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勇者の強くてニューゲーム  作者: 千歳衣木
二章 勇者育成機関にて
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十九話 「impossible to die」

「Cクラスのみんな、はじめまして。エルロッド・アンダーテイカーだ」


臨時で再試となった昇級試験翌日のCクラスでは、やはりというべきかエルロッドの姿がありました。

D、Eクラスと比べれば明らかに広く、質素ではない造りの教室です。ある程度なら室内での演習も可能でしょう。


「あれが例の…」

「実在したのか…」


そんなエルロッドの姿を見て漏れるのはやはりそんな声。お世辞にも強そうではない見た目ですが、Cクラスともなると強さを肌で感じるようなレベルの強者もちらほらといるようですね。

それを見て満足そうに勇者は続けます。


「一ヶ月の間だけどよろしく頼むよ」


確かにエルロッドは強者ですが、しかしエルロッドの強さがどんなものであろうと関係はありません。一ヶ月で昇級すると宣言したエルロッドに対し、やってみろよという意思を含んだ視線が多く向けられます。


「Cクラスってこんなピリピリしてたっけ…刺激的だな」


そうつぶやくとその視線を全て受け止めた上でニヤリと笑って見せました。



さてCクラス昇級後最初の講義です。

Cクラスからは昇級試験に教官が付かず、パーティを組んで実地に赴くというものであるため一応不正も可能になっているので、講義の理解力や訓練での実力も加味された上で昇級試験合格となります。

つまり、エルロッドは今までのようにだらけているわけにはいかなくなったのです。いい気味です。


「ではここをアンダーテイカー」


「魔素粒子の収束と制御に関して?あー、確か第六属性までは魔素粒子の変動が少なく、むしろ組成の方が重要だったよな。となると…」


まぁなんだかんだ真面目なところはありましたし、一時期は高名な賢者の元で修行していたこともあってこの勇者は憎たらしい程に文武両道なのですが。


「む、せ、正解だ。模範解答以上だな…どこかで勉強していたのか?」


ヘタをすれば専門の人間以上の知識量を持つエルロッドにたじろぐ教官。

他のクラスの担任教官からもだらけているが実力だけはある、と報告を受けていたので真面目に講義を受けているのが意外なのもあるでしょうが。


「いえ、まぁ少し」


それに対して勇者もどう答えるか迷ったもので、歯切れが大層悪いのですけどね。


そして戦うことしか脳のないと思っていたCクラスの大部分もそれを見て考えを改めました。

これはうかうかしているとほんとに勝てないと。

そもそものスペックが違う上に強くてニューゲームですからどう足掻いても勝てるわけがありませんが。


「ふぅ、久々に骨のある講義だったな。まぁSクラスと比べると…あれだけど…」


内心そんなことを思いつつ勇者は満足げに次の講義、いえ実践訓練へ向かうのでした。



―――――



「今日は個人対人戦だが適当な相手と組んでやってくれ。いつもの相手でもいいがたまには別の奴と組むのも刺激があっていいからそっちをおすすめする」


教官のそのセリフと同時に訓練の相手を探し始めるCクラス。

もちろんエルロッドには実力がよくわからないので声をかける人間はいませんが。


そしてエルロッドもまた最初は様子見といった雰囲気です。余った人間がいたらやろうというスタンスですね。

周りでは徐々に組みができていき、ペアが一通り揃うとエルロッドはぼっちになってしまいました。

絶対友達作れないタイプです。


「エルロッドくん、だっけ?予想通り余ったみたいだしボクと殺ろうよ」


否、ぼっちではありません。

優しそうな顔をして紺色の髪をした青年が声を掛けてきました。このひともあぶれたようです。周りから遠巻きに眺められています。


「最初は観戦かと思ったがそういうことなら。よろしく」


嬉しそうなエルロッド。よかったですね。

手を差し出すエルロッドに笑顔で握り返す青年。見た目だけなら絵になります。イケメンなので。


「よろしくね、ボクはイム・ルッタオ。自信満々に声をかけといてなんだけど、このクラスではかなり弱い方になるかな…」


自信なさげに苦笑するイムでしたが、その目は明らかにエルロッドを倒してやるという意志を秘めていました。


「大丈夫さ、強いやつが強いってだけなんだから。やればわかる」


イムの視線を真正面に受けてエルロッドも獰猛な笑みで返します。獣です。


「よし、ペアも揃ったみたいだし始めるぞ。今日に限ってはアンダーテイカーの闘いを観戦するのもよしとする」


その声を聞いて、エルロッドとイムの周りに生徒達が集まってきました。

「見世物じゃねーんだけど…」とそう思いつつも武器を構えるエルロッド。


ニコニコとそれを見つめるイム。

と、イムが動きました。


カー…」


「させねぇよ」


エルロッドはスキルを発動しようとしたイムに向けて攻撃を放ちます。相当力を抑えて撃った牽制の一撃。とはいえ、当たれば骨を砕くくらいはするかもしれませんが。


そう思ったエルロッドの前でイムの体が破砕され、崩れ落ちました。


「え」


「「「あ」」」


エルロッドと周りから同時に声が上がります。

イム・ルッタオがエルロッドの制御を間違えた攻撃によってその体を失い命を落としたのですから。


「…この脆さでCクラス?嘘だろ」


エルロッドが呟きますが答える声は―――ありました。


「脆いくせに死ねないんですよね。なんでか知りませんけど」


それは完全に体が破壊されて生体反応もゼロになっていたはずのイム・ルッタオでした。

イム・ルッタオ、イム・ルタオ、イム・オタル…ふむ。

四日間も更新してませんでしたね。すみません。

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