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勇者の強くてニューゲーム  作者: 千歳衣木
二章 勇者育成機関にて
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十七話 「規格外の生徒」

「なんでや!ワイのフルパワー拘束やぞ!しかもスキルや!魔術を使っても解除はできないはずや!」


明らかに動揺しているキング。それもそのはずです。無理して三重の拘束を掛けたのに一瞬にして抜け出されてしまったのですから。


「こういう魔術系スキルは魔力が基礎だろ?魔力で出来ている以上はディスペルで対処可能ってわけ」


「魔術封じを掛けたのに魔法が使えるわけあらへん!ずるいやろ!」


エルロッドに指を突きつけてそう叫ぶキングでしたが、エルロッドは呆れ顔です。

なんでこいつが呆れ顔なんでしょう。腹が立ちますね。


「魔力の直接操作によるクラッキングなんだが…言ってもわかんねぇか」


エルロッドは嘆息しました。


「そもそもスキルを掛けた時点で俺が認識阻害魔法を使っていた可能性」


そう言いながら指を折っていきます。


「闘気を纏うことで物理的に破壊していた可能性、拘束系スキルの対抗力が高い為に掛からなかった可能性、純粋な膂力で引きちぎった可能性、魔力の直接操作で術式の主導権を奪って解呪した可能性」


今だけでもこれくらいは思い浮かぶ、と言うとキングを見ます。

勿論この殆どが並大抵の人間に出来ることではなく、全て出来るとなると人外認定は免れません。


「う、嘘や!そんなんあらへん!」


狼狽するキング。エルロッドは、それとは対照的に静かに微笑む隣の女生徒に目を向けました。サキュレとかいう名前のはずです。


「キングもアンタも正面戦闘に向いた能力じゃない。降伏しろよ」


エルロッドが苦笑し、キング達に近づきながらそう言います。

あと二歩でキングの元にたどり着く距離、エルロッドが踏み出そうとしたその途端キングが右腕を上に挙げました。


「今や!」


キングが狼狽していたのは演技ではないはずですが、しっかりとエルロッドが片足を上げ、重心も前に移り不安定な状態になったその瞬間を見極めて指示を出した様子は冷静な策士そのものでした。


「うおらぁ!」


「がああっ!」


「つぇい!」


キングのいた広場を囲むように配置されていた十三名の生徒がエルロッドとそのパーティに襲いかかります。

ある者は魔法、ある者はその剣によって、タイミングを少しずつずらされて放たれたその攻撃たちをかわす術は無く。


「仲間を守るとなると今のは危ないとこだったな…」


同時に結界、攻撃魔法、剣を使ってすべての攻撃を相殺すると嘆息してそう呟くエルロッドでした。


「かわせんからって全部弾くか、普通…」


かわせないならすべていなせばいいじゃない、とばかりにすべての攻撃を無力化したエルロッドに格の違いをまざまざと見せつけられたキング達。

一瞬顔を見合わせると嘆息し、口を開きます。


「しゃーないわ。これ以上やってもらちがあかん。降さ――」



(mad)(love)媚薬(portion)



ドクンッ。



降参、そう言いかけた口が強制的に閉じられます。

そしてソレを引き起こした原因である女生徒が交代するかのように口を開きました。


「手を出さないでおこうかと思ったんだけどぉ…流石に学生でこのレベルじゃ看過できないっていうか?魔王様の手を煩わせるというか?」


そう呟く背後、いえ、周囲では、男子だけでなく女子も全員魅了された時のような怪しい光が目に灯っています。


「やっぱあんたか。髪型が全然違うからわからなかったよ、リリン…いや、サキュレと呼んだほうがいいのか?」


「あら、あらあら、こんないい男一度会ったら忘れないと思うんだけど…誰だったかしら?」


まだ名乗っていないにも関わらず、そして強力な魅了魔法をかけたにも関わらず平然と名前を言い当てる目の前の男に、あまりにも妖艶な雰囲気を纏うサキュバスが目を細めます。


「ああいや、今回・・はまだ初めてだが、相変わらず(・・・・・)面白い魔力だな。俺はエルロッド・アンダーテイカーだ。よろしく」


それに対して女性に興味が無いかのようにそっけなく答える勇者。

思春期でしょうか?


そしてエルロッドのそんな態度にも笑顔なリリンでしたが、内心では常時魅了体質が効いていないことに戦慄していました。

なんせリリンは淫魔の始祖。それが通じないとなれば今真の姿を晒したのは誤りだったかも知れません。


「で、今ここで姿を現したってことは俺とやりあいたいってことか?」


殺気を全く含まない言葉だったのですが、リリンはエルロッドの底知れない実力に威圧されてしまいました。

この場で殺そうと思っていたのですがそんな考えはさっぱり無くなってしまいます。


「あーいやいやえっとあれよ、えーと…あなた強いわね?魔王軍ウチに来ないかしら?」


「いや行くわけないだろ。勇者育成機関だぞ」


即答でした。当たり前です。


「というかやっぱり既に魔王は復活してたんだな…なるほど」


そして先程の勧誘の時より思案顔でエルロッドが小さく呟きました。

勇者がうつむいたその隙にリリンは畳んであった翼を広げる、空中に飛ぶとこう言いました。


「あ、そう?じゃあそうね、勇者育成機関にいられなくしてあげる」


リリンが空中に飛び上がると同時に右手を掲げ、親指を首筋に突きつけ、首の左側からゆっくりと右側へなぞる動作をします。


「させねぇよ」


「がっ……」


エルロッドの声がしたと思いきやリリンが大きく吹き飛びます。

きりもみ回転をしながらもどうにか体制を立て直したリリンの右腕は肘から先が無く、鮮血が空に赤い線を描いていました。

エルロッドは、リリンの行動を止めるためにわざわざ右腕を消し飛ばしたのでした。


それによってリリンの行動が阻害されるといつの間にやら周りで全く同じ動作をしていた生徒達の動きもピタリと止まります。


「悪いが俺に二度は通じない。お前の技は悉く無効化することが可能だ」


急に真剣な顔つきになったエルロッドに空中でありながら後ずさりするリリン。

もちろんこの勇者にとってその程度の距離であれば余裕で射程圏内なのですが。


「一度目のはずなのだけどねぇ…?」


訝しげにそう呟くリリンに楽しそうに笑うエルロッド。


「ま、事情があってな。お前の魅力系スキルと精神感応系スキルの併用で魅了した相手に強制自爆術式を起動させる技、見たことがあるんだ」


そう言いながらエルロッドは周囲の生徒達にかかった魅力をディスペルしていきます。

ディスペルすることで生徒達に自爆術式を使わせないようにするのです。


「あらあら、こうして人間の前で使うのは数百年ぶりだと思うのだけど…随分と寿命が長いのね?あなたも魔人の類かしら?」


リリンのあまりに的外れな質問にエルロッドは一瞬きょとんとしてしまいます。そして―――――。



―――――



そうしてキングが目覚めた時、目の前では大きな、コウモリを思わせる翼を広げた女とエルロッド・アンダーテイカーが対峙していました。


「あなたも魔人の類かしら?」


「は?…ぷふ、お前それ本気で言って…アハハ、ハハハ、ハハハハハハハ!俺をあんな奴らと一緒にしないでくれるか?」


高笑いをした直後にあまりにも冷たい声でそう告げるエルロッドの様子にキング他、周りで聞いていた生徒たちも震え上がりました。


「魔王に伝えておけ。お前は必ず俺が、このエルロッド・アンダーテイカーが殺すと」


そのあまりの迫力に押されたのかリリンは何度も何度も頷くとエルロッドをどうにかすることなど忘れ大きな黒い翼を広げどこかへ飛び去って行きました。


「さて、今回の昇級試験は中止かな?教官に言ってこないと」


Dクラス程度がいくら束になっても絶対にかなわないような敵を一人で退けたというのに、元勇者は何も無かったかのようにそう言ってさっさと歩いていきました。


その後ろ姿を見ていた女子のひとりが小さく呟きます。


「魔人じゃ、ない。あんなものと一緒ではない。じゃああれは何…?彼が…?そうなの…?」


彼が、彼こそが――魔王なの?と。

難しいものです

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