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勇者の強くてニューゲーム  作者: 千歳衣木
二章 勇者育成機関にて
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十四話 「ハローお前ら」

「え、エルロッド君、君は今すぐにでもSクラスに厄介ば…昇級をしてもいいのだけれど、人間達・・・のルールで例外を作るわけには行かないからしてつまりその」


「要点を言ってくれよ、その辺はわかってる」


勇者育成機関で学び始めて一ヶ月がたったある日、エルロッドは目の前でなにやら口ごもる教官にウンザリといった様子で言いました。

エルロッドに恐怖心を抱いてるからなのですが、馬鹿なのでわかるはずもありません。


「つ、つまりね、あー、Dクラス昇級試験、見事合格ということです」


わかりきってましたけどね、と小さな声で呟く教官に、エルロッドは心の中で同意してからEクラスの面々に別れを告げて教室を後にしました。


「よかった…」

「化物がやっといなくなったな」

「勇者になる前にクラスメイトに殺されるとこだったよ」


本当に一般人より少し強いだけの人間が集ったEクラスのため、エルロッドという規格外の存在と同じ教室で学ぶことに恐怖心しか感じていなかったのでしょう。

教室から漏れ聞こえてくる安堵の声にエルロッドは苦笑しつつDクラスへと向かいます。


廊下をしばらく歩くとDクラスの看板とともに大きな扉が見えてきました。

目の前に立つと全く気負わずに扉を開き、告げます。



「ハローお前ら。今日からDクラスに上がってきたエルロッド・アンダーテイカーだ。よろしく」



わずか一ヶ月で昇級してきたエルロッドに驚きと懐疑のざわめきが漏れます。

EクラスからDクラスと言えども昇級は並の実力で出来ることではありませんから。

そしてそんな状況の中何でもない顔で空いている席を探して歩くエルロッドに、地味めの女の子が声を掛けました。


「あの…昇級試験合格者は翌日からクラス移行となっていますが…」


訂正。

ざわめきの声はどうやら、エルロッドが昇級試験合格直後にDクラスに移動してきたのが原因のようでした。

愚かな勇者です。前回の人生の記憶とやらはどうしたんですか?


ハローお前ら、とか言ってしまったエルロッドの内心は「そういえばそうだった、浮かれてたのか俺は…」と冷や汗と羞恥で大変なことになっていました。馬鹿です。


停止してしまっていた思考を回復させたエルロッドは、顔を真っ赤にしながらも扉の方まで一気に跳躍します。

そして扉に手を掛けるとこう言いました。


「よ、よし、これで掴みはバッチリだな!じゃあ改めてまた明日!!ばいばい!!」


何事にも動じず常に勝利してきた最強の勇者は羞恥と、エルロッドのことを笑いさえしない生徒達に完全敗北し半ばやけくそ気味に叫んで部屋を飛び出しました。


「何やアイツ…ワイより目立つんやったら潰さんとなぁ…」


呆然とする生徒達の中で小さな呟きが誰にも聞かれることなく消えていきました。



―――――



「ただいま!」


一瞬の平穏は最凶の魔人…否、最強の勇者によって即座に破壊されました。


「教官…明日からクラス移行とかいうのは先に言っておこうか?」


エルロッドが戻ってきたという事実と、エルロッドの怒りでちょっと漏れた魔力に当てられて生徒の半数以上が気絶、錯乱、恐慌などの状態異常に罹りました。ほぼ八つ当たりです。可哀想に。


失敗して戻ってきたエルロッド如きのことなど笑ってやればいいと思うのですが。


さて、その怒気と魔力をモロに受けたEクラス担任教官は一瞬持ちこたえたものの、直後には口から泡を吹いてそのまま気絶していきました。

多分、「ごめんなさい」と言おうとしながら。


「…あれ、魔力漏れてら」


エルロッドの羞恥と怒りが収まり周囲を見渡すとそこは地獄絵図。先程まで安堵に包まれていた教室が一瞬にして恐怖に染まりました。

肉体に少し精神が引っ張られて制御をしくじったかな、と勇者は反省します。


「悪い、君ちょっといいかな」


エルロッドは手近な気絶していない生徒に話しかけると、今日は予定はなくて解散だよな?と尋ねました。


すると声を掛けられた女生徒はおもちゃのからくり人形のように激しく首を縦に振り、振り、振り続け、恐怖からか涙を流しながら気絶してしまいました。

エルロッドはそれにため息をつくと一応「ありがとな」と礼を言い頭を軽く撫でると学生寮に向かったのでした。


「またさらに一ヶ月か、めんどくさいな」


歩きながら呟きます。

本来ならば自分以外の全生徒を同時に相手にしても勝てるくらいの実力はあるハズなのに防げた事故でEクラスになってしまったのですからほとんど自業自得のはずなのですがね。



―――――



「ハココちゃん!アザトとベルルカはいつも何の話をしてるのか知ってる?知ってる?」


Sクラスでは今日も今日とて男子二人が先頭訓練をしつつエルロッドについて話をしていました。


そしてそれを眺めていた女子…ヒスイ・ミミックが遅刻早々真面目に自習をしているフルプレートアーマーの生徒、通称ハココに尋ねます。


「魔人。エルロッド・アンダーテイカーについて。実力的にはSクラス級のはずがDクラスに在籍している。稀に機関敷地内全域に魔力をまき散らすことがある」


自習を邪魔されたにも関わらず律儀に答えるハココを見て感心していた男子二人とキモノの少女でしたが、それより重要な情報を聞いてハココに詰め寄りました。


「彼はEクラスではありませんでしたか?昇級したにしても情報入手が早いですね、ハココさんは」


「もう昇級したであるか…やはり強者であるな。いつしか手合わせ願いたいものである」


「彼奴ならば当然ではあろうが…この調子で全てのクラスを一ヶ月で昇級してくるとしたら末恐ろしいのう…」


比較的常識的な三人の言葉を聞いたハココとヒスイは顔を見合わせました。



―――――



―――報告書。

魔人、エルロッド・アンダーテイカーの動向について。

会話の詳細は聞き取れなかったのだが、どうやら一度にSクラスに上がれないことに腹を立てたのか、はたまたただの遊びなのか、Eクラスの生徒達及び担任教官に魔力を当てて気絶や錯乱等の状態異常を引き起こした。

一人の女生徒になにやら声をかけていた様子で、その女生徒は後日「エルロッド様こそ至高エルロッド様こそ最強にして最高、エルロッド様に祝福あれ」と喋り続ける様子が確認されたため、魅力あるいは洗脳に類する能力を持っている可能性もあると判断。


暴れ出した場合に止められる人間は各地に散っており危険かと思われる。即座に対処できるよう備えておくべきである。


最近ちょっと短いですかね…。

もう少し長くします。


追記:描写の訂正とSクラスの描写を追加しました。

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