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勇者の強くてニューゲーム  作者: 千歳衣木
三章 たった一人の旅路
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五十五話 「魔人勇者と魔術都市」

 エルロッドによって魔物の軍勢は跡形もなく葬り去られ、未だ襲撃の爪痕が色濃く残るハルジアに平穏が訪れました。


 魔物と手を組んでハルジアを攻撃したテシャケのことはゲシュタルト他ハルジアを拠点とする商会の上層部のみが知ることとなり、テシャケは大きく動くことが出来なくなったものの、これまで通りにやっていけるようです。

 そして勿論英雄エルロッドを称える声は街中に溢れ返り、少し街を歩けば大人から子供まで全員がキラキラとした眼差しで見つめてくるため、エルロッドは落ち着きません。


 「…なぁ、アキンドさん」


 そしてある日、幾度か聞いた言葉に疑問を感じたエルロッドが隣にいるアキンドに声をかけました。


 「何ですかな?」


 アキンドはエルロッドが何を聞きたいのかわかっていない様子でにっこりとエルロッドの方に顔を向けました。


 「新魔王万歳、とか、魔人エルロッド様、とか、魔人勇者、とか…ってやっぱ、俺のことだよな」


 魔人“エルロッド”と言われているのに認めたくない勇者でしたが、アキンドは現実を見せることに何の躊躇いもありません。


 「おや、気付いてないとお思いでしたかな?既にエルロッド殿が今の魔王に成り代わるつもりだと言うのは周知の事実ですぞ」


 ナニソレ知らない誰の話してるの、と呟くエルロッド。ですがアキンドは口を止めません。


 「人間が大好きな魔人というのもなかなか珍しいものですが、我々人類にとっては希望ですからな。応援させていただきましょうぞ」


 アキンドの楽しげな表情を見ているうちに我に返ったエルロッド。


 「待て待て待て、確かに俺は強いけど魔人じゃなくて人間だ!元々が人間だし、魔人になったりしてないぞ?」


 アキンドはそれを笑って受け流すかと思いきや、真剣な顔で言いました。


 「とはいえもはや人間の範疇で収まる強さではありませんし…勇者というのは人間とは別の生き物と聞いておりますしな。スライムの魔人、というように、人間の魔人、という存在というのもあながち間違っては…」


 そう言われるとなんだかそういう解釈もありえるな、と思ったエルロッドでしたが、よく考えると望まれるもの(ディザイア)を発動させるために魔人という肩書きでは厳しいものがあると思い直してアキンドに尋ねました。


 「周知の事実、って…いつからだ?」


 「そもそも勇者は人間版魔王という説が…っと、いつから、ですか?」


 何やらまだ考え込んでいたアキンドがバッと顔を上げました。


 「そうですな、アインの街は魔人に作られ魔人に救われた街と銘打っていましたし、先日の戦いの際にはエルロッド殿が名乗りを上げた時点で街中に広まりましたぞ」


 「え?」


 思い返してみても自分が魔人など名乗った覚えはありません。が、アインでもハルジアでも魔人だと思い込まれているのに望まれるものは上手く発動しています。


 「…まぁ、それならいいか」


 何がそれならなのかよくわからないアキンドでしたが、エルロッドもこれ以上何か言う気は無さそうだと判断して復興作業の手伝いをすることに決めました。



―――――



 エルロッドが操り人形師(パペッター)を倒してから二週間、復元魔法や修復魔法を行使して行くことでほとんど復興も終わり、エルロッドは次の街へ向かうことにしました。


 「お世話になったな、アキンドさん」


 「いえこちらこそ、エルロッド殿」


 お互いに爽やかな笑顔を浮かべて握手をすると、エルロッドはハルジアの門をくぐりました。

 また機会があれば会うかもな、そう呟いて歩き出したエルロッドの後ろ姿にアキンドが言います。


 「次はサリィヘイムですかな?よろしければ交渉に長けた者を一人お送りします故、五日ほど滞在していただきたいのですが」


 「…んー、じゃ、待ってるよ」


 別段一人で活動する理由もないエルロッド、いざとなればテレポートなり飛行魔法なり使えば旅路も安全だろうと思い承諾します。安易な思考です。


 「わかりましたぞ。よい者を見繕っておきましょう」


 「あぁ。頼んだ」


 エルロッドは地面を蹴るとあっという間に空を駆けて行ってしまいました。

 それを見た他の見送りの者や職員が感嘆のため息や呟きを漏らす中、アキンドが言います。


 「…旅路を考慮すると、八日間ほど滞在してもらうべきでしたな…」



 アキンドが浅慮に後悔しているその時、エルロッドは超高速飛行と転移を繰り返してサリィヘイムが見える位置に既にたどり着いていました。


 「この街には魔人やら魔物やらが居ないといいけど…」


 まぁでも、いないとなると望まれるものを発動させるためにマッチポンプでもしなきゃならなくなるかな、とジレンマを抱えつつ降り立ったのは、魔術的な記号で埋め尽くされた門の前。

 門と言っても物理的な質量はゼロで、どちらかというと入ってきた者の性質や思いを自動で読み取るゲートというべきものですが。


 「…門番、いねえのかな」


 それにしても聞いてたのと違って随分貧相な街だな、狭いし…そう思いつつサリィヘイムの門を抜けたエルロッドは突然の光景に目を疑います。


 「なん…だこれ…?」


 先ほど空から見たサリィヘイムは質素な城壁につまらないどこにでもあるような家が立ち並び、街の真ん中を走る道は剥き出しの地面を軽く鳴らした程度。

 住民が五千もいれば十分だと言える程度の広さでした。


 しかし今目の前にある街は往来も激しく、箒や絨毯に乗って空を飛ぶものもいれば何やら不思議な獣に乗ってゆったり進むものもいます。

 レンガ作りでとんがり屋根の家が秩序を無視して壁や空にいたるまでそこかしこに立ち並び、遥か遠く、入る前に見ていた街の広さを無視する距離に一際大きく見える城もどうやら空に浮いているようです。


 「すげぇ…」


 そして何よりエルロッドが驚いたものは紫がかった空に浮かぶその城のさらに後ろ、明らかに普通とは違う大きさの巨大な月。

 別の世界、または次元にでも迷い込んでしまったかのようです。


 「貧相な街ですみませんでしたね!ようこそ、魔術都市(・・・・)サリィヘイムへ!」


 エルロッドが惚けていると目の前に一人の女性が飛び出してきました。黒いとんがり帽子を被り、笑顔で綺麗な赤い三つ編みをふたつ、胸のあたりまで垂らして揺らしています。


 「いや俺、そんなこと言ってない…」


 突然の魔女らしき女性の登場に戸惑いつつそう答えるエルロッド。しかし赤髪魔女は笑顔のままちっちっちと指を振ります。


 「“サリィヘイムの魔術門は人を拒まずただ見抜く”…どんなに魔術的抵抗が強くても表層心理はお見通しって話ね!」


 あぁ、言ってないけど思ったな。エルロッドは納得しました。


 「ま、門をくぐってからは考えを改めたみたいだし、情状酌量って話ね!」


 「…そりゃどうも?」


 エルロッドがなんとも言えない表情で会釈すると、目の前の魔女が突然話題を変えました。


 「にしても、ダミーヘイムの門から人が来るなんて何年ぶりって話よね!まったく、楽だからここの魔術門補佐官に志願したって話なのに…」


 どうやら独り言だったようで、エルロッドの方に顔を向けると、行ってよしって話よね!ごめんね!と言ってサムズアップしました。


 「あ、うん。ありがとう、えっと…」


 エルロッドのその雰囲気だけで察したのか、魔女さんはにっこりとこう言いました。


 「メイ・ジンジャー。また会うかもって話ね、エルくん(・・・・)!」

 どうもみなさんおはようございます、こんにちは、おやすみなさい。千歳衣木です。


 今回は少し長めかと思いますが、昨日の分と思っていただければ…なんですかねこの融通の効かないシステム。二日に分けて書けばいいのに。


 まぁその、お得感的なものを醸し出すという意味では成功と言えなくも…ないですね。

 とりあえず今回は魔術都市にエルロッドが踏み込みました。

 次回から本格的にサリィヘイム編です。お楽しみいただければ嬉しいです。


 それでは本日はこのあたりで。夜の挨拶はこんばんはだということに今気付いた千歳衣木でした。

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