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勇者の強くてニューゲーム  作者: 千歳衣木
一章 二度目の旅立ち
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四話 「旅立ち」

 「旅立ち日和だ!」


 ティアナに振られてから10年後、今15歳となったエルロッドは、両親の心配をよそに、勇者となるため王都へ旅立つのです。


 3年前に亡くなった祖父、ハインスの形見である願いの腕輪とともに。


 「しかし長かったな。何度旅立とうと思ったことか…」


 村を出てすぐの最低限しか整備されていない道を歩きながらエルロッドは呟きます。


 前回魔王と戦うまでと同じような道筋を辿りたかった勇者は、すぐにでも家を飛び出したい衝動に駆られながらもどうにか堪えてきたのでした。


 「これからは世のため人のためだ。最善を尽くす」


 エルロッドはそう言うと思いを巡らせました。確か前回は夕方になる頃に次の村に着いた。丁度到着した時、魔物によって村は蹂躙されかけていたはずです。

 ということは、今すぐに走って行って魔物達を殲滅すれば犠牲者はゼロに抑えられるかも知れません。


 「善は急げ、だ。よっしゃ!」


 勇者は最初の仕事のために走り出しました。



―――――



 「やぁ、どうしたんだお兄さん?そんなに急いで」


 村の入口にたどり着くと太陽は真上で世界を照らしていました。まだお昼です。村の入口の男性が笑顔で話しかけてきます。


 勇者は、魔物達のことを伝えるか、それとも付近の魔物を狩って黙っておくか迷いました。

 伝えておいた方が安全なのは間違いないのですが、若いよそ者を信じてくれるかわかりませんし、信じてもらえたとしても村から逃げ出す人などがいないとも限りません。


 「魔物が…いや…しかし…うん…これなら…」


 エルロッドは少し考えた結果、村人には言わず魔物達を狩ることに決めました。


 「お、お兄さん?」


 心配そうに村の入口にいた男性が顔をのぞきこみます。


 「あ、失礼。ちょっとした旅行です。ここには宿はありますか?あったら暗くなる頃に泊まらせていただきたいのですが」


 無いことは知っていますが、怪しまれないようにそう尋ねました。


 「そうかい。悪いけどうちの村には宿はないね…もう少し行ったところのテテアの街にならあるから、そこまで行ったらどうだい?」


 唐突な質問にも親切に答えてくれる男性。いい人ですね。

 エルロッドはお礼を言うと、付近にいる魔物達を狩るために歩き始めました。



 そして、エルロッドが去った後の村では。


 「村長!村長、今そこに怪しいヤツが!」


 先程の男性が村長の家に駆け込んでエルロッドを怪しい者呼ばわりしていました。


 「怪しいヤツとな?そんなに焦るほどのことかね」


 村長は顎にたくわえた白いヒゲを指先でいじりながら、あくまで落ち着いた様子で尋ねます。


 「そのですね、見たところ木刀しか持たず、1人で、徒歩で、15歳くらいの青年なんですが。ちょっとした旅行と言っていたんですが、そのですね!」


 村長は男性の言葉から言いたいことを察しました。


 「ふーむ、なるほど」


 この村と青年が来たであろう隣村との距離は、人の徒歩の速度でおよそ7時間。

 普通であれば魔物が活発化する夜中は出歩かないので、明るくなった頃に隣村を出発すればその日の夕方頃に着くはずなのです。

 馬を飛ばしたのであればこの時間でもあり得ますが、人間の身一つで出来ることではありません。


 隣町から来たとしても同じくらいの時間がかかるのでそれだけでも怪しいのですが、いくら日中とはいえ魔物が出る道を木刀しか持たず歩くなどまともな人間のすることではありません。


 本来ならそういったトラブルを避けるために強力な冒険者などもそれなりの重装備で出歩くのですが、エルロッドはアホなのでそれを忘れていました。


 おかげで、村長の家にあった連絡用魔道具で隣町の冒険者ギルドに連絡され、不審者として監視の依頼をされてしまったのでした。




 その頃エルロッドはというと、近くの森の木になっている木の実をかじっていました。


 「なんだこれ。料理しないと不味いじゃないか」


 不満げに呟くと、木の実を丸ごと飲み込み魔物の捜索に戻ります。


 「しかし、この辺は全然魔物がいないな。ほんとにこのあと襲ってくるのか?」


 悩みながら歩く勇者。

 探査魔法も使わずに歩く勇者にはわからないのですが、実は勇者から溢れる闘気に怯えて魔物達は近付かないようにしているのです。

 ある程度考える脳があれば、自分より圧倒的に強い存在にわざわざ近付きはしませんから。


 「まぁいいか。そのうち見つかるだろ」


 楽天的にエルロッドは村の付近の散歩を始めました。


 そして、そうすることによって魔物達が闘気に追いやられて徐々に村に近づいていく様は、隣町であるテテアから来た冒険者から見ると、エルロッドが魔物をけしかけているようにしか見えなかったのです。


 バカですね。



―――――



 「畜生、なんだアイツ!依頼料上乗せしてもらわなきゃ割に合わねえぞ!」


 「人相は念写で写したわ。ここを切り抜けたら王都の勇者育成機関に送りましょう」


 「魔人かなにかの類か…?クソッ、キリがない!」


 不審者の監視程度の依頼として楽観視していた3人の冒険者が、エルロッドのせいでやってきたここら一帯の魔物と戦っています。


 村の方へ逃げてきただけの魔物ですが、人間からしたら襲ってきたようにしか見えないですからね。


 「すみません、わざわざ手伝っていただきありがとうございます!」


 村で戦える男達が剣を取り、槍を取り、冒険者の隣で魔物と戦っています。

 犠牲者を減らすために来たはずの勇者ですが、冒険者がいなかったら村が壊滅していた可能性さえありますね。


 「ここで見捨てられるわけねえだろ!死にたくなかったら口より手を動かせ!」


 冒険者の一人である男が村人の方を見ずにそう答えます。


 ちょっとしたクライマックスに入る中、エルロッドは村はずれの道であくびをしていました。クズが。


 「よっしゃ!あと少しだ!気合入れろお前ら!」


 冒険者パーティのリーダーの男が声を張り上げ、戦いは殲滅戦へと移り変わっていきました。



―――――



 「な…なんじゃこりゃあ…」


 魔物いないし一回戻るか、とてくてく歩いていたエルロッドの前にあったのは、大量の魔物達の死骸と疲れきった村人達の姿。


 どうやら戦いは終わったようでしたが、いつの間にか村に襲いかかったらしい魔物達に驚きを隠せません。

 勇者である自分の索敵から逃れるとは、と。


 そんなふうに惚けているエルロッドに後ろから近づく人間が3人。冒険者たちです。


 「おい、あんた」


 リーダーの男が声を掛けます。


 「こんな所で何をしてるんだ?さっき魔物の群れが来てな…この付近で人間が生き延びられるはずはないんだが」


 エルロッドはそれを聞いても自分が怪しまれてるとは全く思いもしません。


 「あぁ、それでここら辺に魔物がいなかったのか。ここらの魔物を狩っておこうと思ったんだけど」


 エルロッドはそういうと嘆息しました。

 しかし冒険者たちはそれを間に受けません。当たり前です。

 腰に木刀しか差さず魔物を狩る人間などいるわけが無いじゃないですか。


 「あ、ところで君たちは?」


 明らかに年下のエルロッドに君達呼ばわりされた冒険者は、しかし魔人かもしれないこの男の情報を得るために律儀に応答します。


 「俺たちは…魔物の動きが怪しいと聞いて隣町から派遣された冒険者だ。犠牲者が出る前に来れて良かった」


 そういうとエルロッドの反応を伺います。

 当のエルロッドはと言うと、笑顔になってこう言いました。



 「そうですか。それは運が良かったみたいだな」



 それを聞いた冒険者達、少し離れたところから聞いていた村人達にはこう聞こえました。


 「運が良くて誰も死ななかったか。チッ」


 と。

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