十一話 「ぶれいぶいんくらするーむ」
「そんな馬鹿なことがあってたまるか…」
剣を振り抜く体力も無かったというのに参ったと言わず戦い抜いた二回戦の彼のことを思いながらエルロッドは呟きます。
「しかも三回戦開始と同時にぶっ倒れてほぼ不戦敗…」
一週目の時はBクラスから始まり、卒業前最後のクラス変更で二年と九ヶ月かけてどうにかしてSクラスまで辿りついたアンダーテイカーさんは深い深い溜息を吐きました。
クラス変更は一ヶ月ごとにありますが、最低クラスであるEクラスから始める時点で勇者はめんどくささしかありません。
そして今回は勇者のせいで勇者がいたブロックの優勝者が他と比べて明らかに弱くなるというアクシデントが起きたため、Sクラスの生徒が五人しかいません。波乱の年と言えるでしょう。
「まぁ落ち込んでても仕方ない。一ヶ月ごとに一クラスずつ登ってって半年でS。めんどくさいがそういうルールだしな、仕方ない。やってやる」
切り替え早くも勇者はやる気満々のようです。
拳を握りしめると宿屋で雄叫びを上げました。
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「ではこれより基礎勇者学を始めます」
「ぐぇぇ…」
しかしそのやる気とは裏腹に、SどころかBくらすでもやらねーよというレベルの低い講義を受けるハメになった勇者。
初講義から既に一週間が経過しましたが
わかることしかやらない講義をやっても仕方ないので、潰れたカエルのような声を出しながら新しい魔法を構築する作業に入ることにしましたとさ。
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その頃Sクラスでは個人の持つスキル反復という名目で自主練習の時間となっていました。
「あの第四ブロックにいた少年は何故ここにおらぬであるか?一回戦しか見ておらんが、我々よりも強いように思えるである」
ずっしりとした存在感を纏い、顔には古傷、大きい身体を持つ短髪の男性が隣にいる生徒に尋ねます。
「おや、貴方も見ていたのですか。どうやら二回戦であまりにも弱すぎる人間と当たり、不幸な事故で自分から負けたようですね。まぁそのうちやってきますよ」
その問に対して涼し気な顔をした長髪の男性がにこやかに答えました。どうやらエルロッドがそのうちSクラスに上がってくることを確信している様子です。
「奴の話か?此方も興味がある」
そこに幼くも妖艶な響きを持つ声が飛び込んできました。肩ほどで切り揃えられた綺麗な黒髪に暗めの赤を基調とした東国の衣服、いわゆるキモノという種類の服をきた少女です。話に混ざるため大人びた挙動でゆっくりと歩いてきます。
「なぜこのような幼女がここにおるのであるか…」
それを見た先程の巨漢が呆れ顔で呟きました。
「それを言うなら其方こそ人生経験の足らん童ではないかのう?」
三倍ほどの体格差のある二人が睨み合います。一触即発といった空気です。
「小童がァ…!」
「いい加減にするである…!」
お互いに動き始めようとした二人を遮ったのは抑揚のない声でした。
「少し黙って欲しい。今は自主練習の時間。お話の時間でもなければ組手の時間でもない。それもわからない?」
少し離れたところにいる小柄な生徒からのようですが、顔はフルフェイスの金属製らしきマスクで隠れている上に低めな声でくぐもっていて、体つきからも性別はわかりません。
「まとまりのない連中。これから先が不安だ」
そう呟くと無言で訓練用のカカシをスキルで殴り続ける作業を再開しました。
「…やはりなんというか、少し危なっかしい奴じゃのう…此方といえど関わりとうないわ」
「うむ…実力は同じくらいであるはずであるが、逆らってはいけないような雰囲気を感じるである…」
「話してみるといい子なのですがね、ハココさんも」
顔を寄せあって囁きあう三人。
キモノの少女がさらに口を開こうとした途端に教室のドアが轟音を立てて開きました。
「おっはろー!!遅刻遅刻ぅー!!」
どたばたと騒がしく入ってきたのはキモノの少女より少し歳上に見える女性でした。
ピンクがかった白髪を頭の上で無造作に一つにまとめ、そうかと思えば服装はアレンジを加えてはいるもののきっちりとした指定の制服でした。
「先生いないですねぇ?セーフかな!セーフだよ!!」
ひとりで首をかしげながら、ひそひそ話し合っていた三人の方に歩み寄っていきます。
「朝からお元気そうで何よりですよ。遅刻はしないように頑張ってください」
長髪の青年がそう声を掛けました。
「はーい!!」
Sクラスの五人が揃いましたが人格がバラバラ過ぎてまさにまとまりのないクラスと言えるでしょう。
「…やはり。先行きが不安」
一人カカシを殴り続ける少女の呟きは、小さく消えていきました。
Sクラス初出しです。




