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勇者の強くてニューゲーム  作者: 千歳衣木
三章 たった一人の旅路
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五十一話 「テシャケ商会の罠」

 統率の取れた動きで街から遠ざかっていく八百程の集団。エルロッドは超高高度から見下ろす形で集団を追い、すぐに追いつきます。


 「何だあいつら…魔力はほとんど持ってないし闘気も大したことない…いや、隠蔽してるのか?」


 集団の戦闘力が大したことないと見抜いたエルロッドでしたが、ハルジアを襲った集団である可能性を考えると油断はできません。

 集団の進路に開けた場所を見つけると、先回りしてそこで待つことにしました。


 「…来たか」


 少し待つとかすかな息遣いと足音が聞こえ、エルロッドを確認できる距離に到達した途端一拍置いてエルロッドのいる広場を包囲するように散開しました。


 「おっと、行かせないぞ」


 どうやらエルロッドを素通りして逃げようとしたようですがそうは墓守が許しません。


 「…何者だ?」


 エルロッドの後ろの草むらから声が発せられました。

 どうやらリーダー格のようです。


 「そう警戒するな。怪しい者じゃない。殺すつもりならとっくにお前らはここにいないさ」


 警戒色の強い相手にそう語りかけると同時に威圧するかのように魔力を解放しました。

 周囲から恐怖と警戒の感情が溢れだし、揺らぎ、やがて収まります。


 「この程度の訓練は受けてるってわけか。まぁいいや、何、俺が聞きたいのはそう難しい事じゃないさ」


 エルロッドがあくびをしながら言葉を続けます。


 「ハルジアの街をやったのはお前らか?それとも別の犯人がいるのか?」


 その質問と同時にエルロッドは、周囲に安堵が広がるのを感じました。

 どういうことだ、と訝しむ間もなく、旗を背負ったリーダー格らしき者が草むらから歩み出てきてエルロッドに向かって笑顔で言うのです。


 「いえ、私達は復興資材を買いに行くただの商隊ですよ。ハルジアを攻撃したのが誰かはわかりませんが、確か五千程いた気がしま」


 「転移(テレポート)ッ!!」


 エルロッドは焦ります。ハルジアにはアキンドを残してきました。そしてアキンドは五千の避難民(・・・)がいると思しき場所に向かっていきました。


 「間に合えっ…!」


 その一心で座標も大雑把に、ハルジア上空に転移したエルロッドが見たものは。


 「アキンドォオオオッ!」


 五千の魔物達の軍勢を見て即座に馬首を翻したと思われるアキンドがもうすぐ爬虫類型の魔物に追いつかれるところでした。

 エルロッドの叫び声に振り向いたアキンドが泣きそうな顔ではありますが嬉しそうに言いました。


 「エルロッド殿…!」


 アキンドの無事を確認するとすぐに上空から目視した場所、アキンドと魔物の間に転移して一閃。

 木刀とは思えない鋭い一撃はまるで竜の顎の如く魔物を半ばから噛みちぎると衝撃波を生み、周辺にある建物の壁や屋根を軋ませました。


 「間に合って良かった…」


 先程の一撃を放ったとは思えないほど弱気な表情でエルロッドが呟きます。

 自分の思い違いでアキンドを殺しかけてしまったのですから仕方ないでしょうが。


 「助かりました…商談と何の関係もないところで死んでは死んでも死にきれません。それにしてもお早いお戻りでしたな」


 対してアキンドは自分の危機を大して重くは受け止めていませんでした。

 後に聞いたところ、エルロッドが助けてくれると信じていたそうです。


 「いや、俺は別のヤツらを追いかけただろ?そしたらあいつら、五千程の魔物がハルジアを襲撃したとか言ってたから慌てて戻ってきたんだ」


 エルロッドは自分の他に守るべき人間がいるという大変さを噛み締めながら言います。


 「なるほど。ところでそやつらは所属などは言っておりませんでしたか?」


 「言ってなかったな…いや、待て」


 エルロッドは少し思い返しました。


 「確かこんな紋章エンブレムのついた旗を持ってたな」


 足元に落ちていた大きめの瓦礫に火炎魔法で焼印を付けながらそう言うと、アキンドが納得したような驚いたような顔で呟くのでした。


 「これは…テシャケのものですね」

 お読みいただきありがとうございます、ネタバレします。

 すみません嘘です。くだらない嘘つく人でおなじみの千歳空港です。


 ハルジア編、と言うほど長くもならないと思いますがハルジア編本格的に始まりました。

 住民はどこに行ったのかとかテシャケ商会の立ち位置は何なのかとかまだ言及していないことはありますが楽しみにしていただけたらありがたいです。

 いえ、予想は簡単だと思いますが。


 さて、あとがきの最初の名乗りで響きが似てるけど違うものになってしまっていたのでちゃんと自己紹介して締めようと思います。


 千歳梃子でした。

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