六十一話 「サリィヘイム事変」
人によっては不快かもです
エルロッドたちとメイは一旦別れ、メイは官職であることを利用して最近子供たちが減る事件が起きていないかなどを調べ、子供たちに忠告することに。エルロッドとルサルカは、他の大魔導があるところを幻術や結界で入れないようにし、逃げた異形の怪物、恐らく暴食の大魔導書を開けたと思われるそれを追跡することになりました。
「エル、魔力は覚えたろうな?」
ルサルカのその言葉にエルロッドは顔をしかめます。
「師匠、まさかこんな時まで修練とか言わないよな?サリィヘイムがピンチかもしれないんだぞ」
弟子の非難するかのような言葉にルサルカは頬をふくらませます。
「す…するわけがなかろう。単にこの程度のことも出来なければ弟子失格だな、と思っただけだ!」
師匠として教育熱心なのはいいけど、もう少し状況とか考えてくれたらなぁ、といつもながら思うエルロッド。
しかしエルロッドが何も言わないのを懐疑だと受け取ったらしく、ルサルカは慌て始めました。
「私は大賢者だぞ!?弟子より街の方が大事に決まっておろうが!それとも私が信じられぬと言うか?ん?」
いえ、開き直りました。
エルロッドはそんな師匠の姿をはいはいと流すと、置いて行くぞーと言ってさっさと歩きだしました。それを慌てて追いかけるルサルカと、立ち止まって振り返るエルロッドの二人は兄妹のようにしか見えませんでした。
エルロッドとメイが煉瓦の敷き詰められた綺麗な道をしばらく歩き辿り着いたのは一つの民家。狭苦しい民家にしか見えませんが、地下にたくさんの子供たちの反応があるために関連性を疑ってやって来たのです。
「…既に幼魔球にされていた場合のことを考えると、あまり気は進まんな」
「例え俺達二人が全力を尽くしても全能じゃない。割り切るしかないよ」
頷き合い、扉を開きます。中は埃っぽい――というようなことは無く、割と小綺麗にまとまっていました。
そして地下への道は探すまでもありません。部屋の隅、隠す気のない階段が口を開けていました。
「こんな所に入る者はいないからと不用心だったんだろうが、勇者は扉が開けば中を物色していってしまうからなぁ」
「そんなことしないんだけど…」
「何、こっちの話だ」
階段を下りながらそんなことを言うルサルカに首をかしげつつも警戒は怠らないエルロッド。
何事も無く地下の空間に降りると、そこに居たのは明るい照明の中無邪気に遊ぶ小さな子供たちでした。
「…え?」
「なんなのだ、これは…」
どう見ても連れ去られてきたりしたようには見えず、無関係である可能性が遥かに高い…そう思いつつも近くの子供に声をかけたエルロッドは、振り向いた顔を見て息を飲みました。
「っ……誰がこんな…!?」
両目は縫い合わされ、その状態で元気に走り回っていたのです。よく見れば他の子供も感覚器官を使用不能状態にされつつも、健常者と同じように駆け回り、喋り、遊んでいました。
「エル…わかったぞ。感覚代替魔法の開発機関だ、ここは」
エルロッドもその言葉を聞いてようやく理解しました。
感覚代替魔法。それは、目の見えない者には視界を作り出し、耳の聞こえないものには聴覚を作り出す。
味の感じられないもの、触ってもそれを感じられないものなどの、感覚に関するあらゆる障害に代替可能な夢の魔法です。
「人間の、子供を使うとは…」
そう呟いたルサルカの背後の闇から唐突に声が響きました。
「そういう貴女も子供に見えますがね、人間の、かはともかく」
闇から溶けだしてきたかのように現れた男は、漆黒のスーツと金髪に優しそうな顔でルサルカを見下ろしていました。
「誰だ、あんた」
エルロッドが見えているにも関わらず歯牙にも掛けない様子の男。
エルロッドが声を掛けてやっとそちらに目をやるとあからさまな嫌悪の表情でため息をつきました。
「…はぁ、大人、ですか。なぜこんなところに汚らわしい大人が…それに比べてこちらの子はなんて可愛らしい」
なんとなく危険な匂いを感じたルサルカはすぐさま飛び退ります。
「…エルの質問に答えよ。お前は誰だ?」
幼女ルサルカのセリフに優しげな笑みで返す謎の男。
「答えましょう。私はデザムーア・ガルトス。感覚代替魔法を完成に導く男です!」
エルロッドはどことなく不快感を覚えつつ再び問います。
「何故子供たちをこんな目に遭わせた」
「きまっているでしょう?」
エルロッドの質問にも関わらず穏やかな顔で、少し顔を赤らめて両手を広げて答えました。
「子供たちの痛ましい姿は、実に興奮するではなぶぐぁああ!?」
半ば予想していた答えにエルロッドとルサルカの打撃がモロに入り、デザムーアはゴホゴホと咳き込みながらエルロッドだけを睨みつけました。
「人が話している途中に…!」
「あまりにも気持ち悪かったもんで、つい」
怒りに顔を歪めるデザムーアに対し、ルサルカが最後の質問をしました。
「では最後に一つだけ聞いてお暇するとしよう」
ルサルカの可憐な笑みにとても優しい瞳で語りかけるデザムーア。
「何だい?君だけは帰らなくてもいいんですよ、ここの彼が死ねばですが!」
ほんとに気持ち悪いなこいつ、とエルロッドはぼーっとしていましたが、ルサルカの質問と、その答えを聞いた途端にデザムーアを消し炭にすることを決意しました。
「ここの子供たち、用済みになったらどうするのだ?」
「幼魔球に加工してとあるところに卸していまがあああああああああ」
ルサルカは本当ならばその卸しているところを聞きたかったのですが、エルロッドの怒りもわかります。そのため、エルロッドに向けてサムズアップをして褒めました。
「グッジョブだ、エル」
…そんな中、魔術都市サリィヘイムの端、大賢者旧邸宅地下において、事態は動き始めていました。
「モッと…力ァ…アアア…!わ、たし、なら、扱エル!」
暴食に続く大きな脅威がサリィヘイムに影を落とします。
いつもお読みいただきありがとうございます、サリィヘイム長すぎませんかねぇ、でお馴染みの千歳衣木です!
すみません御馴染みではないです。
今朝もまた更新しますよ!最近テンポが悪くなってしまっている気がするので治したいところです。
あまり長くてもアレですので、今回はこのあたりで。千歳衣木でした。




