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勇者の強くてニューゲーム  作者: 千歳衣木
三章 たった一人の旅路
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四十四話 「切り拓く腕」

 ここ三週間ほど忙しく、合間合間に書いていてはまともな物が出来ないと思い更新を止めていましたが、やっと時間もできましたので更新再開したいと思います!


 自分勝手な都合ですがお待ちいただいた読者様に感謝と謝罪を…。


 ということでお待たせいたしました、四十四話目、楽しんでいただけると幸いです。

 街中を歩くエルロッドでしたが、魔王復活直後で、また魔王領から遠いということもあってアインの街は希望を欲しているようには見えませんでした。


 「このあたりはまだまだ平和なんだよな…」


 強いて言うなら王都とアインを繋ぐことが出来ればある種の希望となることはできるでしょうが。

 しかしそれも貴族や街の管理者が許可しないうちはいらぬ反感を買うだけとなってしまいます。


 「あー…許可を得ればいいのか」


 ぼーっとそんなことを考えながらエルロッドがやってきたのはアインの領主館です。

 街の有力な貴族も反対しているこの案件、どこの馬の骨ともわからないエルロッドが直訴したところで許可が出るわけがないのですが。


 「さて、勇者力ってやつを見せてやりますか」


 そう言うとエルロッドは領主館の前にある装飾の施された門に向かって歩いていきます。そしてお約束のように衛兵に止められました。


 「そこのお前、止まれ。何の用だ?アポイントメントは?」


 「勇者エルロッドだが、王都とこの街を隔てる森について領主と話がしたい」


 エルロッドが勇者証を見せながらそう言うと衛兵はそれをじっくり見たあとこう言いました。


 「悪いがアポイントメントのない客は通せない。今から取っても少なくとも三日後までは待ってもらうことになるな」


 勇者は、勇者力ってしょぼいな、と思いました。



―――――



 「ということがありました。如何致しますか」


 「この街に勇者が…?ふむ。まぁ話は聞いてやろうじゃないか」


 領主館最奥、領主の部屋。そこではエルロッドを止めた衛兵と領主が、昼間だと言うのにカーテンも開かずに真っ暗闇の中話をしていました。


 「了解」


 衛兵はそう答えると暗闇の中を探り探りドアに向かって歩いていきました。流石に暗闇の中、おぼつかない足取りです。

 そうして領主一人になった部屋の中、小さな呟き声。


 「森の開拓、か。一人で出来るものなら是非見せてもらいたいが」




 時は流れ、衛兵と領主が話をした、その三日後の夜。


 「勇者、エルロッド・アンダーテイカーだ。この度はお目通りさせて頂きまして…お会いしていただき…お暇をいただき?」


 街の領主という存在と関わったことのないエルロッドは距離感を測ることが出来ずにいました。


 「アインの領主、ヴァン・ピール・アインと申します。勇者殿は敬語は苦手なようですね。私は礼儀を気にする質ではありませんし、普段通りになさってください」


 領主のその言葉に安心したエルロッドは早速口調を崩します。


 「そうか?そう言ってくれるとこっちも助かるよ。用件は伝わってるか?」


 更に早速自分の用事を通そうとする目の前の勇者に冒険者の方がまだしっかりしていると、領主は柔らかに微笑みました。


 「伝わっています。森の開拓をなさっていただけると…しかしあそこはなかなかの数の魔物や盗賊が出ますから、一人では危険かと思われますが」


 領主の言葉にも全く動じないエルロッド。それもそのはず、彼は魔王以外とはまともな戦いにすらならないと思っていますし、実際その通りですから。


 「今この部屋、領主さんの後ろに控えてる五人と俺の後ろにいる二人、天井の二人より強いやつが三桁居ても問題ないとは思うけど…どうだ?」


 これを言っても信じてくれるかどうか自信の無いエルロッド。だんだん尻すぼみになる言葉にも領主は聞き返すこともなく笑顔で応えました。


 「おや、やはりわかりますか。これに気付かないようであればここで止めるつもりでしたが…森の開拓はあなたに任せましょう。なかなかの戦力を持っているようですし」


 「ほんとか!ありがとう!頑張るからな!」


 エルロッドはその言葉を聞くと嬉々として領主館を飛び出して行くのでした。


 「…礼儀も何もなっていないが、ああいう生き物なのだから仕方ないな」


 エルロッドが凄い勢いで開けて飛び出していった扉を見ながらヴァンは呟きます。


 「おい、予定変更だ。森の中で確実に、仕留めろ」


 S級勇者がどうした、こちらにもS級は沢山いる。次に会う時は骸だろう…。ヴァンはその姿を想像してニィと笑いました。


 「森の開拓は俺が止めたというのに愚かな人間だな…く、くく」

 ヴァン・ピール・アイン。

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