プロローグ・第1章「真夜中のイケメンたち」
完結まで、4日連続UPする予定です。
【プロローグ】
あ、いけない、ケータイ忘れちゃった。
PM10:05。
夜空に浮かぶ今にも雨粒が落ちてきそうな灰色の雲の下、私はため息を吐いた。たった今出てきたばかりの学校に戻るため踵を返す。
授業中にメールを見て、机に入れっぱなしにしちゃったんだ。
忘れないように気をつけようと思ってたのになぁ。
記憶を手繰りながら早足で校門をくぐる。眠らない街の光に照らされた灰色の空にはどんよりとした雲が広がっていて、今にも雨が降り出しそう。今日は傘を持ってきていないから雨に見舞われる前に家に帰りつかないと、と思って授業が終わったらすぐに出てきたのに、忘れ物をするなんてせっかくの努力が水の泡だ。
「妙円寺さん、忘れ物?」
下駄箱のところでクラスメイトとすれ違う。
「ケータイ忘れちゃって」
「気づいてよかったね。土日はさんじゃうし」
私は頷いたけど、別に土日にケータイがあってもなくても、連絡を取り合うような友達がいない私にはあまり関係ない。机は基本的には全日制の子たちの物だから、見つかって悪用されたりしたら面倒くさい。取りに戻るのはただそれだけの理由だ。
バイバイと挨拶を交わしてスリッパに履き替え、教室に向かう。開いているドアに差し掛かかったとき、ふと自分の名前が呼ばれたような気がして立ち止まった。
「うざいよね」
話しているのは、クラスでも目立つ派手なタイプの女の子の声だった。
「ブスの癖に妃宮くんにベタベタするしさー、わきまえろって」
嬌声があがる。
「体育の時もヒメかわいそうだったよね。何も本気で当てること無いのに」
「真剣にやりすぎ。つか、実はわざとだったりして?」
「おとなしい子ほど、欲求不満っていうもんね」
それはありふれた光景で、彼女たちはいつだって他人を貶めることで優越感を感じているだけ。私じゃなくて他の誰かでも同じこと。
でもさすがに教室に平気な顔で入っていくことはできなくて、私はそっとその場を去った。
えーい! あんなことくらいで!
と思っても、心なしか歩調はトボトボになる。駅について電車に乗ると、窓から見える家々の灯りがやけに目に付いた。
どうして人の家の灯りは暖かく見えるのだろう?
それは待っている人がいるから、と言ったのは姉だったかな。
最後に姉がいなくなって、もう私には待っている人はいなくなってしまった。
電車を降り、駅の改札口を出ると雨が降り始めていた。
あ~・・・・・・なんかついてないなぁ、今日は。
迎えに来た車に乗り込む人、タクシーに乗り込む人、傘を差して歩いていく人たちを追い抜いて、私は走り出した。家までは五分ほどの距離。けれど雨足は見る間に強くなって、雷まで鳴り出す始末。
黒雲が光り、鼓膜が震えるほど大きく落雷の音が響く。どこかに近くに落ちたのかも知れない。
怖くなった私は、カフェの軒先で雨宿りすることにした。
あっという間に暗さを増していく空から落ちる大粒の雨が、地面を叩く。
暗闇を切って走り抜ける稲妻は目を奪うような青さをしていた。
美しくて、この世のものではないみたい。
ぼんやりとその光景を眺めていたら、私とは反対側の端で稲光に浮かび上がる人影を見つけた。
驚いて目を凝らすといつからそこにいたのか。一人の、背の高い人影が同じように雨宿りしているようだった。
私に気づいているのかいないのか。その影は男の人のように見える。
他人の存在に一気に緊張しながら、私は今日の体育の授業を思い出した。
『いいですか。急所を狙って掠るように、斜めに蹴り上げてください。決して遠慮することはないですよ。女性の防衛手段ですからね、キン●キは』
先生の言葉が耳に蘇る。
それをクラスのアイドル:妃宮くん相手に真剣に練習したことで、クラスの彼女たちから揶揄される結果になったわけですが。
でも真剣にやらないと、今みたいないざというときに役に立たないわけだしね。
私はさりげなく左足に重心を移し、いつでも蹴れるように構えながらしばらく様子を伺ってみたけれど、影に妖しい動きは無い。
でも暗い場所に知らない人と二人きりでいるのは居心地が悪いなぁ。
雨は止む気配がないし、濡れるのは覚悟でもう走って帰ってしまおうと決めて、私はどしゃぶりの中に一歩足を踏み出した。その時だった。
「冷たい女だな。オレを一人置いていくのか?」
雨音の隙間から声が聞こえた。
それは全然知らない人の声だったけど、なぜだか懐かしい気がした。
再び鋭い稲光が夜空を裂き、その光で彼の姿がはっきりと浮かび上がった。
スラリとした体を黒いマントで覆って、奇妙な、中世の仮面舞踏会で使われていたような、目を覆う仮面をしている。青白い光に浮かび上がるその姿は明らかに風変わりに見えてなにやらひどく恐ろしいのに、私は彼の仮面の向こうから突き刺さる眼光の鋭さに足を動かすことができなかった。
「あの・・・」
意を決して話しかけると、つんとした口ぶりで返ってくる。
「なんだ?」
なんだって・・・なんだ。そっちが話しかけたくせに。
彼は面倒くさそうに、そして偉そうに告げた。
「オレは雷が好かん。よってキサマがいなくなることは許さん」
訳の分からない理由にタイミングを計ってそっと足を前に進めてみると、
「逆らうならどうなっても知らんぞ」
眼力と暴言が飛んできた。
彼は白いテーブルに斜めに寄りかかっていて、いいポジションは狙えそうにない。 私は足を引っ込めた。
「わ、わかりました・・・」
とりあえず刺激しないようにそう答えると、彼は満足そうに頷いた。
「分かればよい」
この人、どうしていちいちこんなに偉そうなんだろう。
視線を落とした彼の顔はマスクごしでも分かるくらいに整っていて、ついついじっと見ていると目が合って飛び上がらんばかりに驚いてしまった。
見惚れたことに気づかれたくなくて、私は慌てて言葉を捜した。
「あの、どうして雷が嫌いなんですか?」
彼は視線を外して、呆れたように言う。
「別に理由はない。雷が好きなヤツなんていないだろう」
「私、結構好きですよ。怖いけど綺麗だし。怖いなら人間のほうがよっぽど怖いし」
思わず出てしまったセリフに、彼は興味を持ったようだった。
「人間が怖い、か。まぁ、そうだな。雷に悪意はない」
彼の言葉に力を得て、私は続けた。
「ですよね。実は今日、クラスメイトに陰口叩かれちゃって。それでへこんでたんですよね。なんで人間って人を貶めて笑えるのかなぁ」
彼はふっと笑った。
「他人に決められた価値に傷つくなど、くだらんことはやめろ」
私は聞き返した。
「くだらないですか?」
「ああ」
彼は淡々と続ける。
「そもそも他人が見ているのは己という巨大な塊の小さな一欠片でしかない。欠片を眺め回して何が分かる? まして、そのような視野の狭い者の言葉に耳を傾けるなど時間のムダ以外の何でもない。己の価値は己が理解していれば良い。何かが足りないと思うのなら思い煩うのではなくにただ努力すれば良い。わかったか」
堂々とそう言い切る彼の口調には力がこもっていて、それに引っ張られるようにして私の心はすっと軽くなった。今までいた場所が遥か下に見える、そんな感じがだった。
ありがとうございますと言おうとしたとき、どしゃぶりの音に混じってバイク音が聞こえてきた。
「やっと来たか」
仮面の人は呟いて、私に向き直った。
「迎えが来たようだ。オレは行く」
え、引き止めといて自分は行くの? と文句を言おうとしたら彼は吐息をついた。
「どうせ忘れてしまうのに、いらんことを語ってしまったな。オレとしたことが」
瞳の中に自嘲めいた光が浮かび、それが消えると、今までとは違う不思議な声色で彼は言った。
「いまここで、オレと会ったことは忘れろ」
それは眠りに誘うような柔らかい、甘い感じのする音程で、私はますますその声を懐かしく思い、心地よさを感じた。胎児が羊水で眠るように、その声の中に沈みたかった。
その感覚が一体何なのだろうと探していると、やがて独特の音を響かせながら古いハーレーダビットソンがやってきて、彼はもはや私に一瞥もくれることなくそのサイドカーに乗り込み、雨の向こうに消えていった。
残された私は、彼の不思議な声の余韻を味わいながら、雨が止むまでその場に立ち尽くしていた。
1 真夜中のイケメンたち
私の一日はサイトのチェックで終わる。
インスタントコーヒーを片手に、運営している恋愛相談のサイトに新しい相談があれば目を通し、簡単なものであればすぐに回答を書く。短時間での回答が難しいときはお風呂に入りながら考え、炊事洗濯をしながら考え、朝起きて考え、学校に行きながら考え、できるだけその日中午前零時までに答えを書き込む。
人気があるサイトじゃないので相談がないことのほうが多いのだけど、それでも一週間に一回は書き込みがある。
「さてと、今日は・・・・・・やった! 一件あり~♪」
今夜の相談は初デートに臨む女の子から。
『こんばんは、ハナ先生。毎回恋愛の勉強させていただいてます。
私は16歳女子です。
来週の日曜日、好きな人と初デートなんです。
デートは初めてなのでどうしたらいいか分かりません。
彼は私の家に迎えに来てくれるって言うのですが、家族もいるし、恥ずかしいので駅で待ち合わせにしようかと思っています。
あと洋服はワンピースでいいですか?
会話も続かなくなったらどうしようと心配です。帰るタイミングは彼に任せていいのでしょうか。友達は全部彼に任せておけばいいのよって言うけど・・・
どうかハナ先生の意見をお聞かせ下さいm(_ _)m ウサコ』
割と簡単な内容だったので、私はすぐにキーに手を伸ばした。
『ウサコさん。まずは意中の人との初デート、おめでとー!
早速ですが、デートの心得を述べさせていただくね。まず待ち合わせは家まで迎えに来て貰うこと。男子は女子に尽くして喜ばれることが大好きなの。何かをしてもらったら『ありがとう』って微笑めばそれでOK! 彼は女子の笑顔を引き出せた自分に誇りを感じ、そう感じさせてくれたあなたへの好意をもっと高めちゃいます。この法則はこれから先も忘れないでね。メモメモ。
服装はワンピースで問題なし。ただし、色は白で、できるだけ清楚なものを選んで。
バッグとか小物はピンクがいいかな。白×ピンクは愛されるための組み合わせだからね。白はあなたに清らかなイメージを持たせるから初めのうちは意識して白いものを着ていってね。三回目までの印象ってすっごく大事だから!
会話は男子のリードに任せて。彼が話し始めたら、自分もそれに関連した話をする。で、沈黙があっても気にしないでね。気の利いた会話をは彼の役目。その代わり彼の話には興味をもって頷いてあげること。
デートの最中は口数少なく、控えめにね。あなたが彼を好きかどうか、彼に考えさせることで彼の興味をひくっていうテクニックです。
最後は帰るタイミング。これはあなたから言い出してね。
『今日はありがとう。もうそろそろ帰らなきゃ』
彼は迎えに来たときと同じく玄関先まで送ってくれるはずだから、家に入る前にあなたは彼に今日のデートが楽しかったことを伝えます。そのときの注意だけど、決してウサコさんから次のデートの約束や思わせぶりなことを言わないことね。
その夜に彼からメールが来たらデートは成功だよ。健闘を祈ります。ハナ』
「ハイっ! 送信っ!」
投稿のボタンを押して、確実に投稿されたのを見届けてからパソコンを閉じる。
「今日の相談終了~」
ふぁ~っと伸びをして、時計に目をやる。
午後九時。お風呂に入る前にニュースでもチェックしようかな。
インターネットでニュースを眺めるのも、恋愛相談と同じく私の日課だ。
テレビのニュースのほうが垂れ流しでいいけれど、私はニュースを見ることができない。
十年前、姉と二人で朝のニュースを見ていたときに両親の自動車事故が放映されて、それ以来、ニュースを見ると動悸がする体になってしまった。緊急速報でさえ体が凍りついたようになる。
父を隣町に送っていく途中に二人は高速の玉突き事故に巻き込まれて死んだ。私が七歳で姉が十七歳のとき。それ以降姉が私を育ててくれたが、その姉も私の高校の入学式の次の日に失踪して行方知れずになってしまった。
ショックのあまり高校も辞め一年間ぼんやりと過ごしけれど、今の私は親が遺してくれたお金と親戚の援助を受け、夜間学校に通って生活している。若干十七歳の私だけど、一人暮らし歴はもう三年になる。
サイトは臨床心理士だった姉が管理していたのを私が引き継いだ。
姉がまとめたデータベースから学習して、私情を挟まずに書いているせいか、相談の成功率も高く固定ファンもついて評判はいいようだ。初めは一人ぼっちで長かった夜が淋しくて始めたのだが、今ではやりがいになっている。
カチッカチッとニュース記事をクリックしていく。
ニュースを読むと、世の中にはいろんな悲しい出来事や納得できない出来事があって、それでもみんな健気に前を向いて歩いてるんだなあ、と思う。
次々とニュースをサーフィンしていくと、地域の記事に当たった。
「○○宝石店、怪盗ルパンに残された参上カード・・・・・・これって、近所のお店じゃん!」
怪盗ルパンはここ1年くらい名前を聞くようになった泥棒だ。
個人やお店を問わず宝石ばかり、しかも神出鬼没で鮮やかな手口で盗み、置き土産に「ルパン参上」のカードを残す茶目っ気たっぷりのやり方で徐々にマスコミに取り上げられ、今では裏で、ファンクラブも結成されているとかいないとか。
「また目撃者なしなんだ。すごいなー」
怪盗ルパンの人気の秘密はその特異性にある。この現代にあって、目撃者はもちろんのこと監視カメラにすら、姿を残していないのだ。警察内通説や神ハッカー説、記憶操作説にはたまた透明人間説まであり、話題には事欠かない。
元祖の怪盗アルセーヌ・ルパンみたいなマントを羽織って仮面をつけていると、誰も見たことがないっていうのに噂になっているところが都市伝説だよね。
ん? マントに仮面?
私はふと、数週間前の大雨の日の出来事を思い出す。
もしかしてあれが、怪盗ルパン!? いや、まさかね。
あれだけ明らかに会話しちゃってるし、もしあれがルパンならとっくの昔に私どうにかされちゃてるはずだもんね。
疑念を振り払いながらリンクをクリックすると、次は芸能ニュースだった。
「ハントニューシングルまたもミリオンセラー。へー」
ハントっていうアイドルユニットは女子高生にすごい人気を誇る男性二人のユニットだ。
学校でも「昨日の音楽番組見た?」と定番の話題で、ヨーロッパの貴公子みたいなボーカルのプリンスとエキゾチックな容貌のギターのナイトはクラスの女子の人気を二分している。姿かたちに興味はないけれど、私も彼らの歌はいいなあと思う。特にバラードは最高で、繊細な旋律に乗せて甘く囁くボーカルの声が泣かせるのだ。
二人については年齢以外は基本的に公開されておらず、映像の露出も極力少なく、そういう戦略も彼らの人気の原因じゃないかなと思う。
他にはとくに目ぼしいものはなかったので私はパソコンの電源を落とし、お風呂を入れている間に雑誌をパラパラとめくっているとピンポーン、と玄関のチャイムが鳴った。
時計を見ると午後十一時。
こんな時間にやってくる知り合いはいない。
私は居留守をかますことにしたが、チャイムはしつこくなり続ける。
もう、誰よ!
こそっと玄関まで行き、覗き穴から覗くと男性が一人立っていた。
綺麗な顔立ちで悪い人には見えない。それになんだか、どこかで見た顔だ。
男は再びチャイムに手を伸ばす。心なしかムスっとした表情を、私はじっと眺めてみたがどこで会った人なのか思い出せない。それにこんなハンサムな人、知り合いだったら覚えていると思う。
開けようか開けまいか逡巡していると、ドアがドンドンとノックされ、続けざまに名前を呼ばれた。
「妙円寺華さん、いませんか」
今度こそ本当にびっくりして、私は思わず開けてしまった、地獄への扉。
そこにいた男は魚眼レンズを通したときよりもよっぽど美形だった。
ぴったり体に合った細身のジーンズ、そこに羽織った純白のジャケットはまるでメンズノンノから抜け出したようにファッショナブル。背も高く顔も小さく品があるその人はどこぞの王子様のように仁王立ちで、立っていた。
「いるならさっさと出ろ」
苛立ったようにそう告げると、彼は強引に玄関に押し入ってきた。
「え、ちょ、ちょっと」
混乱する私は壁に押し付けられ、その両脇にダンッと王子様は両手をついて私を閉じ込めた。
「吐け。ブラックジュエルをどこから仕入れた?」
ギロっと睨みを効かした背中で無常にもドアがパタンとしまり、シーンとした室内で私はすくみ上がった。
「な、何の話ですか・・・」
「オレの事務所に送りつけられた封筒の裏にここの住所とキサマの名前が書いてあった。吐け。言い逃れはできんぞ」
封筒を目の前にぐいっ!と突きつけられる。
周りにレースのついたピンクのフリフリの、その封筒を手に取ってみると、裏には確かに私の住所を名前が書かれている。けれどその筆跡はどうやっても私のものには見えないし、更に言えばこのロリコン趣味の封筒も私の趣味ではない。
「確かに私の名前と住所ですけど、これは私が書いたんじゃありません」
すると王子様は怒った。
「なんだと? じゃあ誰が書いたというんだ?」
「それは・・・わからないですけど・・・」
「キサマ・・・、容姿だけに留まらず精神まで見苦しいぞ!」
「ちょ、なんなんですか!」
押し問答をしていると再びピンポーンとチャイムが鳴った。
助けが来たとばかりに渾身の力を込めてドアを開け放つと、そこにはまたまた美形の男子がいらっしゃった。
白いジャケットの人とは対照的に黒い革のつなぎを着たその姿は、これまた見ほれるほどの九頭身。異国を感じさせるロマンチックな浅黒い肌に、伸ばされた黒髪が艶やかに肩の上で切りそろえられていて、それが潔癖で軍人みたいにキリっとした印象を与える。
なぜか、私はその人にも見覚えがあった。
「ナイト、一人で大丈夫だといっただろう」
白いジャケットの人が不服に言い、黒いつなぎの人は首を横に振った。
「いえ。私の王子を一人では行かせられませんから」
「まったく」
「いやですか?」
「いやではない」
「あのー、なんでもいいけど、人ん家の玄関でいちゃいちゃすんのはやめてくれる?」
黒つなぎの人は私に向き直った。
「それで君は、本当にこれに見覚えはないのですか?」
目の前に出された宝石ケースには黒い石が付いたブレスレットが入っていた。
銀で出来たそのブレスレットの中心にはブリリアントカットされた黒い石が嵌っていてキラキラと美しかったが、なんとなく手に取るのを躊躇ってしまうような禍々しさがあった。もちろん私に見覚えは、ない。
「見たことないです」
首を振ると、再びプリンスが強い口調で尋ねる
「じゃあ、なんでキサマの住所が書いてあったんだ?」
「だからそれは」
「プリンス、落ち着いて」
また押し問答が始まろうとしたとき、二人の声に重なるように、
「ってか、この子は違うよ、プリンス」
とまた別の声が響いた。
そして白ジャケットと黒つなぎの後ろからひょいと顔を覗かせたのは、なんとびっくり。夜間学校のクラスメイト、妃宮くんだった。
「妙円寺、昨日はどうも」
茶目っ気たっぷりに笑いかける笑顔を白ジャケットが遮った。
「ヒメ、お前までどうしたんだ」
プリンスと呼ばれた白ジャケットの人は妃宮くんを見て意外そうに言う。
「いや偶然そこでナイトに会って・・・っていうか僕、この子に届け物に来たんだけど、ナイトとプリンスいるからびっくりしてさ」
「知り合いなのか?」
「学校のクラスメイトなんだよ」
私は知った顔の登場にほっとしながら彼らの会話を聞いていた。
冒頭にも登場した妃宮くんは仕事が忙しいらしくて学校に来る日は少ないけど、爽やかな笑顔と落ち着いた物腰で女子の人気を集めている。もちろん地味に毎日を送ってる私は、先日の体育の授業が彼と関わった最初。しかもまあ、その体育で真剣に『キン●キ』してしまって、女子にヒンシュクを買ったんだけども。
「学生生活の暇つぶしに、クラスメイトは調査済みなんだよ。この子はごく普通の子だから例のアレには無関係だと思う」
例のアレのところで声を潜めて言い終わった後、彼は私に向き直った。
「妙円寺さん、こんな時間にごめんね。こちら二人、僕の友人。なんか誤解があったみたいだけど今日は遅いし、これで失礼するよ」
「はぁ」
妃宮くんは白ジャケットに玄関を出るように促した。
「おい、しかし!」
まだ何か言いたそうな白ジャケットを遮って黒つなぎが静かな口調で言った。
「ヒメの調査です。信用度は高い。それにこの子は本当に・・・一般人でしょう」
三人の値踏みするような目にさらされ、私は背中につめたい汗を感じて後ずさりする。
うんと間を持たせて、白ジャケットが大おくため息と吐き、いまいましそうな口ぶりで言った。
「確かに、一般人以外の何者でもないな、このどんくさい空気は」
夜を切り裂く極寒のダイヤモンドダストかと勘違いするような冷たい声が、鋭く私の硬直を解いた。放った本人は氷のような美貌で涼しげに私を見ている。
「だろ?」
と、自信満々に妃宮くんが頷く。
助けられたような根本からに馬鹿にされてるような。
憤慨する私の前で、妃宮くんは二人に説明する。
「住所と氏名は捜査を撹乱するために適当に使われたんじゃないかと思うんだ。そもそも例の奴らがそんなことで尻尾を出すはずはないし」
「とんだ茶番だったな」
吐き捨てるように言って、白ジャケットは腕時計に視線を走らせた。その視線は私の目を捉え、彼はゆっくりと唇を開いた。
「いまここで、オレたちと会ったことは忘れろ」
私はきょとんとしてしまった。
あ、あれ?
この不思議な声色、この文言、あの雨の夜の・・・・・・
そんな私を残して、三人はそれぞれに身を翻し無言で立ち去ろうとする。私は彼らの背中に向かって慌てて、しかし恐る恐る声をかけた。
「すみません。白いジャケットの人。もしかして、どこかでお会いしたことありません? もしかしたら雨の夜とか」
白ジャケットは凍りついたように動きを止め、ややして目を見開いて振り返った。
「・・・・・・なぜだ?」
発せられたその言葉にあの夜の甘い音程を思い出すと同時に、私もなぜだ、と思った。
振り返った白黒二人の姿で、さっき見たパソコンの画面がフラッシュバックしたのだ。
そう、そこにいたのは今をときめくアイドルユニット:ハントの二人だった。
お互いに驚愕しながら、物語は第二幕へと進む。
はじめまして。
初投稿です。ナナコと申します。
この作品は女子高生にはとても褒めてもらったのですが
シリーズ化をもくろんで書いたためか
文学賞では一次選考にもひっかかりませんでした。
気に入っていただける方がたくさんいたら
当初の予想通り、シリーズ化していきたいと思います。
読んでくださって、ありがとうございました(*^-^*)
よろしかったら続きもご覧ください。




