十六話 「集団作戦行動訓練」
「さて今回も昇級試験は集団作戦行動だ。班を組んで行う」
Dクラスに入って一ヶ月が経ち、二度目の昇級試験の日がやってきました。
Eクラスは教官との戦闘で一定の評価が得られれば昇級でしたが、Dクラスの場合は山賊との交戦を仮定した班対班の訓練です。
「集団作戦行動か…そういえば俺はやったことがなかったな」
エルロッドが呟きます。
それもそのはず、Aクラス、Sクラスに昇級するための試験は単独で実地に赴きクラス相当の魔物を討伐するものな上に、勇者はパーティを組んで魔王に挑んだことがないのですから。
「まぁ多分大丈夫だろう…邪魔さえしなければ…」
少し不安そうな響きはありましたが笑顔で前を向くとエルロッドは班分けのくじを引きに行きました。
―――――
「よろしくね」
「よろしく」
「っしゃあす」
「よろしく頼む」
「よろぴ」
「よっしゃす」
そうしてエルロッドが入った班は対したキャラもない班でした。
一応フルパーティになるよう、戦い方がタンク型、メイジ型、シューター型、ジャマー型、アタッカー型、ヒーラー型というように特化の仕方で分けて組み合わせた様ですが。
しかしエルロッドが入った班は皆優秀そうに見えるのですが、そして実際優秀なのですが、エルロッドのせいで活躍の場は失われるでしょう。
「俺はアタッカーってことでいいんだろうか…」
そうつぶやくエルロッドでしたが安心して欲しいものです。
訓練の時間はぼーっとしていて基本木刀しか使わないのですからアタッカー役に決まっています。
「そうじゃないかな?頑張ろうね」
そしてエルロッドの呟きに隣の可憐な女子が笑顔で返事をしました。優しいですね。
「ん?おぉ、頑張ろう」
実はこの、ひつじ耳をぴょこぴょこさせているふわふわ女子はDクラスのマドンナ的存在であったため、エルロッド以外の男子三人が悔しそうにエルロッドを見ているうえに、いつもひつじ娘の隣にいる守護女神的クールビューティ何故か今回もくじの結果を超越して同じ班に入りエルロッドを威圧していたのですが…。
当のエルロッドは雑魚の視線など知らないという様な態度で受け流すと山賊側の班が待ち受けているフィールドに歩き始めたのでした。
―――――
山賊側の班は五班三十人のレイドパーティ。一つのフィールドごとに六班三十六人が入ってローテーションで山賊役、冒険者役をやる方式です。
そういうわけで山賊側は待ち伏せをして総員で叩きのめすことや伏兵からの奇襲、挟み撃ちなど数の利を活かした戦術が取れます。それをどういなすかが最大の課題と言えるでしょう。
普通のパーティなら、ですが。
アタッカー役なのにタンクよりも前に出て、ジャマーをも抜かして索敵をしながら歩くエルロッドに横から奇襲が。振り下ろされたハルバードを素手で掴むと奇襲してきた敵の腹部を軽く蹴り飛ばします。
それだけで奇襲は対処できた―――と思いきや背後に伏せていた伏兵三名が立ち上がり遠隔から魔法で攻撃を仕掛けてきました。死なない程度ではありますが明らかな威力を持った炎弾が六つ飛来します。
「解呪」
呟きながら誰よりも早く振り向き伏兵とパーティメンバーの間に飛び込みます。
炎弾はその威力と速度を霧散させ跡形もなく消え去りました。
そうして次々と襲い来る相手を十五名ほど屠った時、ようやくエルロッドパーティは山賊のボス役、キング・ファングの下にたどり着きました。
「なんでや!」
遠隔通信魔法や遠視魔法をも用いて完全なタイミングで向かわせた奇襲をことごとく正面から潰されているのですからそうなりますよね。
「キング…」
エルロッドパーティの一人が呟きます。
「俺達も同じ気持ちだ」
タンクの悲しそうなセリフに仕事を奪われたジャマーが、メイジが、ヒーラーが、シューターが頷きます。
エルロッドだけはなんかよくわかっていませんが。
「つまりどういうことだ?」
「アンダーテイカー、あんさんはもちっと班行動ってもんを理解して動くべきや」
「ん?…あぁ、なるほど、すまん」
そういえば邪魔にはなってないけど仕事させる暇も与えてなかった、そう思ったエルロッドは素直に謝りました。
「まぁいいさ、少しは活躍したかったがキングが軍師じゃ負けてて普通なんだ。あんたのおかげでここまでこれたのは事実だし、ありがとうな」
素直に謝ったのが意外だったのか班員が口を閉じた中、ジャマーの男子がそう言いました。
いい人です。
「まぁ確かに俺らの仕事を奪うというよりは、全部元から自分の仕事みたいな感じで動いてたな。アンダーテイカー、お前もしかしてずっと一人旅だったとかか?」
ジャマーの男子に次いでタンクも口を開きました。
「ん、まぁそんなとこだ。ごめんな」
班員達に笑顔が浮かび、いい空気が流れます。
そこにキングが声をかけます。
「よしよし、そいじゃ敵の眼前で油断したパーティがどうなるか見せたるわ」
その声に一瞬遅れて回避行動をしようとした班員でしたがしかし、タイムラグがほぼゼロといってもいい反応速度でも時すでに遅く。
「拘束!特殊技能拘束ついで魔術封じ!!」
キングの固有技能である拘束系技能により、移動だけでなくスキルと魔術の行使まで封じられてしまいます。
「チェックメイトや。いやぁ計画通り、いい仕事やなサキュレ」
全員が身動きを封じられている中、ファングの横から一人の女生徒が歩いてきました。
「精神同調によるアンダーテイカー班の警戒力散らしで注意力が散漫になったところに拘束なんてファング様の計画は完璧ですぅ!」
ちっこい生徒はキングの隣に来ると腕にしがみつきました。
「なるほど、面白い魔力だな。よっと」
満更でもなさそうなキングの顔と隣のサキュレと呼ばれた女生徒を見ながら魔力の直接操作で拘束スキルの術式に干渉、ディスペルした勇者は何でもなさそうにつぶやきました。
「おま、なん…」
「さて、敵の眼前で油断した奴がどうなるか教えてやらねぇとな」
「なんでやッッッ!!!!!」
土日こそ執筆の時間をとるべきなんでしょうけどねぇ…。申し訳ないです。




