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勇者の強くてニューゲーム  作者: 千歳衣木
二章 勇者育成機関にて
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二十話 「情け容赦」

「へぇ…不死属性イモータルか。人里でこいつぁ珍しい」


服こそ血みどろのぐしゃぐしゃですが体には傷一つないイムの姿を認め、エルロッドが半ば安堵したように呟きました。


「人殺しにならなくて済んだね、エルロッドくん」


「は、よくいうぜ…」


イムはニヤニヤとエルロッドの方を見ています。そしてエルロッドも迂闊に攻撃ができません。

それもそのはず、エルロッドは先程の攻撃を完璧に制御した上で放っていたはずなのですが力を抑えきれずイムの体を破壊してしまったのですから、何らかの仕掛けがされていることは確実です。


「イム・ルッタオ、スキルは呪詛カース。不死属性持ち、か。忌み嫌われそうな力だな」


解析魔法で表層の情報を読み取ります。

といっても勇者の熟練度であればよほど高度な隠蔽魔法かスキルを、それも任意発動型の強力なものでも使わない限り最深部まで読み取れるのですが。


「そういう君も勝手に個人情報を覗き見するなんてスキル、嫌われそうだけどね」


口を不快感に歪めてそう返してくるイム。

一時的に停止状態の戦闘に観戦している生徒達も口が出せません。静まり返っています。


「生憎スキルじゃなくて魔法なんだがな」

「魔法、ね。そこまでの熟練度での魔法剣士なんてそういないよ」


お前なんでCクラスにいるの、そんな視線がエルロッドにビシバシと突き刺さります。痛そう。


「お褒めに預かり光栄だ。ところでお前のスキルの呪詛ってのはちょっとでも食らったらマズイもんなのか?」


エルロッドがまったく光栄じゃなさそうに木刀を構えながらそう言いました。


「ああいや、呪詛っていうのは認識阻害や精神干渉をちょこっと出来る程度のスキルで、正直幻惑とか撹乱の方が強いよ。そしてさらに言えば禁呪ってスキルの下位互換でさ。唯一ほかのスキルと比べていいなって思えるところは、」


そう言いながら手をエルロッドの方に向けます。こんな下位スキル出会ったこともないから解説してくれんのはいいが、とか思っていたエルロッドの体が急に重くなりました。


「こうやって遅れて詠唱(ディレイスペル)しても発動できるってとこかな。呪詛カース


「詠唱遅延が可能なスキル…!?初めて聞いたよそんなの!」


しかも勇者の耐性を抜けて呪いをかけてきました。ただごとではありません。勇者は未知のスキルを前に少し焦りながら足を踏み込みます。

木刀を振り下ろして気絶で終わらせる腹積もりでしょう。

殺意の無い目を見てそれを見越したイムは言いました。


「その威力じゃボクは死ぬ」


瞬間エルロッドの手元が力みます。嘘だろ、そんなに脆いわけが、さっきのさらに半分だぞ―――。


この不死者の呪詛により認識の阻害された勇者の一撃は即頭部を打ち、頭部を粉々に破壊して斜めに振り抜かれて床を少し破壊して止まりました。


「…お前、闘気を纏ってないな」


「纏い方がわからないんだもの!アハハ!」


何度も何度も威力の制御を間違えて殺してしまい、脳や内臓をぶちまける姿を目にしてしまう。

そうして攻撃を恐れるようになった相手を一方的に嬲り、蹂躙する。

普段からそうした戦い方をしているとエルロッドは見破り、そうしてエルロッドは不死者が殺されることに恐怖を覚えるように仕向けます。


解呪ディスペル!さて、こっからが反撃だ!」


自らに掛かった呪詛を文字通り解呪し、仕切り直すエルロッド。打ち合いもせずそれどころか片方は全く動かずにいる、そんな戦闘訓練に異様な空気が流れています。


周りで見ている生徒達はほんの二ヶ月で二クラスを突破してきた勇者が、Cクラスで誰も勝つことが出来なくなった最弱の不死者をどう対処するか、それを見に来たのですが。


「ディスペル?そんなんしたところで君の呪詛耐性じゃ何度やってもかけなおすだけだよ。ほら」


そう言うと再び詠唱遅延でエルロッドに呪詛を掛けるイム。

しかしエルロッドはそれを特に気にした風でもなく一直線にイムに飛びかかります。


「こいつには良心の呵責ってもんが無いのか…いっ!?」


呆れ顔で呟いたイムが、三度目の攻撃でやっと表情を変えました。

即死だったために一瞬のことでしたが、確かに胸部を貫いた木刀の感覚が残っています。


「バカな…クソ、痛い」


勇者が木刀を振り抜いた姿勢から戻り振り返ると、イムが初めて復活後に苦痛の表情を浮かべていました。


「さっきのディスペル」


勇者が親切にも教えてあげます。

するとイムはハッとした顔になって、それから苦々しい表情でスキルを唱えました。


「やっぱ自分に強力な呪詛を掛けて痛覚を遮断してたのか」


イム自身に呪詛をかけた様子を見て勇者は嘆息し、続けます。


「不死者にとって乗り越えるべきハードルの一つである痛みを伴う死…もしスキルが使えなくなったとしても不死者としてのアドバンテージを生かしたいのならそんな戦い方はやめるべきだ」


勇者が戦闘の最中だというのに説教を始めました。何様のつもりでしょう。


「う、うるさい!くそ、くそ、くそ、最悪だ、痛い、くそ」


イムがどこか正気を失った状態で殴りかかってきました。

それをエルロッドは容赦のない一撃で迎え撃ちます。


振り下ろされた木刀は左肩から腕を潰し、勢いの乗った拳はそのままあらぬ方向に飛んで行って女生徒の悲鳴が響き渡りました。


「自棄になっても戦いには勝てねぇよ、っと」


言いながら、背後から飛んできてエルロッドの頭部を狙い済ました腕を掴み、イムに放り投げました。


「まぁ不死者といえばお決まりだよな、復活を利用したロケットパンチ。今みたいに防がれた上でそのまま縛り付けられたりしたらあれだけど」


そういった途端イムがまだくっつけていなかった左腕を投げつけてきました。


「そういう場合はこうするんだよ」


その言葉と同時に飛んできた左腕が爆発しました。

魔力を全力で込めたことによる暴発でしょうか。


「呪詛のうちの一つ、循環阻害さ。生きてる人間には使えないけど無機物や死骸なら魔力の循環に干渉して爆破できるんだけど」


醒めた目で爆発のあとの煙を見るイムの前に、エルロッドがピンピンした姿で煙を払って現れます。


「そんなベラベラと自分の能力を話すなんて随分と余裕だな」


「君だって僕を殺すのには抵抗を覚えてきただろ?わかってても嫌悪感はなくならないんだからあとはずっと、ボクのターン」


イムがニヤニヤとそう言い終えると、勇者は再度嘆息してから踏み込みました。


「不死者相手に躊躇?意味がわからないね」


一閃、それも木刀のはずですがイムの肉体が細切れになって地面に落ちました。

五度目の死です。


「な、君、クラスメイトだぞ!なんで殺せる!不死属性が失われる可能性は考えないのか!」


一切の躊躇なくイムを殺したエルロッドを化物でも見るような目つきで睨みつけます。


「いや、不死者って浄化か封印でもされなきゃ一時的にでも滅びることってないし」


勇者はそう言って再び剣を振り抜きました。


「せめて死体を見ることに抵抗を覚えるとかさぁ!?」


言い終えることなく三度振るわれた木刀によって命を絶たれるイム。


「なんっでだよ!人の心はないのか!?」


予想していたのと全く違う展開にイムの心は折れかけています。


「こんな感じで俺はいつでもお前を殺せる」


そしてそんなイムに止めの一言。


「これから痛みを伴って殺され続けられるのと浄化されるのと降参するの、どれがいい?」


容赦のない激痛を思い出し、それから目の前の不死者どころか神すらも滅ぼしそうなほど清く、純粋すぎる聖属性の魔力を見て顔を青ざめさせたイムは俯いてこう答えました。


「…降参だ」

生徒達「やっぱ魔王だ…」


Cクラスだけで三話はかかりますねこれ。

あ、唐突ですがいつもお読み下さりありがとうございます。

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