはこっちなんだけど…。ほら、初犯なら他に攫われた魔女たちと同じ目に合わせる必要も無いかな、と思ってさ」
魔女狩りたちはそのセリフを聞いて勘違いしました。「どうやら俺達は奴隷になるか見逃してもらえるかの瀬戸際にいるらしい」と。
金と命が惜しい魔女狩り達は、再度顔を見合わせると内心ほくそ笑みながらエルロッドに答えました。
「…ま、魔が差したんだ。ここの貴族達に魔女を捕まえてくれば金をやると言われて、は、初めてなんだ信じてくれ…」
魔女狩り一の演技派が目に涙を浮かべながらそう訴える姿にエルロッドはふっと笑います。
「あぁ、わかったよ。待った、まだ噛むな」
「…?…あ、ありがとう…!」
首をかしげつつもお礼を言う男に笑いかけて優しく言うエルロッド。
「気にするな、こっちの話だ。…そうか、初めてか。じゃあここらの珍しい種族を見るのも初めてか」
「…は、はぁ…?そりゃ初めてだけど、それがどうしたんだ…?」
見逃してもらえると思った男は安堵からか演技も雑になっています。
「じゃあこいつらが売り払われた後、どうなるかを知っているか?」
「えっ、と…それは」
男の言葉の途中でエルロッドは小さく呟きます。
「噛め」
その言葉と同時に男を包む淡い光は赤くなり、男の手に集まっていきます。
何が起こるのかわからず呑気に光を眺めていた男の右手が、なにかに食いちぎられるかのように消滅し、一瞬の静寂の後に男の絶叫が響き渡りました。
「ひ、ぃ、いぃ!?」
その場の全員が耳を塞ぎながらも、その後の男の動きから目を離せずにいました。
「あっ、あぁ、あああ!?」
ゆっくりと目から血が流れ始め、そうかと思うところりと目が抉り出されて地面に転がります。
男達のみならず魔女からも息を呑む音が聞こえ、エルロッドも少し顔をしかめていました。
彼らの視線の先では四肢を切り落とされた男の血が溢れる側から何かに飲まれる音共にどこかへ消えていき、全ての血が溢れ切ったと思うと空間に飲み込まれるようにして遺体ごとどこかへ消えていきました。
「…やり過ぎだろ、真実の口… 」
自分で作り上げた異世界の存在を召喚する魔法にちょっと引くエルロッドでした。
昨日は気付いたら投稿し忘れていた千歳衣木です、この場をお借りして深く謝罪いたします。すまねぇ。
…すみませんでした。
はい、えーと、エルロッドが怒ってる話でした。以上です!明日は更新するかわかりませんが、エルロッドの旅も終盤に近付いて来ましたので、あの人とかと合流するかもしれないです。わかんないです。
頑張って更新するつもりですので、応援していただけると嬉しいです。千歳衣木でした。




