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勇者の強くてニューゲーム  作者: 千歳衣木
三章 たった一人の旅路
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五十八話 「流石は師匠」

 思い出した、と確かにそう言った。エルロッドはルサルカのそのセリフに違和感を覚えずにはいられませんでした。


 「思い出す、って…」


 「私はルサルカ、大賢者だぞ?無属性魔法の第一人者にして今でも最先端を走る者だ」


 ルサルカはその長くしなやかな指をちっちっちと舌打ちに合わせて振ります。


 「その願いの腕輪を利用して擬似的にエルと同じ状態…すなわちあるはずだった結果(・・・・・・・・・)を経験した状態になったのだ」


 エルロッドが経験したのは自分以外の全ての事象を自分の誕生時までリセットするという時間遡行です。

 ではルサルカが取得した前回のルサルカというものはどこからきたのか。答えは簡単なことで、願いの腕輪を通してエルロッドの中に格納されていたのです。

 いわゆるセーブデータというやつで、前回の出来事や経験はすべて圧縮保存されています。それがあるからエルロッドは記憶や強さを保っているのです。


 「…なんで願いの腕輪?」


 祖父が作った使い方もよくわからない、込められた魔力だけがひたすらに多い魔導具。

 その魔力量ならば触媒に丁度いいかもしれません。

 しかしルサルカの応えはそうではありませんでした。


 「エル…なるほどな…この程度の使い方にも気付かないとは、私の弟子だというのに情けない」


 ルサルカが明らかな落胆の表情を見せますが、エルロッドはようやく前回のことを話題に出せる相手ができて喜色満面です。直接「私の弟子」というセリフを聞いたからかも知れませんが。


 「よくわかんないけど、流石は師匠だな」


 そんなエルロッドの様子を見たルサルカは嘆息すると言いました。


 「相変わらず妙なところで洞察力のない奴だ。少しはしっかりしないか」


 そう言いつつその表情は柔和ですが。魔王に敗北して、いつの間にか赤ん坊にまで戻り、孤独に旅を続けてきたエルロッドを案じているのでしょうか。


 「それはそうと、二階の廊下でうろうろしてる奴、あれはエルの知り合いじゃないのか?」


 「あ、忘れてた。というか師匠、その姿いい加減やめてよ」


 エルがそう言うとルサルカは慌てて自らに掛けた魔法を解きます。

 今まで掛けていた、そして解いた魔法は交代スイッチの魔法。解く、掛けると言うよりは、スイッチを切り替えると言った方が正しいのですが。


 「忘れていた…エルの知人に会うのであれば魔女ルカとして会うべきだな」


 スイッチを切り替えたルサルカの姿は先程までの妖艶な美女ではなく、その半分位の大きさの幼女になっていました。

 髪の長さはそのままであるにも関わらず床に引きずるような形に。

 先程まで着ていた白いシャツと黒いパンツはサイズの違いから白いワンピースのようになり、一番上のボタンが開いているのがセクシーというより危なっかしく見えます。

 もちろん黒いパンツは下に落ちていました。


 「…あんまり人までやるなよ、それ」


 師匠であるうえに、世界とほぼタメの年齢とはいえ美しい女性の姿に少し目を背けるエルロッド。耳が赤くなっています。


 「仔細ない!私がこれを見せるのはエルくらいのものだからな」


 そんないたいけなエルロッドに対して無い胸を張るルサルカ。


 「それはそれでいかがなものかと…」


 喜んでいいのか諌めるべきなのか悩むエルロッドを意にも介さず歩き始めるルサルカ。


 「さっさと行くぞ、友を待たせるのは団子うさぎを逃すのと同じくらい愚かなことだ」


 「誰の言葉?」


 「もちろん、私だ」


 えっへん、とするルサルカでしたが、今の姿は小さな子供。頑張って背伸びしているようにしか見えないエルロッドでした。

 ちなみに団子うさぎとは草原に生息する美味しいうさぎのことです。

 可愛い大賢者幼女を見ながら歩くエルロッドと、腕組をして得意げに歩くルサルカに困惑と怒りが入り混じったような声が飛んできました。


 「…それ、エルくんの隠し子って話?」


 待ちくたびれて死んだ目で三角座りをするメイです。


 「いや、えーとこいつは…」


 メイにどう説明したものかと悩むエルロッドの隣でばばーんと効果音がつくほどの威勢で口を開くルサルカ。


 「私は大賢者ルサルカ!歓迎するぞ、我が弟子の友人よ」


 「なんでだよ!」


 魔女ルカとして会うべきだな、などと言っていたにも関わらず会った途端に正体をバラすアホが賢者なものか。エルロッドは首根っこを捕まえて物陰に連れていくとルサルカにそう怒鳴りつけました。

 もちろんメイには聞こえないように極めて小さな声で。


 「いや、だってつい…」


 「つい、じゃねえよ!アホ!大アホ者!」


 このちんまい幼女が大賢者ルサルカ・エクステンドだとバレたところでエルロッドには何か困ることもないのですが、弟子としても一人の魔法使いとしてもルサルカを尊敬する身としては、ルサルカが実は幼女でアホの子だとバレて悲しむのは避けたいところなのでした。

 だというのに、です。


 「そうするならスイッチしないでくれば良かったのに…」


 「エルがこっちの姿の方が好きだっていうから…ふえぇ」


 「言ってねえ!」


 もはや声量を抑えられていないエルロッド。一通りルサルカを叱ってメイのところに戻ると、メイがクスクスと笑っています。


 「悪い、待たせ…何笑ってるんだ?」


 おや、と首を傾げるとメイが突然膝を折り曲げてルサルカに目線を合わせました。


 「ふふふ…聞こえてたよエルくん、て話。ふたり、仲良しなのね!…それに、可愛い大賢者様って話なの、よしよし」


 そしておもむろにルサルカの頭を撫で始めたのです。完全に幼女扱い、大賢者などとは微塵も思っていない様子です。


 「これはどうしたらよいのか…」


 「適当に名乗っとけ、高慢にな」


 雑な念話を交わすと、なにやらルサルカは「よし」と意気込みます。


 「わっわわわたしは魔女ルカ!ルサルカ様の一番弟子だ!」


 噛み噛みな上にエルロッドを二番弟子に繰り下げてしまいました。

 しかしメイはそれを見てきゃあ可愛いって話よ!とルサルカを抱きしめて頬ずりを始めるのでした。


 「…しかし、どうやって結界に入り込んだのって話ね…」


 メイの小さな小さなつぶやきはルサルカの黒髪に吸い込まれて消えました。

 二日連続更新です!やりましたよ!ギネス新記録です!

 すみません、クオリティの低い大嘘つきました。千歳嘘つきです。


 テンポがいいのが取り柄のはずなのに二話も使ってしまいました、突撃!師匠の晩御飯!

 まぁその、一応強くてニューゲームの中でも重要なキャラですし、はい、許してください。書きたかったんです。

 次回から驚くほど簡単に出来てしまうので、難しく考えずお読みください。何がですかね。サリィヘイム編がやっと始まるみたいです。なるほど。


 それでは今回はこのあたりで。

 千歳わんこでした。

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