四十九話 「非常停止ボタン」
「無属性を打ち消すのは無属性のみ…単なる破砕をもたらす道具じゃないのか」
エルロッドはアキンドの運ぶ物品にまとわりつく魔力を観察しながらそう言いました。
どうやら破砕の後に修復魔法を掛けてもディスペルできるように魔力が残り続ける仕様になっているようです。
「エルロッド殿、これはどうにもならんのですか」
「見たことのない魔道具だったし…どう頑張っても解除から修復まで五日は掛かると思うな」
その言葉にアキンドは明らかな落胆を見せました。
「あと四日以内に届けなくてはならぬのに…」
しかしエルロッドの表情は明るいまま、アキンドにこう言い放ちました。
「別の方法を使えばその限りじゃない。さ、始めようか」
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ゲシュタルト商会の大切な任務を挫いてやったと御満悦な刺客達。
どれだけ努力したところで単なる護衛の人間はおろか、宮廷魔術師ですら解くことのできない魔法ですから。
「わざわざ古代の魔道具を持ってきた甲斐があるというものだ。くくく」
「これでアキンドも終わりだな…!はははっ」
そう言いつつも念のためにアキンドやエルロッドの監視を続けます。周到なことです。
ニヤニヤとアキンド達の様子を眺める刺客でしたが、一人があることに気づきました。
「おいあれ、なんであんな嬉しそうな顔をしてるんだ?」
ゲシュタルト商会もアキンドも破滅のはずだと言うのに嬉しそうな顔をしていると聞いて、他の者もアキンドに注目しました。
すると本当に嬉しそうな顔をして、小太りな体に似合わぬ軽快な動きをしながら馬車を御していました。
「なんだあいつ、おかしくなったの…か……何故だ」
そう呟いた刺客の視線の先にあったのは、護衛の持つ完璧に修繕された物品。
こちらもまた嬉しそうな顔で赤ん坊でも抱くかのように抱えていました。
「あいつら俺たちを騙したのか…!?まさか直したなんてことは…ありえん…!」
「手間だが今度は殺すしかねぇな。念のため見張っといて良かったぜ!」
下卑た笑いを即座に打ち消し、聖職者の装束に身を包んだ刺客達はエルロッド達の前へと移動していきました。
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「愚かな羊も神は許してくださることでしょう。その魂、天に昇って懺悔するのであれば」
エルロッドの前に現れた聖職者達は今度は殺意剥き出しです。明らかに命を取りに来ている様子で、殺傷能力のある攻撃をし始めました。
「エルロッド殿ォ!?もう奴らも見ていないだろうからと言っておられませんでしたかぁ!?」
エルロッドが必死に攻撃を弾くなか、アキンドが叫びます。
「まさかまだ見られてたなんてっ、ちくしょう、これじゃ、俺たちの―――」
聖職者達の一斉攻撃が防げないタイミングで順序よく撃ち込まれ、勝利を確認した矢先。
「「思惑通りだ!」」
煙の中から伸びた腕が聖職者の腕から破砕杖を奪い取ります。
「なん…!?」
「ありがとうな!じゃあな!」
想定と違いすぎる出来事に聖職者達は動くことも出来ず、エルロッドの攻撃で全員地に伏せました。
「やりましたな、エルロッド殿!流石ですぞ!」
エルロッドとアキンドがハイタッチをして、勝利を喜びます。
「ほんとにあいつらが帰っちまってたら寝る間も惜しんで魔力の解析するハメになる所だったっての…さて、解除」
エルロッドは安堵の息を漏らすと、破砕杖に刻まれた古代文字のとおりに現在の魔力を停止させます。
「魔道具本体さえあれば確実に効果を停止できるからな。助かったよ、こいつらが馬鹿で」
「私が言えることでもないかもしれませんが、全くですな。ははは」
二人は笑いながら去っていきました。
8万年の永き時の末にお久しぶりです、千歳衣木です。ころもぎじゃなくて、えこです。
可愛い名前でしょ?
ヒロインらしいヒロインの出てこないこの物語ですが、毎度毎度旅で出会うのはおじさんばかりなので、おじさんがヒロインなんじゃないかと疑ってかかるべきかと思います。
…すみません、嘘です。それはそれでありかと思いますが。
木刀一本であらゆる敵を叩き潰して進むエルロッドの旅路に半端な女の子が混ざっても正直邪魔ですし、というか、ヒロインいりますか?いらないですよね?
エルロッドにはハココちゃんとかヒスイとかコロナとか、既にいますし。
…ぶっちゃけ、ヒロインとか考えるの忘れてました!すみませんでした!別にいらないかなとか思ってすみませんでした!考えておきます!
それでは今回はこのあたりで。長々と申し訳ございません。千歳衣木でした。




