四十八話 「破砕杖」
アキンドを伴ってアインの街に入ったエルロッド。二日足らずで帰ってきたエルロッドを見て街の人々は笑い出します。
「いつでも来てくれと言ったがこりゃ、早すぎるだろ!」
「串焼き、買ってけよ!」
「ふふ、歓迎するわよ」
エルロッドへの歓迎振りを疑問に思ったアキンドは、エルロッドと共に入った酒場で話を聞いて驚きます。
「魔人…ですか。ということは…代償はお金だけでは済みそうにありませんね…」
少し顔から血の気が引いたアキンドでしたが、ヴァン・ピール・アインとエルロッドの戦いを面白おかしく語った男はこう言います。
「彼は何も望まないさ。強いて言うなら、人々を助け、その度に向けられる喜びや感謝に嬉しそうにしていたよ。魔人と言っても色々いるみたいだね」
少し安堵するアキンドでしたが、引っかかるのはエルロッドの言葉。
「稼げる、とは…感情を食料にしている、という訳でもないでしょうし…」
そこまで考えたところでアキンドは思考をやめました。
魂を取られるわけでもなし、エルロッドとは護衛としての契約相手でしかありませんし、個人的な興味で商売と無関係なことを考えるのは商人としては褒められたことでありません。
「利益になるのであれば話は別ですが、ね…」
アインの夜は更けていきます。
「アキンドさん、行かなくていいのか?」
翌朝、宿にて。
なんとしても届けなければいけない物を運んでいるはずなのですが、アキンドはのんびりと朝食のトーストを食べていました。
「それがですね、あの崖をショートカットしてしまったせいで二日ほど早くなってしまって…今回運んでいる物は指定された日に届けるものなので、早く行っても仕方ないのですよ」
運ばれてきたスープを飲みながら話を聞くエルロッドが納得して頷くと、アキンドが一言。
「それにこの街ではアンデッド素材を大量に安く仕入れられるのでね」
あ、そっちが本音ですね。
―――――
「いやぁ、実に素晴らしいですな。アンデッド素材はうまく売れば相当な高値になりますからな、いやぁ、素晴らしい」
とても満足気な顔でアインの街の門をくぐったアキンド。
興味なさげに着いてきたエルロッドでしたが、すぐに表情を変えるとアキンドの前に立ちます。
「なんだお前ら」
そこにいたのは数人の聖職者。ですが、存在感があまりに希薄すぎて数歩の間合いに入るまで、探知をしていないとはいえエルロッドですら気付かなかったのです。
「畏れないでください。私たちは神の使徒。我らの神のお告げに従い、死んでいただきましょう」
そう言って手に持った長杖を向けてきます。
即座に身構えるエルロッドでしたが、一向に何もしてきません。
「…?」
エルロッドが首を傾げた瞬間、凄まじい勢いで何かが放たれ、エルロッドとアキンドを襲いました。
「破砕じょ…っ、これはまずいですぞエルロッド殿!」
アキンドの叫びを聞いて即座に防御魔法を展開するエルロッド。アキンドもエルロッドも無傷のままです。
「…助かったか?なんだ今の魔法は…」
エルロッドが服装だけ聖職者の襲撃者質を睨み付けましたが、彼らは穏やかな笑みを浮かべたままゆらゆらと揺れて陽炎のように消えていきました。
「あ、あぁ、なんてことだ…」
無事に防いで安堵したエルロッドと裏腹に狼狽えるアキンド。
何事かと見に行くと、積荷の一つが粉々に破壊されていました。
「まさか聖職者は陽動か…?」
エルロッドが呟くとアキンドが首を横に振りました。
「いえ…あれはやはり、指定した物品だけを破壊する破砕杖…あんなものを持ち出してくるとは」
「そんな武器が…まあいいや」
投げやりなエルロッドをアキンドが睨み付けました。守りきれなかった以上は相手が魔人だろうとなんだろうと契約違反となります。
「エルロッド殿、お言葉だが…!」
「修復」
アキンドの言葉を無視して魔法を使うエルロッド。
するとみるみるうちに物品が元通りになり始めます。
「…エルロッド殿…これは…」
「無属性魔法。いわゆる失われた魔法ってやつだな」
そう言って歩き出すエルロッドの背後で、再び物品が砕け散る音が鳴り響きました。
「「…は?」」
再度積荷を確認したエルロッドが見たものは、物品にまとわりつく無属性の魔力でした。
商人のアキンド…




