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勇者の強くてニューゲーム  作者: 千歳衣木
二章 勇者育成機関にて
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三十七話 「ばとるすたんばい」

 「そこで俺は言ってやったのさ。俺こそが勇者、エルロッド・アンダーテイカーだとな!」


 ついにSクラスにまで登り詰めたエルロッドは今、ヒスイに向かって大きな身振り手振りで何らかの冒険譚を語っているところでした。

 かなり大げさに語っているようですがヒスイは目を輝かせて聞き入っています。将来こういう男性について行ってしまいそうで心配になる光景ですね。


 「彼、すごく適応能力が高いようですね。Aクラスまではとても真面目に講義を受けて訓練をしていたはず、なのですが」


 それを眺めるベルルカ、アザト、シキ、そしてハココ。そういった感想が出るのも仕方の無いことと言えるでしょう。


 「全くじゃ。まるで知っておるかのように自然に溶け込みおったわ」


 シキが嘆息します。実際エルロッドはSクラスがどういうものであるかを知っているのですが、流石にそこに気付く事はないようですね。


 ちなみに今は勇者論という講義の自習時間です。

 何故自習時間なのでしょうか。


 勇者論というのは勇者がどうあるべきか、どう生きるべきか、それを語ったものです。多くの学者が古来からこの学問について話し合い、進化を遂げてきましたがその実、この学問で言われることとは「勇者は弱きを助け強きをくじく、善の味方であるべきだ」ということです。


 その理念をより噛み砕き、個人としての在り方、他者と関わる時の在り方、自然や神への在り方など細かく分かれて入るものの、結局はその一文さえ頭に入っていれば問題がないということになります。


 「とはいっても、エルロッド殿もまた勇者に相応しい強者である。型にははまらないのである」 


 アザトの言う通り、Sクラスにまで高まった実力というものは自分というものを持っています。大なり小なり芯というものがあります。


 ですから、強者に勇者論というありきたりで基礎的な教えなど枷にしかならないということです。相反する、とまでは言わないまでも勇者論と相容れない思想を以て強く在る者も多くいますから。


 つまり、Sクラスとは、人間達の技術ちからではこれ以上強くなることの出来ない極致に至った者達の集うところであり。

 そこで行われる講義は全てが自習時間、訓練は人外達の戯れです。


 毎日することもなく、全員が集まるのは戦闘訓練のある日だけ。

 Sクラスに集う人外達は暇潰しとSクラス勇者資格を与えられるためだけにここに来ていました。


 しかし今日は、今日だけは違いました。


 ヒスイに冒険譚をきかせ終えたエルロッドは軽く伸びをして席から立ち上がり、こう言うのでした。


 「戦闘訓練、やりますか」



―――――



 講義の時間が終わり、戦闘訓練の時間がやってきます。それはエルロッドを含めたSクラス全員が待ち望んでいたことでした。


 「最初は私からでよろしいでしょうか?」


 「レーディ・ハースト、というものはどうしたのじゃ?」


 抑えきれないと言うように笑顔に闘気を立ち上らせてハルバードを構えるベルルカにシキが食ってかかります。

 早く戦いたいのは皆同じなのです。


 「なんだそれ?必殺技か?」


 そんな中でエルロッドだけがあっけらかんとしていました。前回は聞いたことのない単語にあほ面を晒しています。それはいつものことでしたね。


 「婦女子優先レディ・ファーストの精神ですね。確かに貴族の男性には重要なことです」


 苦笑し、そう言ってシキと目を合わせるベルルカ。


 「!なら…」


 「しかし男性というものは誰よりも率先して武器を取り戦うもの。最前線は私から行かせていただきますね」


 そう言うやいなやアザトの便乗やシキの不満、よくわかっていないヒスイの疑問やハココの無言の重圧を全て無視し、爽やかな笑顔でエルロッドに向かってハルバードを振り下ろしました。


 「よくわからないけどもう戦闘開始か?」


 話を聞いていなかったエルロッドは出遅れてしまう、ということもなくハルバードを闘気で受け止めるとベルルカを大きくはじき飛ばしました。


 「んじゃとりあえずベルルカから、な。よろしく」


 「ええ。お手柔らかに」

 毎度お読みいただきありがとうございます。

 今回、恥ずかしいことに急な環境の変化に発熱してしまい、執筆がままならないという状況で二日間も更新が止まってしまいました。

 更新が止まらないよう努力するなどと言いつつもこの醜態に返す刀で斬りつけます。すみません。返す言葉もありません。


 まさか端末がここまで熱くなるとは流石に予想外でした。

 クーラーも付けずに執筆など愚策でした。次からはしないようにしようと誓った千歳衣木です、こんばんは。


 挨拶をしたばかりで申し訳ないのですが、このあたりで失礼します。


 千歳衣木でした。それではまた。

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