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勇者の強くてニューゲーム  作者: 千歳衣木
二章 勇者育成機関にて
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二十九話 「財宝の竜」

初日の訓練以降も全く衰える気配を見せなかったエルロッド達昇級組。元仲間だからと馴れ合う事はなく、むしろ他の生徒達とやりあう時よりはるかに生き生きとし、激しい戦いをしていました。


「もうすぐだな」


そんなこんなで日々は過ぎ、昇級試験まで残すところ七日間というところまでやってきました。エルロッドの近くにわざわざイムとフレデリカが寄ってきて話をしています。

この三人は昇級組のくせにクラスでの最上位をあっさりと奪い取った実力者ですから周りの人間にあまり良く思われておらず、こういった談話は三人で行うのが常となっていました。


「エルロッド君は何を狩るつもりなんだい?」


「俺か…何も考えてなかったな」


エルロッドは自分に振られて考え込みました。以前冒険者ギルドの依頼にいい感じのものがあったはずです。

そこに記された名前は確か…。


「あぁ、ファフニールか」


そう口にした途端近くで聞いていたイムやフレデリカだけでなく、教室の何人かの生徒までもが振り向く気配。

にわかに教室がざわざわとし始めます。


「ふぁ、ファフニールって…エルロッド君ならやれるか」


「アンダーテイカーさん…ファフニール…まぁ大丈夫ね」


イムとフレデリカは即座に落ち着きを取り戻したようですが。


生徒達がざわざわとしたのには理由があります。ファフニールは毒を吐くドラゴンで、たくさんの財宝を溜め込んでいるのです。

勿論ドラゴンの一種族でしかありませんが、ドラゴンというカテゴリが既にAランクの怪物。Sランクのドラゴンなどざらにいます。

ファフニールはぎりぎりAランクなのでSランクもしくはAランクの冒険者であれば単独で撃破することも可能です。


しかしエルロッドはBクラス、つまり冒険者で言えばBランク。世間から見ればとても強い部類に入りますが、ドラゴン達から見ればどんなに弱いドラゴンから見ても格下です。

そんなエルロッドがファフニールを狩る。まぁSクラスに届くだけの実力者ですから本来心配はいらないのですが、周りの生徒達はそうは思いません。


昇級したいからって欲を出すな、いくら強くてもお前はBクラス内で最強ってだけだ、そういった思考が教室を支配していました。


「ファフニールの討伐依頼って年中出てるしな、わざわざ人を襲って財宝かき集めてる害虫は駆除だ、駆除」


「ボクはどうしよっかなぁ、理性のない相手が好ましいんだけど…」


「私はワイトあたりね。奴ら燃えやすいもの」


そんな空気の中エルロッド達は気負った様子もなく教室を出て行ってしまいました。



―――――



「さて、久々の一人旅だな。行くか」


昇級試験当日、エルロッド・アンダーテイカーは冒険者ギルドの前でそう呟き、口元に笑みを浮かべます。


ファフニールの討伐依頼を受けて意気揚々です。


「ツガウ山あたりに生息するファフニールの討伐、か…詳しい巣の場所もわかってないのにこんな依頼ってあんまりじゃねえか?」


小さいことでぐちぐちとうるさい勇者です。しっかりしてください。

ともかく気を取り直して勇者は空へ飛び立ちます。前回の試験の後で入門審査を受けていない事に気付いたエルロッドは、門の通行記録が残っているため、門から出ることが出来ないのです。

ファフニールを狩ってきた後で入門審査を受けるつもりですね。


ちなみに、エルロッドと同じくエグザグの背中に乗っていたイムとフレデリカですが。

機関長のブレイブに事情を説明したので通行記録を作ってもらい事なきを得ていました。エルロッドは頭が回るタイプでは無かったのでしょうか。バカです。




「ツガウ山到着っと。ファフニール、どこにいる?」


鼻歌を歌いながら歩くエルロッドですが、ツガウ山はただの人間が歩くには少々危険なところです。

魔物が出るのは勿論のこと、岩肌が剥き出しで歩きづらく標高の高さ故に呼吸すら勝手が違います。

見渡せばあたりは雲海、その白を貫いて灰色の塔が連なっているかのような神秘的な光景です。しかしそれは、斜面のほとんどないこの岩山は登るのも一苦労、少しでも足をすべらせれば遥か下の地面に叩きつけられるのは明白でしょう。


…人外でなければ、の話ですが。


エルロッドが眼下の雲を見ながらファフニールのものと思われる魔力を感知します。

その数、八十。

高度や距離をずらしつつエルロッドを完全に包囲しています。


「…これは困った」


全く困っていなさそうな表情で呟くと、視線を雲海から上げます。


大きな翼をはためかせて滞空する灰色の竜たちがエルロッドに緑色の瞳を向けています。


「話し合いでどうにかなる雰囲気ではなさそうだな…」


一閃。目にも留まらぬ速度で木刀を振るうと、にやりと口元を歪めます。


「かかってこいよ、ファフニール!」


エルロッドの声に応えるように雄叫びが上がり、八十対一の死闘が始まります。




「グルルルルルアァ!」


唸り声とともに放たれた白いガス。

毒です。


それをひと薙ぎで振り払った勇者は毒ガスを吐いたファフニールに向かってこう言います。


「その程度か!なら今度はこっちから――」


セリフは最後まで続きません。

真横から別のファフニールが顎を広げ、岩肌ごとエルロッドを噛み砕くつもりで突っ込んできたのです。


「よ、っと」


それを上に回避し、上顎を殴りつけて口を閉じさせます。

そうしてエルロッドはそのファフニールの角をへし折り、ファフニールを蹴り飛ばしました。

あわれ、気絶したファフニールは雲を散らして地上へと落下していきました。


「角さえ取れれば範囲魔法で潰せるんだけどなあ」


ボソッとつぶやくとそんな考えを振り切って正面を見据えます。


「まとめてかかってきていいんだぜ?その方がやりやすい」


親指をクイッと下に向け、本日二度目のスクリーム。


「お前らまとめて皆殺しだあああああああ!」



―――――



その日、ツガウ山の近隣の町ではこの世の終わりかと思うような轟音と閃光が観測され、王都の冒険者ギルドでは八十体分のファフニールの素材と貯め込んでいた財宝の持ち込みがありました。

それを成した冒険者の名は、機密とされ、やがては単なる都市伝説として語り継がれていくのでした。

毎度サブタイトルに無理があるように思えてきました。法則性をつけるべきでしょうか…。

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