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勇者の強くてニューゲーム  作者: 千歳衣木
二章 勇者育成機関にて
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九話 「初日」

「っと、明日はもう入学初日か…」


入学試験からひと月を数え、ようやく機関という名の学校、入学初日を迎えました。


エルロッドは前回の入学時のことについて思いを馳せます。


「確か…初日は個人のレベルに合わせてクラスを分けるんだったか。実力が上がれば上のクラスに入れるけど、まぁ正直…」


苦笑しつつ自分の体を見下ろします。


「既に卒業に十分な実力すらあるんだから余裕としか言えないよな」


そう呟くと勇者育成機関の規定の制服を着込み、勇者育成機関生用の寮から飛び出しました。



―――――



「やァ、新兵達。今年は例年より数が多いようだが…あの程度の試験を抜けたからっつって正直アンタらは一般人より少し強い程度に過ぎねェ。少なくとも俺から見りゃあな」


勇者候補達だけあって微動だにせず勇者育成機関の第一演舞場に並ぶ四百名あまりの新入生でしたがしかし、彼らの前に立ち半笑いで勝手なことを言う教官には我慢出来ないのか、ざわめきが漏れていました。


それもそうである。一般人では召喚魔導人形やら召喚魔狼はおろか、召喚魔蜂隊の一匹ともまともにやりあえないというのに、その一般人より少し強い程度などと嘲られたのだから。


「わりィがこれは純然たる事実だ。召喚魔物達は万一のことがねェように急所を狙うような攻撃はしねェし、殺意を持たねェ。一般人でも冷静にやりゃあ勝てる相手だ。そんなアンタらがここにいるのはひとえに、勇者となる資質を備えてるという理由でしかない」


納得は行かないですが、今ここで話を遮ればそれこそ「冷静な一般人」以下。そう思い黙って正面の教官の話を聞く勇者候補生達。


「現時点じゃお前はより遥かにつえぇ冒険者や英雄と言われるような奴らはいくらでもいる。だがあくまで人の域でしかない。魔王とその配下達とやりあうなら、人の域にいては勝てやしない。だからアンタらがある程度強くなるまでの基礎的な知識やらなんやらは俺らが教えてやるわけだ。まぁさっきは弱いだなんだと言ったが安心しろ、アンタらは素質だけはある」


教官の声は未だに厳しいですが、勇者候補達は既に静まり返っていました。


「死ななきゃいくらでも強くなれるはずだ。死ぬ気でやることだな」


そう言うと教官は新入生達の前から立ち去りました。

今ので鼓舞された少年もいれば、俺はつええ俺はつええと繰り返す青年もいますし、黙って拳を握りしめる少女がいれば無表情のまま微動だにしない女性もいました。


そしてそんな空気の中、エルロッドは――立ったまま寝ていました。わざわざ空間固定魔法と偽装魔法と遮音魔法を同時に使い、立ったままでも体に負担がかからず音も寝やすく完全な無音でない程度に抑え、傍目からは真剣に話を聞いているように見えるという、魔力の無駄としか言えない居眠りです。


まぁ、この話を聞くのも二度目なので仕方ないとは思いますが。


さて、そんな混沌とした空気の中再び生徒達の前に一人の人間が立ちました。


「あーお前達、早速だが…静まれ。うるさくてかなわん。おい…聞け…。……ガンキの奴には変に発破をかけるなと言ったハズなのだがなぁ…覚悟しておけよ」


どうやら長い黒髪を後ろで一つにまとめた綺麗な女性のようですが、その美しい顔は不快感に歪められていました。

どうやら先ほどの教官が乱したせいでざわめきが収まらないことに苛立っているようです。


「五秒以内に黙らなかった奴は半殺しだ。黙れ」


決して大きな声ではありません。が、声と同時に発せられた威圧感と怒気によってその場にいた人間…ガンキと呼ばれた男も含め、背筋を正しました。

勇者は人外なのでまだ寝ています。…と言いたいところなのですが、勇者も学生時代のトラウマなのか、びくりと体を震わせるとその場の誰よりきちっと姿勢を正します。


「…これからは私が前に立ったらいいと言うまで口を開くなよ」


美人だというのに野蛮なその雰囲気に呑まれ、誰しもが口を閉ざしました。


「さて、では早速だがこれより、クラス分けの為に実戦形式のトーナメントを行う」


その言葉に勇者以外の生徒全員が揃って「は!?」と叫んでしまったのでした。

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