四十七話 「たのしい交易」
アインの街を後にした勇者は珍しく徒歩での旅路を楽しんでいました。
というのもヴァンとの戦いでの魂削る刃によって少なからず魔力を削られてしまい、また次の街まではそこまでの距離でもないらしいので別にいいかなと適当なことを考えたからでした。
「のどかだなぁ…俺がこんなことしてる間もあいつらは魔王の居城周辺の魔物狩ったりしてんだろうな…」
何人かには話してあるものの、この旅路は最前線と比べると遥かに楽で、少し申し訳ない気分になるエルロッド。
勿論エルロッドはサボっているわけではありませんし、むしろ人々に希望を与え、また世界を救う希望となり望みを託されるという大切な仕事ですから、気にする必要は無いのですが。
「ま、気にしても仕方ないか。魔王を倒さなきゃ魔物は補充されるばかりらしいし…」
前回エルロッドが魔王と対峙した時はエルロッドが強すぎたため、魔物を生み出しても無意味だと気付いた魔王が直接対決でエルロッドをくだしたのです。
「あいつらすげー強くなったし、もうしばらく大丈夫だろ。俺は俺で頑張らないとな」
そういって顔をあげるエルロッド。
「で、何この山。バカかよ」
そこにあったのは山というかもはや徒歩では登れない高い壁。
「エルロッド様なら次のハルジアの街まで一日かからないだろう」。アインの街に来る時にエルロッドが飛んでいたのを見た街の人は、次の街にも飛んでいくつもりだと思いそう言ったのでしたが、エルロッドは生憎飛べません。
この道しか教えて貰っていませんし、仕方ないのでエルロッドはここで魔力を回復させることにしました。
「空飛べるのバレてたのかな…バレてたよな…まぁ勇者だし飛べるか…ハココも飛んでたし…うん…」
頑張ろうと決めた矢先に越えられない壁。エルロッドは少し落ち込みました。
歩いているうちにこの壁を超える程度の魔力は回復していたのですが、勇者は魔力が全回復するまでそれに気付きそうもありません。
そして旅路を急ぐどころか、壁の前、つまり崖の下で寝始めてしまったのです。
「寝る勇者は育つって言うしな…おやすみ…」
街の中でもないのにぐっすり眠り始めた勇者。無防備すぎますが、勿論殺意や敵意を少しでも感じればすぐに跳ね起きて戦闘に入ることができる状態になっています。
つまり魔物や盗賊が現れても勇者には傷一つ付けることはかなわないでしょう。そして――
「ワシの荷馬車あああああ」
「むにゃ…はっ!?」
どぉおおん。
――崖の上から降ってくる荷馬車など、敵意の欠片もないものについては気付くのが遅れてしまうということです。
「痛えな!なんだよ!誰だよおっさん!」
寝起き最悪のエルロッドはいつもより遥かに機嫌が悪い様子です。
それでもしっかり落ちてきた荷馬車と馬とおじさんを助けているあたり、流石というべきでしょうが。
「は、はっ、はっ、わ、ワシの荷馬車…商品は無事か…!?」
どうやら商人のようですが、自分の命より商品の確認が先とは商人の鑑ですね。早死にしそうです。
「多分無事だと思うけど…大丈夫か?てか誰だ?」
エルロッドの言葉に応えず積荷を確認するおじさん。一通り確認して無事だとわかると、すぐにエルロッドに向き直りました。
「えぇ、と。君が…いや貴方が私を?」
それ以外無いのですが、かなりの高さの崖からすごい速度で降ってくる荷馬車も馬も商人も無事に一人で受け止めたというのはにわかには信じがたいことです。
「まぁそうだけど…それより誰だよ、おっさん」
助けたことに関しては大して大事とも思っていないエルロッドは少しイライラしながらこの商人らしきおじさんに再三尋ねます。
勇者のイラつきを感じ取ったおじさんはすぐに姿勢と表情をただしてエルロッドに一礼。
「これは失礼。私はハルジアに本部を構えるゲシュタルト商会の商人、アキンドと申します」
ストレートな名前もあったものです。
「ゲシュタルト商会…ゲシュタルト商会?ってあの、王都とかにも店出してるとこか」
何度も言っているうちによくわからなくなりそうな商会ですが、その規模はかなり大きく、エルロッドでさえその名を知っていました。
「正確には店舗というより交易の拠点の一つですが。この崖やアインの街と王都の間の大森林のお陰で、ハルジアと王都は商業的な距離が遠くなってしまっていて」
なんかよくわからない勇者でしたが、なるほどなと頷いておきました。
「アキンド…さんか。わかった。俺の名前はエルロッド。旅人だ」
エルロッドも名乗りをあげると、握手を交わします。
そうして事情を聞くため、そしてハルジアの情報を得る為に勇者はその場に座ってアキンドに話しかけます。
「ここに俺がいたのも何かの縁だろ。あんなところから落ちてくるなんて穏やかじゃないしな、力になれそうなら話を聞くよ」
エルロッドがそう言うと、その実力を垣間見たアキンドは嬉嬉として話を始めたのでした。
―――――
「なんつーか、ひどい話だな。でもゲシュタルト商会ってそんなことで揺らぐのか?」
「ハルジアは商人の街ですからね…つまり信用のある者しか認めてもらえない街なのです」
商人は信用が第一とはどこで聞いたのか、エルロッドはなんかそんなこと聞いたなぁと思いつつ口を開きました。
「つまり王都にその積荷を無事に届けられなければ信用を失ってやばいんだな?」
「まぁそうなりますね」
アキンドはせつめいをあきらめた。
なんかよくわかっていなさそうなエルロッドでしたが、大筋は理解していました。
そして一つだけ確認をします。
「ゲシュタルト商会、でかいんだよな」
エルロッドの直接的な質問に一瞬面食らったアキンドでしたが、すぐに笑顔になって答えました。
「それはもう、市場の七割は完全に掌握していますし、大変潤っていますよ」
エルロッドの望みがお金だと勘違いしたアキンド。しかしその言葉でエルロッドはガッツポーズをしました。
「そういうことならかなり稼げそうだな。王都まで、いやハルジアまでの復路も護衛してやるよ」
アキンドとエルロッドは互いにニヤリと笑うと再びガッチリ握手を交わしました。
お久しぶりです、千歳衣木です。
更新ペースが遅いのは私がサボっているからです。頭の中でプロットを書いて満足して寝てしまうので、いつまでもアウトプットがされずに貯まるばかりで…。
すみません。ごめんなさい。反省はしていません。
少しでも待ってくださる読者様にはすごく申し訳なく思っています。
体力の限界を超えてでも執筆に勤しむのでどうかご容赦を。
空間を支配する最強の魔道士、千歳衣木でした。
すみません嘘吐きました。
冗談は置いといて、この辺りで。




