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勇者の強くてニューゲーム  作者: 千歳衣木
二章 勇者育成機関にて
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二十六話 「死ぬかと思った」

エルロッドにより山肌ごと消滅させられた村。エルロッドの近くにいたフレデリカと不死者のイム、それからどうやら無属性に耐性がある様子のエグザグ以外生きる物の気配はありません。

以前から村の人間以外の気配がしなかった山ではありますが。


「…あれ、やりすぎたかな」


右手を掲げたままそんな事を呟くエルロッドにフレデリカは開いた口がふさがりません。何やってるのこの人。

二人が硬直している間、少し離れたところでイムが再生し始めていました。


「エルロッド君、わざわざボクを巻き込まなくても良かったんだよ?」


虚無に飲み込まれた恐怖は大きかったようで、さすがのイムも顔面蒼白です。しかし言い訳がめんどくさくなったエルロッドはこう言います。


「それはあれだ、お前なら大丈夫だろうなっていう信頼の証だ」


「えへ」


可愛くないのでやめて欲しいものです。ちょろいです。顔を赤らめて俯くイムを見たエルロッドとフレデリカは二人揃って顔を背けました。何も言わないのは優しさです。


と、イムが急に叫びます。


「エル…っ!後ろ!」


咄嗟にイムの方に飛びつつ体の向きを反転させるとそこには。


「っし、死ぬかと思ったって感じ…!」


「いやお前、死んでるから」


魂だけの存在となった娘が佇んでいたのでした。



―――――



「申し遅れたって感じ…。私は魔王様の配下にして古株ナンバーフォー…!ネクロマンサーのアニマって感じ…!」


エルロッドの死んでる発言を意識的にスルーして自己紹介を始めるアニマ。口調とは裏腹に割と我の強い性格みたいです。


「そうか。でもお前死んでるぞ。あとナンバーフォーって微妙だな」


エルロッドはそう言いました。実はアニマとは会うのが二回目ですし、ネクロマンサーということももちろん知っています。


「ね、ネクロマンサーは器を乗り替えて生きるって感じ…!元々魂だけって感じ…!あとナンバーフォーは栄誉ある一桁台って感じ…!!」


必死で言い訳するアニマ。まぁ実際それは本当のことなのですが。


「俺の仲間に不死者がいて助かったな、無属性魔法は基本魂までは干渉しないんだ。同士討ちにならないように調整したせいでお前が生き延びてしまった」


何故か若干説明口調のエルロッドに声が掛かります。


「それ絶対ボクごと全部吹き飛ばしたかっただけだよね!?」


勿論勇者はスルーですが、フレデリカが流石に若干不憫そうな目を向けました。

そして勇者の他にもう一人、イムの声を無視する者が。


「む、むむむ無属性魔法の特性なんて知ってたって感じ!バーカ!しね!」


アニマです。どうやらエルロッドが本当にイムの為に無属性魔法を選択したと思っているようですね。


「お、覚えとけって感じ…!次こそ恐怖の死霊軍団を作り出して人里を襲ってやるって感じ…っ!」


そしてなにやら捨てゼリフを吐くと魂だけとなった状態でどこかへ飛び去っていきました。少し経って「魔王様ってどっち!?」と聞きに戻ってきたのは彼女の名誉のために黙っておきましょうか。



―――――



「さて、そろそろ起きろエグザグ」


アニマが去ってからしばらくして、エルロッドがそう声をかけました。フレデリカとイムの攻撃を受け、さらに虚無領域にも飲み込まれてただでは済んでいないはずなのですが。


「…マァ、バレるか。規格外のガキどもメ…」


ただでは済んでいないはずなのですが…平然と起き上がり言葉を発しました。


「こいつまだ…!」


「エルロッド君!」


そしてそれを見たイムとフレデリカが即座に武器を構えます。臨戦態勢です。


「いやいや待て、説明させてくれ」


しかしエルロッドが間に割り込み待ったをかけます。どうやらエグザグも戦う意思はないようです。


「エルロッド君どいてそいつ殺せない!」


「何を言ってる!?落ち着け!」


興奮しているイムをなだめるとエルロッドが改めて口を開きます。


「エグザグはもういい奴になったはずだ」


「その通リだナ」


エルロッドとエグザグがそう言います。


「……え?それだけ?」


自己完結するふたりの情報の少なすぎる説明では何も伝わってきませんでしたとさ。

アニマって名前そのまま過ぎますが可愛い名前ですよね

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