六十四話 「魔王ウィザ」
町中を駆け抜けるエルロッドと、その腕に抱えられたメイをはるか上から見下ろす者が一人。サリィヘイムを統べる魔法使い、ウィザ・ジンジャーです。
仮面をつけていて表情は読み取れませんが、くすりと小さく笑うとローブを翻してどこかへと歩いていきました。
「城って、どうやって行ったらいいんだろう…」
サリィヘイムの中心、空に浮かぶ城の真下の広場でエルロッドは途方に暮れていました。単に到達するだけなら跳躍、転移、飛行など、いくらでも手段はあるのですが、勇者と言っても通じないような街ですから不法侵入と取られる可能性が高いので躊躇っているのです。
エルロッドにしては慎重ですね。
勇者が途方に暮れていると、エルロッドに気付いた住民のひとりが声をかけてきました。
「…あんた、いや、あなた様は、もしかして、メイ様を救った…王子様ですよね?」
「いや違います」
即座に否定するエルロッドに面食らう住民。しかし腕に抱えているのはどう見ても領主の娘、メイ・ジンジャーです。
「ええっ…じゃあなんでここに…」
それを見て言葉が足らなかったと気付いたエルロッドはすかさず言葉を加えます。
「あっ、王子じゃないってことです。メイって、領主の…ジンジャーさんとこの娘さんなんですよね?」
エルロッドが訂正を入れると住民は納得した様子で笑顔になって返事をしました。
「そうですよ、領主様のお子様です。…お城に行くんですか?」
話している最中も上の方をチラチラと見ているエルロッドの様子に住民がそう尋ねると、エルロッドは頷いて答えました。
「はい、メイのことは親に言っておかないといけないかなぁと」
「婚姻の噂は本当だったのか……お城に行きたいのでしたら、役所の方でアポを取ったらいいですよ。まぁ、ウィザ様は認めた相手しかお城に招きませんが…」
前半は完全スルーして笑顔で礼を言うと、エルロッドは役所を探してキョロキョロし始めます。
「役所、役所…っと…」
すると、辺りに忙しなく視線を飛ばすエルロッドの頭上から突然声が。
「メイを救った青年よ。その必要は無い」
その声に少し驚きつつ空を仰いだエルロッドが見たものはローブをふわりとはためかせてゆっくり降りてくるウィザの姿でした。
城と月を背に降臨するその姿はとても神々しく、仮面も相まって一層神秘的な姿に感じられました。
あたりの住民達は領主様ということもあり平伏しています。
ぼーっとその姿を見あげるエルロッドに向かって怒声が飛びました。
「いやちょっと見ないで、今スカートだから!」
台無しでした。
「…さて、エルロッド君、でいいのかな?」
先程のことは無かったことにして、広場の中心に降り立った直後にエルロッドに話しかけてくるウィザ。
「あっ、はい。エルロッド・アンダーテイカーです。勇者です」
勇者は戸惑いつつもそう答えてから、勇者って通じないんだった…と内心頭を抱えました。周りの住民は既に頭をあげていますが、勇者?と一様に疑問符を浮かべています。
「…そういえば、魔王を倒すと言っていたな」
「!そう、そうです!その勇者です!」
通じる人もいるのか、と嬉しくなった次の瞬間、ウィザのセリフにエルロッドは固まりました。
「魔王…魔の王…つまり私を倒すつもりでここに来たということでいいのかな?」
「…えっ」
「「「…えっ」」」
無表情の仮面の下から楽しげな声でそう言い、首を傾げるウィザの姿とその言葉に、エルロッドと住民達は揃って惚けた顔になりました。
すみません!忙しいことを理由にして自己正当化してサボってました!
…まぁその、サボっていた訳では無いんですが、プロットを練り直したり批判に凹んだりしているうちに2週間経っていました。時が経つのは早いですね!反省してます。
もう少ししっかり更新し続けられるように精進します。




