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勇者の強くてニューゲーム  作者: 千歳衣木
三章 たった一人の旅路
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五十話 「崩壊するゲシュタルト」

 「しかしあの、記憶を元に物体を作り出す魔法、あれはうまく使えばお金の匂いがしますなぁ…」


 王都、いや王室に無事物品を届けることが出来たアキンドが、ハルジアへの道をのんびりと進みながらそんなことを言いました。


 「いや、あれはな、もともと物体の上に貼り付ける幻影みたいなもので、偽装用の魔法なんだよ。魔力の供給が止めば、自ずと消える。どんな手段使ってでも稼ぎたいっていうなら止めないけどな」


 エルロッドがゆったりと流れる馬車の外の景色を眺めながら言って、あくびをひとつしました。


 「それは…最後の手段にとっておきましょうかな」


 悪質な詐欺のような手口でも手段として数えるとは、大胆というか愚かというか、評価に困る方ですね。


 「それより私は、エルロッド殿が勇者だというのに驚きましたぞ?」


 何故言ってくれなかったのか、というような口ぶりで訊ねます。


 「聞いてくれれば素性なんかすぐ明かしたものを、聞かないからなぁ」


 「…なるほど、エルロッド殿が私の詮索をしないので私もすっかりその気をなくしておりました…」


 「お陰でアキンドさんの役職すらわからなかったけどな!」


 そう言って笑い合うふたり。

 実はアキンドの名前はアキンド・ゲシュタルト。そこら辺の市民でも知る名前でしたが、エルロッドは知りませんでした。それもそうですね。


 「最初に自己紹介した時点で気付くと思ったのですがな」


 と、本気で落胆するアキンドでした。


 「で、アキンドさん。ハルジアってのはあの崖超えなきゃいけないんじゃないのか?」


 アインの街を抜けた先、少し進んだ岐路でエルロッドがふと尋ねます。

 アキンドが馬を進めた道がエルロッドの知っている道と違ったからです。


 「あのような崖を越えられるのは空を飛べる鳥や魔物くらいのものですよ。アインの街の人々は何故エルロッド殿にそんな…こと…を?」


 アキンドが途中で首を傾げ、一瞬考え込みます。


 「もしやエルロッド殿、飛べるなどということはありますまい?」


 「…いや、飛べる」


 それを聞いた途端にアキンドが目を輝かせます。


 「エルロッド殿の膂力なら馬車や積荷ごと崖の上に運べたりなど…」


 「…まぁ、できるな」


 アキンドは興奮のあまり御者台で後ろに倒れ込みました。



―――――



 「いやぁ、エルロッド殿のお陰でかなり短縮できました。ありがとうございます」


 すさまじい笑顔を見せるアキンド。喜色満面というやつです。


 「ここまで短縮できるのであれば、あの崖を削るなり掘るなりして馬車で上がれるようにしてしまうのも手ですね…」


 なにやらアキンドが呟いていますが、エルロッドにはよくわからないので話題を変えました。


 「アキンドさん、ハルジアってもうすぐか?あれ、夕食の煙かな」


 そのセリフを聞いたアキンドが即座にハルジアの方向を見ます。


 「夕食には…まだ、早い…何かあったのか!?」


 焦燥を顕に馬を走らせるアキンド。急発進したため首を少し痛めるエルロッド。

 二人がハルジアに辿り着いて見たものは、壊された門に外壁、燃えて煙の上がる家々、そして一際大きく作られた建物――ハルジアの街のシンボルとも言える、ゲシュタルト商会の本部が崩壊する姿でした。



―――――



 「何でこんな…街の人々は!?無事か!?」


 エルロッドがアキンドを放置して駆け出そうとしましたが、まだ残党のいる可能性を考慮して踏み止まります。


 「っく…索敵!…範囲内に…およそ五千、それから少し離れたところに八百程の離れていく集団…こいつらが敵か?アキンドさん、行くぞ!」


 エルロッドがまくし立てる間もアキンドは放心状態で崩れ落ちるゲシュタルト商会を見つめていました。


 「アキンドさん!」


 いくら感情を面に出さない、不測の事態でもうろたえない、そんな商人のトップと言っても自分の商会が崩れ落ちれば立ち直ることは容易ではないでしょう。

 しかし。


 「これは失礼、エルロッド殿。参りましょうか」


 アキンドはすぐに我に返ると馬を走らせました。


 「こちらですか、住民が避難していると思われるところは…あの辺は…テシャケ商会の…」


 アキンドが何か考えつつも見事な手網捌きで馬車を操り、瓦礫や壊れた石畳を回避して駆けていきます。


 「…エルロッド殿!私は大丈夫です、敵の行方をおってくだされ!」


 なにやら結論が出た様子のアキンドがエルロッドに叫ぶと、次の瞬間にはエルロッドが馬車の中から消え失せていました。


 「任せろ」


 あまりにも軽い口調でしたが、安心感のある言葉を残して。

 どーもこんにちは、千歳衣木です。いつもお読みいただいて誠にありがとうございます。


 読者様方のおかげもありまして、キリのいい五十話となりました。

 ありがとうございます。


 アキンドさんとは少しだけ長い付き合いになっていますが、正ヒロインとして魔王を倒す旅に参加するということはないと思いますので、ご安心ください。

 それとも私のように悲しい方もいるでしょうか…。まぁ悲しくないんですが。


 とりあえずゲシュタルト商会って語呂がいいので決めましたが、崩壊までしてしまうとは思いませんでした。無念。


 プロットの通りなので確信犯ですけどね!すみませんでした!

 あまり長々と話していても仕方ないので、今回はこのあたりで。


 たまにはまともなことを言いたい千歳衣木でした。

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