四十三話 「アインの騎士団」
前回の知識を生かした行動というものができなくなってしまったエルロッドでしたが、今までもだいたいそんな感じでしたので変わりません。
王都から少し北へ上った所にある街、アイン。直線距離にして馬車で一週間とすこし、王都の隣と言ってもいい位置にあるにも関わらず、その街はあまり賑わってはいませんでした。
その原因は王都とアインの間に横たわる大きな森。低級ですが魔物が出現するうえ、盗賊団もいるとの噂でめったに人通りが無く、結果交通のためには森を回り込む形で1ヶ月以上かかるのです。
ですからこのアインは、相応に人通りはあれど王都近隣にしては栄えていると言い難い街なのでした。
「さて、そろそろ見つかっちゃいそうだし降りるか」
アインの門が見えてきたあたりで低空飛行に切り替えて向かうエルロッドでしたが、土地柄盗賊や魔物に敏感な街ですから既に補足されていました。
勿論門の衛兵はそんなことおくびにも出しませんが。
「この街に入りたいんだけど」
そう言って近付いてきたエルロッドに対し、愛想がいいわけでもなく、それでいて不躾な態度をとるわけでもなく、淡々と身分証明書を閲覧して通した衛兵でしたが、エルロッドの姿が大通りに消えた直後にアインの街を取り仕切る貴族の私兵、アイン騎士団に連絡を入れました。
「飛行能力を有する自称低ランク冒険者を確認した。何者かは分からないが、気をつけろよ」
「了解」
エルロッドは再び飛行魔法のせいで疑いの目を向けられてしまっています。珍しく気を付けたというのに無意味とは、残念なことです。
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「へぇ、ここがアインの街…賑わってはいるけど、王都の近くにしてはしょぼいな…」
エルロッドが独り言を言いながら露天の並ぶ大通りを歩きます。独り言でしたが、ちょうど近くにいた露天のおじさんに聞かれたようで声をかけられます。
「おい、そこのにいちゃん…」
あ、これ絡まれるやつだ、そう思った次の瞬間には露天のおじさんがエルロッドの方に歩いてきてにかっと笑いました。
「そうなんだよ、そこの森が邪魔でさ。ちょっと前まで切り拓いて道を作るって計画があったんだが、資金元の貴族が急に辞めやがってなぁ」
エルロッドと肩を組むとグイグイと露天の方まで引っ張りながら話を始めるおじさん。少しヒゲが当たって嫌そうな顔をするエルロッド。
「あの森が要らねぇものならいいんだが、このあたりじゃあそこの森からしか取れない薬草や木の実があるらしくて困ってんだ。森に入って帰ってきてないやつもかなり多いしよぉ」
「なるほど…ちょっと広い道を作るだけで護衛つけて採取とかも楽だし、商隊の行き来も楽になるもんな」
エルロッドがそう答えるとおじさんはにっこりわらって言いました。
「ああ、そういうこった。…さて、にいちゃん。往来であんなこと言えば騎士団の奴らに睨まれるぞ?ってことで、助けてやった礼としてこの串焼き、買ってってもらおうか」
「…そんなことだろうと思ったよ…ったく」
エルロッドは苦笑しつつお金を払い、その場をあとにしました。その姿を遠巻きに見つめる騎士団の人間には気付かないまま。
お久しぶりです。時間の感覚が狂っていることでお馴染みの千歳衣木です。
書き上がったら即更新という形式のため毎日更新することもあれば何日か空くこともありますし、朝更新したかと思えば今度は夜になるということもままありまして、なんかほんと、すみません。
一つの街でそんな長くするつもりもありませんが、ある程度読み応えがあるくらいの長さで終わらせたいですね。
理想論を語るなと言われそうですのでこのあたりで。千歳衣木でした。




