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勇者の強くてニューゲーム  作者: 千歳衣木
二章 勇者育成機関にて
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二十一話 「こんなにコケにされたのは初めてよ」

早くも畏怖と憧れの存在と化した、なんてことは無いのですがエルロッドは確かにCクラスにおいてトップクラスの存在だと認識され、そうして早くも一ヶ月の月日が経ちました。


そう、昇級試験がやってきたのです。


「今回の昇級試験を突破すればBクラス。つまり、人外に足を踏み入れる可能性がある領域となるわけだね。まぁボクらは既に人外と言っても差し支えないだろうけど」


そして初めて受けるCクラスからの昇級試験の説明を興味深そうに聞いていたエルロッドの隣には何故か懐いてしまった様子のイム・ルッタオが。


「なんでお前俺についてくんの?なんなの?」


「つれないこと言わないでくれないか、何度となく濃厚でぐちょぐちょな交わりをしたというのに」


「語弊のありそうな言い方をするな!あっち行け!」


イムはなんか気持ち悪くなっています。はじめての戦闘訓練以来、イムはやたらとエルロッドに戦いを挑んでは殺され、砕かれ、浄化されかけ…しまいにはどんな人間でも受け入れるはずのエルロッドが自分から避けるようになるという酷い有様となっていたのでした。


「まぁ冗談はともかくとして君は誰とパーティを組むのかな?」


イムが急に真面目な顔…いえ、まだニヤニヤしてますね。少なくとも危険そうな目をやめてエルロッドに問いかけました。


「あー、お前とは組まねぇ」


それに対しエルロッドは心底嫌そうな顔をしてそう答えました。

CクラスからBクラスに上がるためにはクラスの中でパーティを組み、召喚した物ではなく討伐依頼が出されていたりと危険な、少しでも気を抜けば容赦なく命を刈り取りに来る本物の魔物を討伐してくる必要があります。


そして、三人以上六人以下のパーティを組めなければ協調性無しとして昇級試験すら受けられない…なんてことは無いのですが、三割ほど点を失いますので、た二人組あるいは一人なのに他のパーティより迅速に、他のパーティより遥かに強力な魔物を狩ることが出来なければ合格は不可能でしょう。


「なっ、エルロッドくんってボク以外に友達いるのかい?」


少し驚いた表情でそんなことを言うイム。悪気はないのです。純粋な疑問です。


「それはこっちのセリフだ!あっちいけっつってんだろうがああああああ!!!!」


Cクラスでイムが自分以外の人間に話しかけているのを見たことのないエルロッドが、ついに何かがぷっつんしてブチギレました。


「今回はクジじゃなくて自分達で選んだ相手とパーティを組むんだからお前とはやらねぇ!前から決めてんだ!さっさと他のやつ誘ってこいよ!!」


そう言うとエルロッドは肩をいからせ歩いていってしまいました。

残されたイムはというと、


「いつになったら素直になってくれるんだろうなあ」


バカでした。



―――――



「さて、じゃあ俺と組んでくれる奴を探さなきゃな…」


エルロッドは一人でも合格できる実力はありましたが、そうするつもりはありませんでした。

何故ならパーティを組んで弱い魔物を瞬殺した方が早く終わるからです。


「まだパーティ組んでないやつ…いないのか…」


エルロッドが周りを見ますが誰も名乗りを上げません。

エルロッドを受け入れるのが嫌なのではなくむしろ、エルロッドをどこが取るかで熾烈な争いが起きているのでした。視線で。


そしてそんなことも気付かないエルロッドは、やがて一人でいる女生徒を見つけてそちらへ歩いていってしまい、タイミングを逃したパーティたちは舌打ちをして解散していきました。


「よぉ、初めまして…じゃねえよな、えっと確か」


「あらごきげんよう、アンダーテイ――」


「ミス、ブラッディ?」


「誰が血塗れよ!フレデリカよ!ぶっ殺すわよ!」


急に名前を間違えたエルロッドに対し大層お怒りの様子の女生徒、もとい、コロナ・フレデリカ。

そんなフレデリカさんの様子を見てエルロッドは即座に謝ります。


「ごめんごめん、間違えた。ブラッディはモンスターの名前だ」


「なお悪いわよ!なんなのよ!」


不憫なフレデリカさん、普段は優しいのですがすぐ怒りますし高圧的になるので集団演習なんかでは若干避けられている節があり、今回も昇級試験という大事な局面なこともあり孤立気味でした。

近くでフレデリカさんを誘うかどうかで悩んでいるパーティがいたのですが、エルロッドが来たおかげでフレデリカが孤独になることはなくなりました。よかったです。


「まぁそんな事は置いといてだな」


「そんなことってなによ!?」


フレデリカさんをいじめるエルロッド、全然勇者魂が見えませんね。カスです。


「フレデリカ、今一人か?俺とパーティ組んで欲しいんだが」


エルロッドのそんな言葉にフレデリカの表情から険が取れて、可憐な笑顔を見せました。


「謹んでお断りするわ」


断られました。無様なものですね。


「今のは組んでくれる流れだろ!?」

「何言ってるのよ!どうしたらそうなるのよ!」

「いや流れだって!今のはあったよ!」

「散々人のことバカにしといて!?だいたい二人じゃパーティにならないわよ!」


ギャーギャーと言い争う二人を見て微笑ましい空気が流れます。

いや仲裁に入りましょうよ。

誰も彼もが子供レベルの言い合いを生暖かい目で見守る中、一人の生徒が動きました。


「じゃあボクもそこに入ればパーティの条件は満たされるし、前衛後衛サポートとバランスもいい。それでどうかな?」


流し目でエルロッドを射抜くイムの姿に、さすがのフレデリカも一瞬にして沈黙し、エルロッドに同情の目を向けました。


「いや、だからお前とは組まないって…」


「でもほら、ボクとエルロッドくん、フレデリカ嬢なら変わり者トリオだしお似合いじゃない?」


さらっと人のことを変わり者扱いとか遠慮がないですね。

そしてそんなことを言われたエルロッドは黙っていられません。


「変わり者はお前とフレデリカだけだろうが!俺を入れんな!」


てっきり、イムだけだろ、などの言葉を予想していたフレデリカは驚きのあまりエルロッドを二度見してしまいました。


「なっ、あんた達こそ変わり者じゃないの!こんなにコケにされたのは初めてよ!?」


フレデリカがブチギレます。当たり前です。こんな人外オブ人外コンビに変わり者扱いされた日には悪魔憑きにでもなってしまいそうですからね。


「別に悪気があったわけじゃ…」


「だからなお悪いわよ!なんなのよそのスタンスは!はー、まったく…」


フレデリカさん、ブチギレてると思ったらちょっと笑ってますね。どうしたんでしょうか。


「これ以上からかわれるのも面倒だから組んであげるわ、もう。感謝しなさい!」


なんだかんだちょっと楽しかったようです。可愛いとこあるじゃないですか。

そして少し恥ずかしそうなフレデリカに対し、勇者も口を開きました。


「いや、俺イムと組まねぇし」


「空気読めやクソガキャアアア!!!」


訂正、ほんとにめんどくさかったみたいです。

ともあれエルロッドが折れ、イムとフレデリカとの三人でパーティを組むことになり、少し不安の残るパーティとはいえどうにかこうにか最低限の人数が揃いました。


いよいよ、実戦です。

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