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勇者の強くてニューゲーム  作者: 千歳衣木
三章 たった一人の旅路
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六十七話 「逃走劇は町を越えて」

 「だから、もしエルロッドとかいうガキが私たちを探し始めたら見つかるのも時間の問題だって言ってるんだ!」


 勇者達が全力で魔力の痕跡を辿っているその頃、魔女狩りの隠れ家で一人の女が周りのメンバーを説得していました。ヒステリックです。


 「どれだけ優れてようとたまたま顔合わせただけの店員なんて魔女狩りと結び付けないだろ」


 「万一結びつけたとしても追いかけることなんか出来やしねぇ」


 「というか、余程のインパクトでもなければ思い出すこともないだろうよ」


 口々にそういう男達の周りには無造作に転がされる女性達の姿がありました。歳や種族、髪の色や長さ、見たところ共通点があるようには見えない女性達でしたが、よく見ると一様にクローバーの飾りが付いたアクセサリを身につけています。

 魔封じのアクセサリです。

 あたりで悔しげに男達を睨み付けたり、死んだ目をして転がっている女達を一瞥してから、男達を説得していた女が口を開きました。


 「…アクシデントがあって、雷を落としたのさ。あれで覚えてなかったら本当のマヌケさね。…逃げるか戦うか、どちらにせよ早く決めないとこいつらを捕まえるための努力が水の泡だ」


 そう言うと下を向いてしまった女。男達は顔を見合わせると冷や汗を流しました。

 エルロッドの強さはほとんどの人が見ているのです。


 「よ…よし…見つかるとは思わないが、万が一ってのはあるからな。に、逃げようか」


 「あ、あぁ。怖いわけじゃないが、仕方ない。逃げるぞ…これだけいれば相当稼げる。一旦ベルナイアまで行くぞ」


 そう言って隠れ家の地下に女達を運び入れる男達は、一人の少女がいつの間にか物陰に転がっていって隠れていることに気付きませんでした。


 「転移陣は向こうで破壊する。いいな?」


 「ん、おう…いや、シェファに転移陣を壊してもらえばいいじゃねえか。あいつのヘマで俺達があぶねぇんだからよ」


 男達を説得したことは棚に上げて、説得した女――シェファ――を残していこうと言うのです。シェファは男達を睨みつけますが、力ではかないません。お前も奴隷に加えて売り払ってもいいんだぞ?と言われてしまえば、従わざるを得ませんでした。


 「王都行きの転移陣に乗ればいいじゃねえか!あのガキが追いかけてくるかもしれねえけどな!ハハハ!」


 男達はそう言い残すと転移陣を起動させてベルナイアの街に行ってしまいます。

 シェファはそれを見送ると、渋々ベルナイア行きの転移陣を破壊して隠蔽、その後に王都行きの転移陣に乗って逃げていきました。


 「ベル…ナイア…。…おねえちゃん…」


 明かりも消え、人の気配もなくなった地下室に一人の少女が残されました。縄で縛られ、身動きも取れず、暗闇の中で不安に苛まれながらも、姉を助けるためにその心は決して折らないと決めて。



―――――



 「ここか!まさかあんなに回り道しやがるとは…」


 「サリィヘイムを二往復はしたって話よ…」


 エルロッド達は追跡(トレース)で魔力の痕跡を辿っていましたが、それを見越していたのか、魔道具店の偽店員の魔力は路地裏を通り、クネクネと曲がり、サリィヘイムを端から端までたっぷり駆け回った挙句、魔道具店の目の前の小さな民家に入っていきました。


 「徒労だった…もっと早く気付いてれば間に合ったかもしれないのに」


 エルロッドはそう言いますが、純粋に魔道具店の目の前の家に住んでいるだけの可能性もあることを忘れて、魔女狩りの一味だと決めつけている様子です。


 「まぁ、とりあえず入ってからが本番って話よね」


 二人は頷くと民家の扉を破壊して丁寧にお邪魔しました。修復魔法をかけておいたので問題は…多分ありません。


 「…魔力反応がない…いや、一つだけあるな」


 「魔道具店の店員って話かしら?」


 何故かほんの僅かな明かりすらもない地下室に、不意打ちを警戒するエルロッドでしたが何も起きません。魔法で照明を作り出すと、魔力反応との間に箱が積み上がっていることがわかりました。


 「…だれ…?」


 幼い子供の声です。すぐにエルロッドはそちらに駆け寄り、縄で縛られた女の子を助け起こします。


 「大丈夫か?俺はエルロッド・アンダーテイカーって言うんだが…」


 「エルロッド…おにいさん…」


 お兄さんはいらないと思いつつ、女の子の名前を尋ねようとした時、いつの間にか隣の部屋に移動していたメイが感激とも驚愕とも取れる叫び声を上げました。


 「わぁお!凄いよエル君!こっ、これ、転移陣だよ!」


 その声に驚いたエルロッドは女の子の手を引いて立たせると、一緒に隣の部屋に移動しました。メイはまだうひょーとか、へぇー、とか言っています。


 「王都、ネルシア、マセリオン、アトルまで…王国中に行けるよ、この部屋から…!」


 感激するメイでしたが、エルロッドは嘆息します。


 「…それじゃあ魔女狩りが、どこに行ったかわからないだろうが」


 「あ」


 感動で赤かった顔がみるみるうちに真っ青に。先程の興奮冷めやらぬ様子から打って変わり、しゃがみ込んで頭を抱えるメイを見たエルロッドはこいつ動きがうるせぇなと思いました。


 「ど、どうやって見つければいいって話なのよー!?」

 おはようございますこんにちはこんばんはお久しぶりです初めまして、もしくはまた会ったな貴様っ!千歳衣木と申します!


 サリィヘイムまだ終わらないんですか?そろそろ終わります!そろそろ魔術都市も飽き飽きしてきたわね、って感じの方もいるとは思いますが、次話あたりでエルロッドが旅立ちますのでご容赦くださいね。

 今作のメインヒロインは馬車とエルロッドの左腕に宿る聖剣ですが、サブヒロインの座を手にするのが誰なのか、というのも合わせてお楽しみください。


 今回の後書きには多分に虚偽が含まれていますので間に受けないでください。それではこのあたりで。千歳衣木でした!

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