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勇者の強くてニューゲーム  作者: 千歳衣木
二章 勇者育成機関にて
19/91

十八話 「昇級」

エルロッドが勇者育成機関に居づらくする為の行動が防がれてしまったリリンでしたが、実はその目的は達成出来ていたのでした。


「やっぱり彼は単なる魔人じゃなくて、魔王の器…しかも、既に復活していたという魔王を殺して成り代わるつもりらしいわ」


リリンと遭遇した際に居合わせたメンバーのうちエルロッドとサキュレ、いやリリンを除く二十八人の生徒によってまた誤った情報が流されたためです。


もちろん今回もエルロッドはその事を知りませんが。流石に馬鹿です。


ちなみに昇級試験なのに教官はいなかったのかというと、リリンがエルロッドを排除しようと決めた時点で不意打ち気味の狂愛媚薬によって動きを止められていました。

英雄レベルの教官と化物のような生徒を直接戦闘で同時に相手にするのではなかなか厳しいという判断からですね。


「教官、昇級試験はどうするんだ?もっかいやれるのか?」


そんな中物怖じせずに教官に質問するエルロッド。

死者こそ出なかったものの危険に晒されたことに変わりはないはずなのに見上げた胆力ですね。


「正直なとこ言わせてもらうわ。アンダーテイカーお前、さっさとSクラス行ってくれへんか?」


それに対しEクラス、Dクラスでは確実に信じられているエルロッド魔王説にも動じず話しかけられる稀有な存在、キング・ファングが言いました。

こちらも余程の胆力です。エルロッドよりはるかにすごい。


「飛び級は原則としてどころか例外としても認められてないんだよ。Sクラス勇者としてやっていくつもりだからそのうち行くさ」


まことに正論です。エルロッドが正論を言うとはなかなかですよ。


そしてキングが緊張から背筋に冷や汗を流し、エルロッドがどうしようか悩んでいるところに教官が声を掛けました。


「今回の試験は中止になってしまったので、そうだな、三日後にもう一度でいいか?やらずに昇級させると如何なる実力があっても処罰は免れないからね」


エルロッドにどう処罰をするのだろうか。あ、私がクビになるのか。なるほどねぇ。教官がそんなことを考えていたのはここだけの秘密です。


「んー、まぁわかった。んじゃストレートにSクラスまで進めそうだな」


エルロッドは嬉しそうにそう言うと教室を出ていってしまいました。

まだ本日の講義は終わってないのですが…。

クラスメイトと教官が同時に嘆息をすると、慣れたとばかりに講義の準備を始めます。


「相変わらずやなあいつは…」


キングはもうエルロッドに対抗する気持ちは無く、純粋な畏怖から早くこのクラスを出ていって欲しいと感じていました。



―――――



「おっひさ〜!」


ヒスイ・ミミックが元気に教室に入ってきます。諸手を上げて。


「やぁヒスイさん、お久しぶりです…って、昨日ぶりじゃないですか?」


いつもニコニコと笑顔な長髪の青年、ベルルカは初めて戸惑いの表情を浮かべました。


「私達はね!でもみんなは違うから!」


「それ以上いけない。しー。わかった?」


ヒスイの言葉に凄まじい速度で振り返ったハココがそう言いました。相変わらずのフルフェイスヘルムで表情は見えませんが、何やら鬼気迫る雰囲気です。


「はぁ…よくわかりませんがなるほど」


「のうベルルカ?」


釈然としない表情で頷く長髪の青年に話しかけるキモノの少女。


「どうしました、シキさん?」


優しげな笑顔で幼女にしか見えない相手に微笑を向けるイケメンの姿は完全にそういった趣味のソレでした。


「例の彼奴が魔王だとかいう噂を聞いたのじゃが…」


「それは我も聞いたであるな」


シキがどこかうんざりした様子で言うと、隣から図体の大きい男が会話に入ってきました。

シキはそちらを一瞥するとつまらなそうに鼻を鳴らしました。仲が悪いのでしょうか?


「あぁ、その話ですか。どうやら彼の前に魔王軍の幹部格が現れたみたいでですね…」


ベルルカは聞いた噂を二人に話していきます。

Sクラスの人間たちはそういったことに疎いというか他のクラスに話せる生徒がいないので、しっかり噂を聞いて持ってこれるのは彼だけなのです。


「なるほどのう、そこまで言われておるならSクラスまで飛んでくれば良いものを」


「まったくであるな。早く手合わせしたいものである」


そしてその話を聞いた彼らの反応はいつも通りでしかありませんでした。

そしてベルルカもまたいつも通りの言葉を発するのでした。


「まぁあと少しの辛抱ですよ」

ちょっと短いでしょうか。すみません

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