五十三話 「ろぉりんぐ・てのひら」
エルロッドやアキンド、ゲシュタルト商会、そして表向きはテシャケ商会も協力してハルジアの街の復興が続けられ、早くも一月が経とうとしていました。
ゲシュタルトは相も変わらずハルジアの頂点に君臨し続け、テシャケは不動の二番手となっています。
「妙ですな…」
しかしテシャケは全く焦る様子もなく、ひとまずは復興作業に尽力していると言った様子です。
魔物と手を組んでまで現状を変えようとしたにも関わらず何一つ変わっていないのです。
しかし焦った様子も見せなければ、次の行動を起こすわけでもありません。
アキンドとエルロッドは二月ほど過ぎた頃に次の行動を起こすのではないかと予測を立てていました。
「何するにしてもこのペースでは復興が不完全だ。二月ほどして体裁が整ったら動くだろ」
妥当ですな。今動いても不自然にしかなりますまい。勇者の言葉に商人は頷きました。
そうしてそんな会話をして復興に全力を注ぐことにしたエルロッド達でしたが、その三日後の夜。
「ま、また魔物だ!今度は二万はいるぞ!?」
ガランガランガラン。
未だ完全な復興がいつになるか分からないにも関わらず敵襲の鐘が鳴り響き、宵闇と静寂に包まれたハルジアは一変、松明の明かりと人々の喧騒に支配されました。
「早すぎる…だがこれでテシャケが完璧な対応をすれば明らかにクロだ…!」
即座に飛び起きて状況を把握したエルロッド。統率の取れた動きで魔物の軍勢の方向に陣形を固める集団を感知すると転移します。
「お前ら…!」
エルロッドがそこで見たものは。
「エルロッド殿でしたか。エルロッド殿が来てくだされば百人力、いや、万人力と言ったところでしょうか…」
ゲシュタルト商会の従業員だと思われる人間達を指揮して不敵な笑みを浮かべるアキンドの姿でした。
「アキンドさん…俺はてっきりテシャケかと…」
「実は魔物と手を組んでいたのはテシャケ商会だけではないのですよ」
アキンドのその言葉にエルロッドは愕然とし、言いました。
「アキンドさん…そんな…そんなことでほんとに…俺を騙せると思ったのか?」
「まぁ、無理でしょうな」
エルロッドとアキンドが顔を見合わせて笑うのを不思議そうにみる従業員達。
どうやら私的な知り合いのようだとあたりを付けるとそれぞれ配置に戻り臨戦態勢に入りました。
「で、本当はなんでわかったんだ?」
「テシャケに何人かゲシュタルトの者を紛れ込ませましたゆえ」
なるほどなぁ。納得しかけたエルロッドでしたが引っかかることがありました。
「紛れ込ませた?いつからだ?」
「一月ほど前から、ですな。正確に言えば襲撃の少し前ですが」
これには流石にエルロッドも苦笑せざるを得ません。
兼ねてからの仲間であっても下っ端には言わないであろう情報を持ってこれたということは、この一月で怪しまれずに潜入して魔物と手を組むなどという非常識な計画を聞き出せる地位まで上り詰めたということです。
「流石に優秀すぎやしませんかね…もはや洗脳魔法でも使ってるとしか思えないレベルだ」
「人心掌握のプロが扱う言葉はその一言一言が魔法のように人の心を打ち、虜にしてしまいますからな。気を付けることですぞ」
アキンドがにやりと笑うのを見てエルロッドは、この人もそっちの道の人だと察してそっと顔を背けました。
―――――
「ゲシュタルトに先を越されてる!?なんでだ!?」
俺達は物見櫓に上げていたテシャケ商会の従業員のひとりからそんな情報を聞いて、全員で顔を見合わせていた。
少し前に操り人形師という魔族が来て計画を決めたんだが、その時敵対勢力の斥候でも紛れ込んでいればことだと言うので俺が単独で話し合いに出されたんだ。
俺はテシャケ商会に入ったのは最近のことだが、勿論自分の商会に忠誠を誓っているし、会長のことが大好きだから裏切ったりしない。
正確に計画の日時を伝えた。
「まぁいいさ、こうしてすぐに動けたのは魔族と手を組んでる証拠だと喧伝してやれば奴らの信頼も失墜する!」
邪悪な笑みを浮かべるテシャケ会長。
まぁきっと大丈夫だろう。
なんせ俺達のアキンド会長はハルジア全体からの支持も厚いし、この程度で潰れる人じゃない。
…テシャケ側には少し遅い時間を教えてしまったのは、申し訳ないと思ってる。
(……か……すか……ますか…聞こえますか…私は千歳衣木…貴方達の脳内に直接語りかけています……いつもお読みいただきありがとうございます…)
はい、というわけで本日も更新してしまいました。
本日もと言いつつ先週の金曜日はお休みしてしまい申し訳ございません。やばみが深くて動けませんでした。
平日は毎日更新とか戯れたことを言ってしまいすみませんでした。
しかし言い訳をさせていただきますと、私にとって金曜日はもはや休日なのです。
嘘です。ちゃんと仕事してます。
冗談は置いておきまして、少しでも多く更新していこうと思いますので、誠に勝手ながら応援していただけると励みになります。
それでは今日はこのあたりで。千歳衣木でした。




