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第五話 旅に出会いはつきものです 弐

前話にてサブタイトルに誤字があった事を確認。あのままで5日も放置していたとは……。お恥ずかしい、どうやらチェックが甘かったようです。誤字脱字があれば、感想にて知らせて下さると幸いです。


では、どうぞ。

宵闇の所為で関わることになった戦いで、関羽に目をつけられ半強制的に義勇軍の本陣へと連行される俺。


素なのか意識してなのか分からないが、関羽は俺にあえて見せつけるに青龍偃月刀の刃を光らせながら前を歩いている。いやさ、急ぎたい気持ちは分かるけど、せめて血振りくらいしろと。偃月刀の刃が錆びるし、何よりこっちの気分的に……。


それとも、逃げようとしたらたまとっちゃうぞって、遠まわしに脅しているんだろうか? だとしたら黒い、黒過ぎる。と言うか絶対に敵に回したくない。けど既に目をつけられた後という事実に泣きそうになる。


絶賛鬱な気持ちでいるそんな俺を、周りの義勇軍は何故か尊敬の眼差しで見ている。宵闇は満足そうにしているが、俺はあんまり嬉しくない。尊敬してくれるのは嬉しんだけど、そうやってじろじろ見られるのはちょっと遠慮したい。凌統はこれでもシャイなのです。まあ、それは今どうでもいい話。


あれこれ考えている俺を差し置いて、ずんずん進んでいく関羽。俺もそれに遅れないように宵闇と一緒にてけてけついていく。しばらくして、俺は義勇軍の本陣……と言っても、そこまで大がかりな物ではないが、まあ義勇軍のお偉いさんたちのもとへと辿り着いた。


「桃香様。先程の者をお連れしました」

「愛紗ちゃん、ご苦労さま」


ニコニコ顔で出迎える女の子。栗色の髪を長く伸ばしたその姿は、まさしく恋姫における劉備元徳その人。魅力チートだからと言う訳ではないと思うが、確かに優しさを滲ませるその顔には自然と魅了される何かが有る。


「……桃香様、ご主人様はどちらに?」

「たぶん、もうすぐ来ると思うよ」


早くも恋姫キャラ、しかも蜀勢のトップと邂逅し、思わずまじまじと劉備の顔を見つめる俺を横目で監視しながら関羽が劉備に言う。しかもその口からご主人様ときた。まあ、劉備がいた時点で気づいてはいたが、どうやらこの世界は真・恋姫†無双の世界の方で、かつ北郷一刀は蜀に属している状況みたいだ。やはり関羽についてきて正解だった。


「ごめん皆、お待たせ」


心の中でひとり頷いていると、さわやかな青年ボイスと共に種馬もとい、天の御使い北郷一刀が陣の中へと駆けこんでくる。些か顔色が悪く見える辺り、たぶん戦を見届けた後の精神的なダメージを受けてたんだと思う。そしてその気持ちは多少なりとも分かる。俺も以前に経験したことのある状況だから。無論、地獄でだが。


しかしまあ、劉備たちと一緒にいる以上、これから苦難続きの未来が待っているのだろうけど、同時に世の男どもからは羨ましがられる立場にもいられるわけで……。あ、どうしよう。なんか一発で良いから拳を振り抜きたくなってきた。


「うっ、背筋寒気が……。くそぅ、まだ駄目なのかよ。情けなさすぎるだろ、俺」


鋭いじゃないか一刀君よ、俺の殺気を感じ取ったか。けどそれが何なのかは勘違いMAXのようだ。どうやら未だにダメージを引きずっていると思ったらしい。凄く悔しそうな顔をしている。心配した関羽が、項垂れる北郷の肩にそっと手を置いた。


「大丈夫ですか、ご主人様?」

「ああ、大丈夫だよ。先は長いんだ、こんなところで折れやしないさ」

「ですが……」

「心配し過ぎだよ愛紗」


俺の存在を忘れて二人の世界が爆誕。俺だけでなく、劉備の方も些か機嫌が悪そうだ。別に示し合わせたわけじゃないんだけど、俺と劉備がほぼ同時にわざとらしく大きく咳をする。それに気付いた一刀君達がパッと距離を離す。とりあえず一刀君には殺気の代わりにジト目で視線を送っておくことにした。


「ううっ……あー、えっと。その、この人が?」

「は、はい。先程、黄巾党を壊滅させた男です」


顔を赤くしてどもる一刀君と関羽。壊滅って、そこまでやった覚えはないんだけどなぁ。確かに大暴れはしたけども、あくまでちょっとお手伝いをしただけです。


「どうも始めまして。姓は凌、名は統。字は公積」

「あ、始めまして。俺は北郷一刀っていいます」

「私は劉備、字は元徳。よろしくね」

「我が名は関羽。劉備様の一の家臣だ」


俺の名乗りに、それぞれが名乗り返してくれる。三人とも、実に性格が良く表れてる名乗り方だ。一刀君は勿論現代風。劉備は温和っぽく、関羽は堅実、と言うか堅物というか……。まあ、さして意味は変わらないか。


「鈴々は張飛! 字は翼徳!」


そしてもう一人、さっきまで姿の見えなかった子が一人、いつの間にか話の輪に加わっている。少し視線を下げてみれば、活発そうな雰囲気の女の子が頭の後ろで手を組んで笑っていた。


「遅かったな鈴々。仕事は済んだのか?」

「うん、兵隊さん達には休んでいいよって言ってきたのだ。ついでにご飯の用意もしてきたよ」

「そうか。朱里と雛里は?」

「一緒に出てきたけど、二人は足が遅いからなー。もうすぐ来ると思う」


関羽と張飛の会話から察するに、どうやら張飛とかの天才軍師二人の三人で戦後処理を担当していたらしい。だが、まさか既にここまで蜀のメンバーが揃っているとは。俺が落ちたのは一刀君が現われてから随分と時間が経った後らしい。


恐らく、劉備たちが公孫賛の所から出立した直後だろう。それならばこの面子が揃っていてもおかしくない。と言うか、あの渓谷での戦い自体が二代軍師が加わった直後の戦だったはずだ。しかしそうなると、黄巾の乱が各地で既に終息に向かっている時期になるわけか。なるほど、今の情勢を把握できたのは幸いだな。


「り、鈴々ちゃん、走るの速すぎるよぉ……」

「あぅ……息が苦しい」


各ルートの情報を記憶から引っ張り出しながら現状に対する考察を続けていると、息を切らした女の子二人が陣へと駆けこんでくる。二人揃って帽子がずり落ちそうになっているけど、それを気にかけるほどの余裕は残っていないらしい。茶色のベレーと濃紺のマジカルハット。どう見ても諸葛亮と鳳統の二人だった。


二人の息が落ち着くのを待ちながら、一刀君が二人に経緯を説明する。息を整え終わった二人は一つ頷いた後、こっちに向き直って名前を名乗った。


「私は諸葛亮って言います。劉備様の軍師を務めています」

「ほ、鳳統です。同じく軍師をしています」


原作ではカミカミ口調で有名な二人だが、流石に真面目な場面ではそう噛む事も無いらしい。少し期待していただけに残念に感じるが、現実的に言えば、緊張に負け、焦って頻繁に噛むようでは献策を主な仕事とする軍師は務まらないだろう。


つまり、二人のカミカミ口調を聞けるのは身近に接する人物でなければならないと言う事だ。厳密にいえば、男で聞ける可能性があるのは現状では一刀君一人だと言う事になるわけだ。


……。


ま、まあ、それはともかくだ。自己紹介を終えたんだ、ここは質問タイムといこうじゃないか。大丈夫、暴れそうになる俺の右手は理性で抑えられる。ただ、後でなぐる壁を捜す必要はあるかもしれない。


「あー、とりあえず面子は揃った様なので、呼ばれた訳を説明してもらっても?」


まずは当たり障りのない質問。と言うか、これを聞かないと始まらない気がするので聞いてみる。


「ええとですね。実は私たち、義勇軍を率いているんですけど……」

「ふむふむ」

「その……凌統さんに、私たちに協力してもらえないかと思ってお呼びしました」

「ほうほう……ん?」


遅ればせながらに俺の脳が劉備の言葉を理解する。俺は今、劉備にスカウトされたと言う事なのか? いや待て、落ち着け。聞き間違いの可能性もある。深呼吸だ、俺にはそれが必要だ。


ひとまず、一つ大きな深呼吸。そうして気を落ち着かせてから、俺は劉備にもう一度理由を尋ねる。


「えっと、よく聞き取れなかったので、もう一度言ってもらっても?」

「みんなが笑える世界を作るために、どうか私達に力を貸して下さい」


一度目よりもしっかりした口調で、同じ答えが返って来る。どうやら聞き間違いではなかったらしい。劉備は俺に、仲間になってくれと、そう言ってきている。予想の遥か斜め上を行く展開に、俺の思考が困惑の極地に達しそうだ。


「お願いします、凌統さん。平和な世の中を作るために、俺たちと一緒に戦ってくれませんか?」


劉備に続き一刀君も、強い意志を秘めた目をして言う。魅力的な御誘いだとは思う。何せこれからほぼ確実に大成するだろう劉備軍からのスカウトだ。はいと答える方が妥当だろう。


それでも、俺には一つ譲れない思いがある。それは甘寧さんたち、呉勢の人たちの事だ。こう言っては何だが、これからも周りの環境に恵まれるだろう劉備軍には、正直俺がいなくてもさして支障は出ないと思う。まあ、それを言うなら将来的に残る事になる魏と呉もそうだが、しかしそこに至るまでの各国の苦労の質はかなり違う。


特に呉はそれが抜きん出て酷いと言っても良いはずだ。袁術の庇護下にいるとは言え、少ない手勢でありながらこき使われる状況が恵まれた状況なはずがない。しかも主だった人材は各地方に分散、幽閉されているなどのおまけ付きだ。当然ながら呉の人たちの負担は増すだろう。その中には甘寧さんも当たり前に含まれている。


そして甘寧さんは、この世界での俺の命の恩人だ。あの時は甘寧さんの意を汲んで貸し借りは無しにすると言ったが、今でも俺は恩を返し切れていないと思っている。ゆえに俺は、もしどこかに属するのならば、呉に属したいと思っている。自画自賛になるかもしれないが、今の俺には困窮する呉の力になれるだけの能力が有る筈だから。


「折角のお誘いですが、お断りさせてもらいます」


そして俺は、劉備の誘いをハッキリと断った。


「そう、ですか……分かりました。無理を言ってごめんなさい」


劉備がしょぼんとして頭を下げようとするのを手で制す。ついでに人を率いる立場の人間が簡単に頭を下げるのは良くないと忠告しておく。すると、劉備に代わって一刀君が恐る恐ると言った様子で俺に断った理由を聞いてきた。


「あの、差し支えなければ理由を聞いても良いですか? あ、敬語じゃなくて良いですよ。俺、そう言うの苦手なんで」

「そっか、じゃあ遠慮なく。にしても理由か……」


どう説明したものか、顎に手を添え考える。とりあえず、要点だけを纏めて言葉にする事にした。


「俺も君たちと同じように、自分がしたいと思う事がある。そしてそれは、君たちと一緒にいては出来ない事だ。だから俺は、君たちと一緒にはいけない」

「それは、平和な世を作る事に繋がる事じゃないんですか?」

「どうだろう。凄く私的な事だからさ。正直、平和とかそういうのには全く関係は無いかもしれない」


本当に簡潔な説明だ。要点と言うか目的語と補語の殆どを省いた説明。正直、殆ど俺の意図は伝わらないと思う。そんな俺の言葉に、傍で聞いていた関羽が険しい表情を浮かべた。


「あれだけの力を持ちながら、貴様はあくまでその力を自分のためにしか使わないと言うのか。貴様には、この乱れ切った世を憂う気持ちは無いのか? 貴様の胸に義は無いのか!」

「あ、愛紗ちゃん、落ち着いて!」


俺に詰め寄ろうとする関羽を劉備が必死に抑える。どうやら私的な理由と言うところが癇に障ったらしい。けど私的以外の何物でもないのだから、そこは弁明のしようもない。あぁ、関羽とは出来れば友好な関係でいたかったんだけどなぁ……。ちなみに張飛はよく分からないといった様子でだんまり。軍師の二人は特に表情を変えることなく静かに話を聞いていた。まあ、こっちとしても非常に助かる対応だ。


「一応弁明するなら、俺がしたいのは復讐とかそういった類じゃない。ただ、俺には恩を返したい人がいる。でも君たちと一緒に行けばその人の所に行く事が出来なくなる。だから一緒には行けないんだ。世を憂う気持ちも、平和を尊ぶ気持ちもあるつもりだ。けど、それよりも優先したい事なんだ。分かってほしい」

「……」


俺の言葉に関羽は応えない。まだ納得いかないのか、それとも納得した上での沈黙なのか。できれば後者であって欲しいと思う。再開した時、最悪の印象のままなのは勘弁願いたいし、それに怯えて心中穏やかでいられない暮らしを送るのは辛いだろうから。


「すみません、深く詮索をしてしまって」


謝る一刀君に、俺はゆっくりと首を横に振る。


「気にしてないさ。それに、もしかしたら遠くない先に、俺の道と君たちの道が交わる事だってあるかもしれない。まあ、全ては俺の予想、もしくは妄想に過ぎないけどね。未来に起こる出来事を知っている・・・・・筈がない。そうだろう、北郷殿?」

「っ!? 凌統さん、あなたまさか――」


俺の引っ掛かる言い方に、目を見開いた一刀君が何かを言いかけたその時、本陣に一人の兵が駆けこんでくる。どうやらこちらに向かってくる軍勢があるらしい。もしかしなくてもそれが曹操の軍勢であることは、この後の展開を知る俺には分かる。もう間もなく、曹操は自らここへと足を運ぶだろう。その場に俺が居合わせるのは、あまりよろしいとは思えない。


ここに向かっていると言う事はさっきの戦を偵察兵を通じて知ったからだろうし、その報告に俺の事が含まれている可能性は高い。となれば、曹操に絡まれる可能性も高いと言う事。正直、アレに絡まれるのは勘弁だ。劉備と一刀君たちだからこそ波風は立たなかったが、曹操とならば波風どころか大波に暴風が確定だ。出来れば面倒は避けたい。


「それでは、俺はこれで失礼します。劉備殿、お会いできて光栄でした」

「そんな、もう行っちゃうんですか? まだ助けてもらったお礼もしてないのに」

「縁があればまた会う事もあるでしょう。次に会う時の楽しみとして取っておきます」

「あっ……」


なおも何か言いたげな劉備に俺は背を向ける。馬蹄の音が近づいている。これ以上は本当に時間が無さそうだ。と言うか、立ち去るところを見られるかもしれない。追手とか出されないといいんだけど……。


「宵闇、行くぞ」


後ろで待機していた宵闇を呼び寄せ背中に乗る。気付いた一刀君が駆け寄ってくるが、それよりも早く俺は宵闇の腹を蹴る。


「凌統さん、待ってください! まだ聞きたい事が――」


時既に遅し。走り出した宵闇は瞬く間にスピードを上げ、背後から聞こえてきた一刀君の声が一瞬にして遠のく。恐らく元の世界の事について聞きたかったのだろうけど、生憎と俺には何も出来る事は無い。俺はただそれを知っているだけで、状況をどうにかする手段を持ってはいないのだから。


懸念を残させるような発言をしてしまった事を心の中で一刀君に詫びながら、俺は義勇軍を後にする。去り際、背中に刺すような視線を感じた気がしたが、深くは考えない事にした。



今回はほぼ書き直しに近かったので時間が掛かってしまいました。申し訳ありませんでした。


それでは、次回も宜しくお願いします。

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