六十三話 「魔術都市の英雄」
みじかめです
魔術都市における戦闘部隊最強の精鋭、魔導騎士団がなすすべなく敗走した化物を目の前にしても怖気づかないどころか、同種らしき魔物を一刀で屠ったエルロッドに魔術都市中から少なくない歓声が聞こえます。
しかし魔術都市なだけあって、住民達の殆どは一体目の魔物の方が魔力が大きいとわかっているようです。量にしておよそ二倍です。
「さて、次はお前だな。魔力吸収する体質っぽいし、オーバーヒートさせたらいいか」
「…エル、街を消し飛ばすつもりか」
莫大な魔力を持つエルロッドにとって魔力吸収体質の魔物は大した敵ではありません。
今まで旅の途中で何度も倒していますし、オーバーヒートさせるのがエルロッドのセオリーになっていました。
しかし今回の相手は旅の途中で相手にする小型の魔物ではなく、巨大な大魔導書の化物。容量も桁違いですから、こんなところでオーバーヒートさせたら魔力が暴走して辺り一帯焦土と化すでしょう。
「あ、そっか…じゃあ殴り殺すしかないか…」
思い直したエルロッドでしたが、ルサルカから思わぬ言葉が飛び出しました。
「メイを救うのだから、浄化魔法あたりでやってくれ」
「は?」
なぜ急にメイ、と思うエルロッドでしたが魔力を見れば一目瞭然ですから、エルロッドの注意不足ということになります。バカですね。
「メイ…え、なんでメイが」
エルロッドは困惑しつつも殺すという方法が取れないことに悩みます。殴れば消し飛ばしてしまいますから、メイだけを救うことは難しいですし、魔法は吸収されてしまいます。
「ってか無茶いうなよ!浄化魔法も吸収されて終わりだろ!」
「違いない」
ルサルカは考えるのがめんどくさいのか、エルロッド自身に解決策を身につけさせたいのか、適当な返事です。
仕方ないのでエルロッドはこの化物の魔力を吸収してメイを助け出すことにしました。
大魔導書によって与えられた力のせいで暴走しているのですから、暴走しない程度まで魔力を奪えばいいのです。
「…知り合いは助けるって、傲慢だよな」
「何、暴食は幾人もの子供を犠牲にした時点でもはや人ではないよ」
ルサルカの言葉にそれもそうかと納得したエルロッド。強欲、いえ、メイの巨大な体に手のひらを添えると、ひとこと。
「少し我慢してくれよ」
エルロッドが強欲の体内の魔素を直接操作し、魔力を吸います。すると強欲は吸われてなるものかとエルロッドから魔力を吸い始めました。
「負けるでないぞ…エル」
ルサルカが弟子の戦いにちょっと心配な顔をする中、エルロッドは涼しい顔で強欲の魔力を奪っていきました。
「この程度か。奪い合いになるかと思ったんだけど」
エルロッドが口角をあげました。魔術都市上空のスクリーンにはエルロッドの表情が映し出されています。
街の人々が、ここから一気に決めるのかと思った次の瞬間には、強欲の魔力をすべて吸収し終えたエルロッドが、空中に投げ出されたメイをお姫様抱っこで受けとめるところでした。
「…すごいな!」
「やった!ありがとう!」
「つ、強すぎる…!」
見ていた住民達の簡単や驚愕、感謝の言葉を聞いたエルロッドは、気絶してるメイをどうするか悩んでいました。すると、スクリーンを見ていたうちのひとりが唐突に呟きます。
「…あれ、ウィザ様の…」
その呟きは色々な話と混ざり、すぐさま街中に広がっていきました。
曰く、魔術都市の領主、ウィザ・ジンジャーの娘、メイ・ジンジャーが化物になり、それを退治したとても強いイケメンに助けられ、それは王子で、婚姻を結びに来たのだとか。
「どうしよう……」
「やっかいなことになっているようだな…」
強欲を倒してやく一時間ほどの時間が経ちましたが、エルロッドは未だにメイが起きないことに頭を抱えています。
そしてルサルカの方はというと、どうやら噂を耳にしたようです。
「ほんとだよ師匠、これどうしたらいい?」
困り顔の弟子にそんなことを言われて突き放せるルサルカではありませんでした。戦闘や魔法学以外ではとことん弱いのです。
「そ、そうだな…まずはメイの親のところに行ったらどうだ?」
婚姻をする気があるなら、という意味でしたが、エルロッドはそれをメイが起きない事を言っておけという意味だと取り、メイを抱えたままサリィヘイムの雑踏を駆け抜けていきました。
どうもこんにちはこんばんはこんにちは、朝の挨拶を忘れた千歳衣木です!おはようございます!
頭が疲れていてまともに回らないみたいで、朝から三回ほど朝食を食べてしまいました。関係ないですね。
サリィヘイム編、もう終わりですね。忘れちゃいけないこともありますが、ひとまずは終わりです。次話で街を出て次の街へ…行けると…いいですねぇ…。
先週の金曜日は更新し忘れてました。休みみたいなものなので忘れていました。すみません。
ということで、今回はこのあたりで失礼させていただきます。千歳衣木でした!おやすみなさい!




