十二話 「その勇者はEクラスの中でも最弱」
「ではこの問題を…エルロッド君」
昼食後の講義にて、ひどく退屈な講義と睡魔に耐えきれず船を漕いでいたエルロッドを襲ったのは、唐突な教官による攻撃でした。
「んぇ…?おはようございます」
「寝起きがいいのは結構ですが、講義はしっかり聞きましょう」
バッチリ目が覚めたエルロッドでしたが膨大な量の板書からどの問題を答えればいいかわからずとりあえず挨拶をしました。
もちろん寝ていたのがバレてしまい、周りからは笑いが巻き起こりましたが。
エルロッドは毎日こんな感じなので既に100人余りのクラスメイト達は慣れてしまっていたのですが、中にはそれを気に食わない…というか、最弱クラスに入ってしまったことや退屈な授業によって溜まりに溜まったフラストレーションをぶつける相手を探している人間もいるもので。
「墓暴きくん。ちょっと意識が低すぎるんじゃあないのかねぇ?」
講義終了後、四人の取り巻きを引き連れてやってきたのは強者気取りな貴族の息子、ストゥッピード・ベアーマン。
ことあるごとにエルロッドに突っかかってくるめんどくさいヤツです。
「俺の名前は墓守だよ小熊ちゃん。お前は優秀だろ?俺になんか構ってないで予習でもしたらどうだ」
めんどくさそうに一瞥してそう告げるエルロッド。
もちろん意趣返しとは言え単なる村人でしかないエルロッドに家名を馬鹿にされてはストゥッピードも黙ってはいません。
「こぐ…ハハハ…おま」
「あー悪い、俺は先刻の授業でつい寝てしまったから復習をしなきゃいけないんだ。意識が足りないことはわかったからあっちに行ってくれ」
しかしエルロッドはストゥッピードのセリフを遮り、復習どころか寝始めてしまいました。
「…次の模擬戦闘訓練…確か多対多だったなぁ…楽しみだなぁおいおいおい…」
ストゥッピードは怒りに口元をぴくぴくさせながら笑顔でエルロッドの席から離れていきました。
―――――
「で、俺と組みたいと。意識の低い俺と組んでもいいことはないと思うぜ?」
常日頃、模擬戦闘訓練ですら手を抜いているエルロッドは普段から誰にも誘われないのですが、今回は違いました。
「俺らが組んでやるっつってんだよ…やれねぇのか?あ?」
ストゥッピード・ベアーマンとその取り巻き二人が開始早々話しかけてきたのです。
「いや別に誰でもいいんだがな。じゃあ他の相手見つけに行かないとな」
まぁ別にいいか、と勇者は心底めんどくさそうに嘆息すると、歩きだそうとしました。
しかしその腕を掴むベアーマン。
「あと三人あっちで暇そうにしてるからよぉ、あっちに行こうぜ」
そういって彼が指さした先にいたのはもちろんストゥッピードの取り巻きです。
「…いるなら、まぁ、いいか」
歴代最強の勇者は、嫌な予感を感じつつもそちらへ歩いていくのでした。
この模擬戦闘訓練の時間は、Eクラスの人数が多いのもあり複数の教官が付いています。
戦いながらアドバイスをするのではなく、終わったあとに批評を受け取る方式です。
生徒達は組を作ると第二演習場にあるステージのどれかに上がり、教官が見ている前で戦闘をしていくのです。
「さーてそんじゃ、始めようぜぇアンダーテイカー君」
味方であるにも関わらず敵意ガンガンの視線をぶつけてくるストゥッピード。
教官が見ている前でおかしなことはしないと思うのですが…。
「はじめッ!」
「魅了!!」
教官の合図と共に相手の生徒のひとりがそう叫び、スキルを使用します。
「!?」
「がっ!」
同性での効果は薄いはずの魅了でしたが、どうやらエルロッドの味方の二人は掛かってしまったようです。
「よっしゃ!お前ら、降参し…あれ?」
惚けたような声を出した魅了持ちの生徒は、エルロッドが術の支配下にいないことに気づきました。
「お前だけ掛かってねぇのか…なら命令変更!俺らと一緒にアンダーテイカーを攻撃だ!」
もう少しで「まいった」と告げようとしていたエルロッドチームの二人でしたが、その言葉を聞くと同時にエルロッドに向けて攻撃を仕掛けてきました。
「っと、ほいっと…ふあぁ…」
あくびをしつつもベアーマンの攻撃を避け、もうひとりの攻撃を受け止めたエルロッドでしたがなにやら違和感があります。
「へっへへ…」
ちらりと見たベアーマンの目は明らかに正気。魅了をかけられた人間の目ではありません。
「…っち、そういうことか…」
相手が取り巻きの時点で嫌な予感はしていましたが、どうやらエルロッドに五対一の戦闘を強いるため一芝居打ったようです。
「姑息な奴らだな全く、あーいやだいやだ」
そう呟く勇者の腹部に強烈な一撃が入ります。ベアーマンです。
「うぇっ」
「まだまだまだァ!」
歯をむきだしにしてヨダレを飛ばしながら叫ぶストゥッピードによって、空中に打ち上げられた勇者は大した抵抗もせずに殴られ続けます。
「どうしたどうしたぁああああ!」
かなり高揚しているのか徐々に目から理性の光が失われ暴力の権化と化すストゥッピード。
そんな表情を見ながらエルロッドは徐々に意識が薄れていくのを感じていました。
「予想以上に…ダメかもしれな…う」
勇者をステージのど真ん中に叩き落としたあと、ストゥッピードが大きく後ろに跳びました。
「――――」
どどどどどど。
次の瞬間、強化魔法をかけた腕が、武器が、破壊の力を持つ火炎弾が、凍てつくような風がエルロッドに吹き荒れました。
「っおい、流石にやりすぎだ!中止!中止!」
教官が止めに入るも既に遅し。圧倒的な暴力によって巻き起こった粉塵が晴れると、その場所にいた勇者の目は力なく閉じられ、四肢は力が失われたかのようにだらりとしていました。
「呆気ないなぁ…まぁ魅了が強くかかりすぎた故の不幸な事故、ってことで。あースッキリした」
ストゥッピード・ベアーマンは殺人の罪悪感など微塵も感じず、それどころか命を奪ったという高揚感からニヤニヤとそう呟きました。
電車に乗っている時間を利用すると1日でも書けますね。
車内での睡眠時間を生贄に物語を召喚。
あ、Twitter始めました。




