二十四話 「わなびーとらっぷ」
「来るのが早い、昨日来たばかりではないか…」
風切り音が近付いてくるにつれて周りの人間たちの表情がこわばり、どこかから呟きが漏れました。
エルロッド達も今一度手に握ったそれぞれの得物を構え直します。
二週目の勇者はともかく、イムとフレデリカは初めての実戦ですから、緊張感がビシビシと伝わってきます。勇者は初見の敵相手にワクワクしていましたが。戦闘狂なのでしょうか。
「日が落ちたので日付は変わったろう?ワレが来てやったぞ!」
そうして宵闇と共に降りてきたのは目が三つある灰色の巨大な怪鳥でした。鋭い翼に硬質な羽根、金属的な輝きを持つそれらが大きな風を巻き起こし、地上に降り立ちました。
エルロッド達からは見えませんが、尾の方は二股に分かれた大きな大蛇が舌をチロチロと出してあたりを警戒していました。全方位に死角無しです。
怪鳥が降り立つとその大きさは高さだけで平均的な人間五人分。翼を広げればその威容は十人分では足りないでしょう。
「そ、それではどうぞ」
村長が怪鳥から目を離さずにそう言いながら後ずさります。気まぐれに羽根を飛ばされたり、あるいは嘴で突かれたり、それだけであっけなく命が失われるのですから当然でしょう、足は震え、顔面は蒼白でした。
「わかった、そんじゃイム、フレデリカ」
「ん」
「んぐ」
エルロッドが声を掛けると後ろからくぐもった声。何事かと振り向くと、イムとフレデリカが後ろ手に拘束され、猿轡を噛まされた状態で柱に縛り付けられていたのでした。
「なん、だこれ!?」
エルロッドは叩きつけるように振り下ろされた槌を弾き返しつつ、その場から飛び退きます。直後、勇者がいたところに轟音を立てて怪鳥のくちばしが突き刺さり、破壊をもたらしました。
「ホウ、ワレの攻撃をかわすとは今回のはなかなか骨のある生贄ではないカ!気に入ったァ!」
怪鳥が翼を広げて咆哮しました。空気がビリビリと震え、村人の何人かは昏倒してしまいます。
しかしエルロッドはそれより気になったことがあり、怪鳥に問いかけました。
「生贄ってなんだ!俺らのことか!?」
叫びつつ木刀で殴りかかります。それを受け止めつつ怪鳥が答えました。
「何を今更!まんまとおびき寄せられたエサ共メ!」
今回エルロッドたちが選んだこの依頼は、冒険者ギルドを通して受注した失敗回数ゼロの新しい依頼です。今まで誰も受注せずにいたもののはずですが、鳥の口ぶりからすると何度か冒険者を食べているようです。
「きいたところで死ぬのだ!どうするというのかね!」
心底楽しそうな声で翼を振るいながら叫ぶ怪鳥。それに対し高速で木刀を叩きつけながらエルロッドも嬉しそうに答えました。
「…ま、どんな手段だとしてもお前が死ねば生贄なんて馬鹿げたものもなくなるわな。やり方なんて聞くまでもないか」
そう言うとエルロッドと怪鳥が大きく激突してお互いに後ろに下がります。
「下等な…虫けら、いや、ヒトの分際でなかなかヤルではないか!」
「お前が弱いんじゃね?」
ニヤリと笑うとエルロッドは誰かに向けて声を掛けます。
「てかそんなことより、そろそろ起きねーとお前ら評価下げさせるからな!」
誰かではありません。エルロッドの声に応えるように立ち上がったのはイムとフレデリカ。
「このまま拘束されてれば班長が余裕でやってくれると思ったんだけどなあ」
「先ほど拘束の際に私の体をまさぐった奴がいたので、巻き添えで殺してしまってもわざとじゃないからね」
心底面倒くさそうに拘束を焼き切るフレデリカと、そもそも感覚阻害で拘束されているように見せていただけのイム。
それを見て村人は震え上がり、怪鳥も面白そうにホウ、と吐息を漏らしました。
「勇者育成機関一年次Cクラスエルロッド班、班長エルロッド・アンダーテイカーならびに」
「同じくエルロッド班、班員イム・ルッタオ」
「同じくエルロッド班、班員フレデリカ・コロナです」
それっぽい口上を述べると狙い澄ましたかのようにぴったりと同じタイミングで。
「「「自称カミ殺し、参る!」」」
エルロッドとイムがそれぞれ左右に分かれ、フレデリカが後ろに飛びます。同時に攻撃が放たれると、怪鳥が笑い始めました。
「ハハハハ!面白い!ならばこちらも名乗らせてもらおうか!」
三人同時の攻撃を捌きながら続けます。
「ワレはカミ!この山に古くから棲む鋼の鳥!鋼鴉エグザグ!我がカテとなれ、エルロッド共!」
鋼鴉エグザグ、そう名乗ると激しく風が吹き荒れました。強靭な翼をひときわ強く振り抜いたのです。
月が出て怪しく輝く中、戦いは激しさを増していくのでした。
更新遅くなってしまい申し訳ございません、ペースを戻せるよう精進いたします。忙しや…




