三十九話 「歴代魔王の」
エルロッドのセリフにベルルカのみならず他の四人も少なからず驚きを見せます。この世界において加護を持たずに戦闘職に就くというのは不可能ではありませんが、一言の詠唱で体内の魔力を消費せずに発動できるうえ、その手軽さに合わない破壊をもたらす加護を持たないというのは不利になる要素として充分です。
特に対人ではなく魔物相手では常に死と隣り合わせですから生存率も大きく変わってきます。
しかし問題なのはそこではありません。目の前の男が加護を持たずにSクラスまで上がってきたという事実です。自分の中の魔力と高練度の闘気だけで加護を持つ相手と渡り合ってきたのです。いえ、その悉くを下してさえいます。
「あぁ、正確に言えば加護はあるけどな。まだ発動出来てないと思うんだ」
ますます意味のわからないことを言うエルロッドに五人の疑問は尽きません。しかしエルロッドはそれ以上何かを言う事はなく、シキを誘って戦闘を開始してしまいました。
「わかりませんね。いかなる加護なのか…」
―――――
Sクラスの生徒全員と戦い、連戦にも関わらず衰えを見せずに完璧に勝ちきったエルロッド。確かに戦闘中に加護は使っていませんでした。
ベルルカ含め五人、計3時間にも及ぶ戦闘でかなりの魔法を放ち、縦横無尽に駆け回ったにも関わらず息も切れず汗ひとつかいていません。これだけのスペックがあれば加護の一つや二つなくても困らないでしょう。
「それで、あなたの加護は一体どういったものなのですか?」
最後の相手、ハココを相手に戦術指南をしているエルロッドに近付いて話しかけたのはベルルカです。全員が思っていた疑問ですが、エルロッドが特に話したいようにも見えなかったのでなんとなく触れずにいた話題でしたが、ベルルカは聞いておきたかったのでしょう。
尋ねられたエルロッドは一瞬その表情に陰りを見せたものの、次の瞬間には笑ってこう答えました。
「ああ、俺の加護の名前は望まれるものって言うんだ。所謂魂の加護って種類の加護だな」
勇者の持つ加護の名を聞いたベルルカは信じられないというように目を細め、言います。
「そんな希少な加護を…?それではまるで…」
魂の加護。それはとても希少であり、人々の間で語り継がれる様な存在しか持っていない、そんな加護です。
そしてその、語り継がれる存在とは。
「…魔王、であるか」
アザトの小さな言葉に緊張が漂い、エルロッドがまたかと苦笑する中、ハココが口を開きます。
「歴代魔王の持つ加護は確かに魂の加護。魂の加護を持たない魔王はいない」
その言葉でエルロッドが魔王であるという疑いは確信に変わりました。しかし。
「魂の加護を持つ人間の英雄も稀に存在が確認されている。そしてこれはあまり知られていない事実だけど」
続くハココの言葉に、展開を知っているはずのエルロッドでさえ驚きました。
「歴代勇者もまた、魂の加護を持っていた」
お久しぶりです。更新出来ず申し訳ありませんでした、でお馴染みの千歳衣木です。嘘です。
三、四日に分けて書いていたはずなのに文量が少なすぎてなんか本当に申し訳ありません。頑張ります。




