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勇者の強くてニューゲーム  作者: 千歳衣木
二章 勇者育成機関にて
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二十三話 「暴虐なり」

「元気してたか?ワレだ。神だ。前回から約束通り七日経ったので捧げ物を受け取りに来た」


この村には定期的に神が舞い降ります。


「ナニ?まだ五日しか経っていない?ワレを謀ろうというのか!クズめ!」


神という名の理不尽が。逆らうことの出来ぬ圧倒的な力が。


「ワレの見事な体が下等な血で汚れてしまった…なんだ貴様は?そこそこ美しいではないか」


自分勝手で考えなしの理不尽が我が物顔で闊歩するのです。


「ほう、ホントに五日しか経っていなかったのか。ならば貴様の顔に免じてこの場は引いてやろう」


そこにいる「ヒト」を「ヒト」とも思わない「カミ」は何も与えません。ただ奪い去るだけです。


「それまでこの娘と遊ぶこととする。ではまたな」


誰か、救いを。



―――――



「くっそ遠いな!」


一夜を明かし歩き通しでも未だに目的地の集落があるという山は遥か遠いように思え、長い長い一本道の中エルロッドがそう叫びました。やまびこが返事をします。情緒も何もあったものではありませんが。


「もはや認識阻害の魔法でも掛けられてるんじゃないかってくらい変わり映えしないねえ」


そしてエルロッドの後ろからも気だるげな返事が聞こえてきました。特殊な技能や体質を持つ生徒達が多い勇者育成機関の中でも稀有な存在、不死属性持ち(イモータル)のイムです。


「あなた達ここ普通に魔物とか盗賊とか出るのよ!油断しないでよね!」


そんなだらけきった男二人に無駄だとわかっていながら言わずには居られないのがフレデリカ・コロナ。魔法使いの名家出身ではあるもののどこか丁寧ではない印象を受ける女子です。


パーティ唯一の良心のようにも思えるのですが、肝心なところでは容赦が無かったり抜けているところもありますし、イムとエルロッドの二人には何を言っても無駄なので良心になりきれていない感じはあります。


「つってもなぁ、気付いたら閉じた廻廊にハマってるし」


エルロッドがぼやきました。そしてそれと同時にイムとフレデリカが瞬時に構えを取ります。


「気付かなかったよ、いつの間に…」


「流石アンダーテイカーさんね、と言いたいところですが悔しくてたまりませんわ」


二人は武器を構えていつでも動き出せるようになっているのですが、表情を見ると明らかに別のことを考えていますし実際エルロッドに注意が向いていました。


「ハマってるのに気付いたのは感覚だから二人もそのうちわかるようになるさ。慣れだよ、慣れ」


閉じた廻廊というのは常に発動しっぱなしで魔力のゆらぎが観測しづらい為に掛かったことにすら気付かない凶悪な結界のことです。ある方向に向かって歩いているはずが一定の距離を進むとスタート地点に戻される、いえ、認識阻害によって自分から戻ることになります。


そしてさらなる特徴として、この結界は術者が結界内部にいる必要がなく、もしハマってしまった場合には結界内部の広大な空間すべてを虱潰しに回って術のよりしろを破壊する必要があるため気付いても抜けられないのです。


「まぁ今回のは一回目ってことだし割と依頼が急ぎなんで力づくで壊すか」


その言葉にイムとフレデリカは興味津々でエルロッドを見つめます。まず閉じた廻廊もですが、さらにそれを力づくで破壊するなんて普段見れない光景ですから。

エルロッドが無造作に手に持っていた木刀を空間に突き立て、手を離します。すると木刀は見えない壁でもあるかのように地面と平行の状態で留まりました。


「魔剣空喰(カラクイ)


そうしてその木刀を媒介として発動させた術式はカラクイ。本来であれば突き立てた相手の存在を空間ごと咀嚼し虚無に帰す魔法なのですが、結界内はすべて地続きの空間であるためカラクイで破壊することが可能なのです。


勿論馬鹿げたパワーと術式の完全掌握並びに莫大な魔力を要しますが。


「ふぅ、しかし閉じた廻廊を仕掛けておくとはなかなかやるようだな。この先の魔物も」


エルロッドがそう言いました。

知恵が回るとかそう言った意味ではなく、もちろんそれもありますがもしこの複雑な術式である閉じた廻廊を魔物が仕掛けたとしたら身体能力だけでなく魔法も使える相手だということになります。厄介極まりないです。


「今回は何度死ぬかな」


「命に対する考えが軽すぎる…」


そしてそんな厄介な相手に対するエルロッド以外のふたりの反応はこうでした。

エルロッドが規格外なのもありますがイムとフレデリカも充分強いので大して心配はしていないようですね。


エルロッドの方も魔物の事は気にしていません。前回の旅ではこの仕事がなかったため全く先が見えませんが、魔王以外の相手に遅れを取るとは思っていません。

仮に閉じた廻廊を仕掛けたのが別の存在で、それが魔人であった場合、イムとフレデリカには少し離れたところにいてもらわなければなりませんが。


「まぁいいや、考えてても始まらないし。行こうか」


何が来ても俺が倒せば問題は無いな、そんなことを思ってエルロッドは歩みを再開しました。



―――――



そうして勇者達が件の村についたのは日が暮れかけてからでした。

木々が不気味にざわめく山の中はただでさえ薄暗く、日が暮れきっていない今でもまるで夜の様な漆黒の帳が降りています。


「な、何か出たりしないわよね?」


「知ったこっちゃ無いです」


エルロッドは怯えるフレデリカを安心させるためにわざとつーんと返したのですが恐怖に震える人間はわざととかわざとじゃないとか関係なく怖いのです。

たとえ君に「いない」と言われても、それがお化け記念日になる訳では無いのです。いるとかいないとか何言われても怖くなるのです。


ですからエルロッドは、コロナ家の血統が最も得意とする魔法を浴びせられて頭がチリチリになってしまいました。


「おぉこれは、これは、冒険者の方…お待ちしておりました…?その傷はどうしたので…?」


おかげで村長らしきお爺さんに会った時黒焦げで頼りなさ気なエルロッドを一目見たその時すぐに落胆したような表情になったのでしょう。

エルロッドはこんなですがちゃんとやるので見ていて欲しいものですね。


「仕事の内容は依頼書の通りでして…」


村長の、依頼書には載っていなかった事実や悲しみの声を聞き三人の勇ましき子供たちは憤怒で燃え上がりました。


「「「いっぺん残らず塵にしてやろう」」」


日が完全に落ちた空に響く大きな風切り音が会敵と開戦を村人達に教えました。

珍しく休日更新です。

毎回思うんですが一話最大で七万字以内での入力ってなかなかじゃないですか?

ニューゲームは今回で二十四部になりますが五万字にも到達してない気がします。一話一話が短いですね。精進します。

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