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第二話 リスボーンは川の上

やあ、みんな。ゴリでマッチョなドM悪魔に殺された霧原浩牙だ。つまらない日常からの脱却を願いながら過ごしていた俺だけど、何の因果か悪魔に殺されて転生する羽目になると言う奇妙奇天烈なことになっちまった。


転生だなんて……俺は二次創作の中でしか読んだことがない!


とは言え、世の中そんなに甘い話が有る訳も無く、転生の特典として俺は悪魔に連れられて地獄の最下層に修行に行く事になった訳だ。今思えば、正直特典と言えたのかどうかは、あやしいところ。


それはともかく、この美少女悪魔監修の修行がキツイの何の。たぶん修行中に1000回は死んだよ、俺。しかし地獄ではどうやら肉体の概念は無いらしく、魂が砕けない限りは存在が消えると言う事は無いらしい。


幸い、現世で荒波にもまれてきた俺はそう言う事には強かったわけで、おかげでこうして今も存在できている……死んでるけど。


ここでの痛みは、痛覚と言うよりは強烈な不快感となって精神の方にダイレクトに押し寄せる。そう言う点では、なまじ痛みよりも質が悪いと言えるだろう。強いとはいえ、俺も何度発狂しかけたか分からない。その点、カウンセリングっぽい事を施して俺が折れない様してくれた美少女悪魔には感謝している。


まあ、針山に仰向けにさせられてローラーで轢かれたり、ケルベロスに追われながら灼熱地獄走り回ったり、怨霊が蔓延はびこってる血の池地獄で遠泳させられたり、散々な目にも会わされたわけだが。


剣鬼の村正さんに剣術習ったり、地獄のジョーさんに体術習ったり。飛竜に食われた某ハンターさんにハンマー習ったり……。地獄には今も、多種多様な人々が未だに囚われてる。なので修行相手には全くと言っていいほど困らなかった。修行相手の外見がバイオってるのには、最初の頃はかなり引いたけども。


しかし、そんな辛く厳しい修行生活も今日で最後。この日をどれだけ待ちわびたことか。時間感覚は既に麻痺しているから、ぶっちゃけそれだけの時間、修業していたのかは分からない。少なくとも一日二日とかじゃないのは確かだ。


「やっとここでの修行も終わりか……何というかこう、感動だな」

「大げさねぇ。そりゃあ、かなり厳しく鍛えた事は確かだけど」

「アレで厳しくないとか俺は絶対に信じない」


まあでも、この孤独な地獄の中で色々と世話を焼いてくれたのもこの悪魔なんだよな。なんだかんだあったけど、この悪魔には感謝してもしきれない。


「けど本当に、感謝しているよ」

「そう。なら、私の犬としてここで永遠に過ごす?」

「いえ、それは遠慮します」


神速で否定。折角目前まで来たセカンドライフを棒に振るような真似は流石にしない。


「冗談よ……ちっ」

「そう言うのは聞こえない様にやってくれ」

「まあいいわ。それよりも、そろそろ向こうに送るわよ」


スルーですか、そうですか。


「あ、そう言えばだけど。俺って異常に体も心も鍛えられた訳だけどさ……どこに転生すんの?」

「心配しなくても大丈夫。今の貴方ならどこの世界でも生きていけるだけの力はあるから」

「いや、そうじゃなくて」

「どうやら時間みたいね」


二度目のスルー。くそっ、俺もいい加減泣くぞ、コラ。


相変わらずな性格の悪魔にげんなりしていると、突然地響きが鳴り出し足元から巨大な門がせり上がってくる。これぞまさしく地獄門か。うん、でかい。


「じゃあ最後に、これをあなたにあげるわ」


そう言って悪魔が放り投げてきたのは一振りのハンマー。片手で振るには巨大すぎるそれは、明らかに常人が持つものじゃない。両手で振るにも並大抵の怪力では不可能だろう。理不尽な事に、俺は片手で操れるが。地獄での修行を舐めてもらっては困る。


「煉獄の炎で鍛えた最高の鎚よ。きっと役に立つでしょう」


悪魔は微笑むと俺に手を差し伸べてくる。俺もその腕をがっちりと掴み握手をする。


「10年間、なんだかんだ楽しかったわ。第二の人生、楽しんで来てね」

「10年……結構経ってたのな」

「短い方よ。まあ、最後まで耐え抜いた事は褒めてあげる。御苦労様」


労いの言葉もそこそこに、悪魔が指をパチンと鳴らす。鈍い音をたてて開く地獄門。その向こうに広がるのは、深い深い闇。


「見渡す限り真っ暗闇なんですけど?」

「地獄から現生が見える訳ないでしょ」


呆れたように言う悪魔。それってつまり、


「現世のどの世界、どの場所に出るのか分からないのか」


それは、流石に大変だろう。と言うか危険じゃね?


などと考えているうちに、悪魔の俺の手を握る力が強くなる。この状況で手に力が入る理由を、俺は一つしか思いつけなかった。


「そのまさか……よっ!」

「ちょ、待て! まだ心の準備が――」


言い終わる前に悪魔に思いっきぶん投げられる俺。その方向には……やはりというか地獄門。


「おわぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

「生き返った瞬間、またここに来ない事を祈ってるわ~!」


最後にしっかりと死亡フラグを立ててくれた悪魔の言葉を最後に、俺は深い闇の中を重力加速度9.8で加速しながら落ちて行った。




◇ ◇ ◇



 

風を体全身に感じ、その心地よさに目を覚ます。


ああ、この風は間違いない。


地獄で感じていたむっさっくるしい風とは違う、母なる大地の風。


俺は、現世に帰って来た。


期待を膨らませてそっと目を空ける。復活して最初に俺の目に入ったのは、視界一面に広がる雲海だった。


なるほど。つまり俺は上空うん千メートルから落下中の様だ。落ち着け、俺。とりあえず落ち着け。凍える様な寒さの中、俺は思いっきり深呼吸をした。


「あい、きゃん、ふらーーーーい!」


そして手脚を大の字に広げて叫んでみる。


「……」


別段、飛べるようになるなんて奇跡は起こらなかった。って。冷静に言ってる場合じゃない。このままでは地面に真っ赤なバラを咲かせて、俺はまたあの世に逆戻りだ。


悪魔にも楽しんでこいと言われた手前、俺はこんなところで死ぬわけにはい明かない。考えている内に雲海を突っ切り、ついに地上が目に入る。


懐かしき母なる大地……俺はもう一度、あの場に立ちたい。


大地と共に俺の視界に入って来たのは大きな川だ。正直、この速度で落ちればコンクリートに落ちるのと変わらない衝撃を受けるだろうが、それでもそのまま大地に落下するよりかはなんぼかマシだ。上手くやれば生き残れる可能性もある。


高さと落下スピードが異常だが、そこは俺のボディを信じるしかない。間近に迫る水面。俺はハンマーを逆さまにしてその上に足をかける。こうすれば、水面に衝突する際の衝撃の幾分かをハンマーが肩代わりしてくれるだろう。


鼻をつまみ着水に備えて目をつぶる。そして……全身を駆け抜ける衝撃。俺は意識を失った……。




◇ ◇ ◇




「甘寧将軍、周囲に特に異常はありません」


水兵の一人が私に定時報告にくる。今、私は水軍と共に、我が国、呉へ積み荷を届ける船団の護衛をしている。


私たちが下っている長江は、この大陸でもかなり大きな川だ。その水運の良さを利用して、私たちは貿易を行っているが、当然それを狙ってくる賊たちがいる。


私たちはその賊が現われた時のために、こうして護衛についているのだ。


「甘寧将軍!」


定時報告の時とは違う雰囲気の語調で、水兵が声を上げる。


「どうした?」

「あそこを見てください!」


水兵が指さした方に目線を向ける。


「あれは、人か?」

「どういたしましょう?」


この長江では人の死体が流れてくることなどたまにある。このまま見過ごしても良いが、万が一ということもある。


「兵数人と網を持ってこい。一応引き上げる」


「はっ!」


水兵はそう答えるとすぐさま数人の水兵と共に網を持ってくる。慣れた手つきで網を放る水兵たち。網が確実に流れてきた人を捉える。


「「「せいやっ! せいやっ!」」」


掛け声と共に網を引き上げる。引き上げられた網にかかっていたのは、一人の男だった。


「……」


口に手をかざし、脈をとる。息はある。どうやら気を失っているだけの様だ。


「この男を船室に寝かせておけ」

「この鎚はどうしましょう?」


水兵が数人がかりで巨大な青みがかった黒色の鎚を持ってくる。


「念のためだ。それは武器庫に運んでおけ」

「御意」


水兵たちが男と鎚を運んでいく。全く、仕事中に流れてくるなど迷惑な奴だ。


「全員、持ち場に戻れ。呉に着くまでが我らの仕事だ」


私は水兵に指示を出し、持ち場へと戻った。




◇ ◇ ◇




「…知らない天井だ」


一度言ってみたかったセリフを言ってみる。うん、特にどうも思わない。


状態を起こし周りを見回す。俺が寝かされていたのは、どうやらどこかの部屋みたいだ。そしてかすかに感じるこの揺れ。


状況から察するに、川に落ちた俺をどこかの船が拾ったのだろう。どうにか俺のセカンドライフは無事に始まったようだ。


そこで俺ははっと気づく。俺のハンマーが手元に無い。


もう一度周りを見渡す。しかしそれらしき物はどこにもない。大方、この船の乗員に回収されたのだろう。


「どうしよう……」


今すぐ探しに行くか? 幸いにも服は着ている。まだ濡れているが特に問題は無い。


しかし、同時に迂闊に動いていいものかとも思う。あの悪魔の言葉が本当なら、俺は今どこに居るのか全く分からない。


船の造りは木造。今時、木造の船を使う所など、よっぽどのド田舎か未開発地域の人たち位だ。


はたして言葉が通じるものか……。俺があれこれ考えていると、不意に船室のドアが開き、一人の女性が入って来た。


「目が覚めたか?」


おおよそ日本人らしからぬ服装をした、眼光の鋭い女性。とりあえず言葉は分かるみたいだが、この人が俺を助けてくれたのだろうか?


「え~と……」


何かを言いたいけど……ダメだ、言葉が見つからない。すると女性の方が俺に話しかけて来てくれた。


「お前は長江で、気を失って浮かんでいた。そこを通りかかった我が水軍が助けた。理解したか?」


素晴らしく簡潔で、分かりやすい説明。うん、状況把握完了……ん? ちょっと待てよ。今、長江って言ったよな? という事は、ここは中国か?


「あのー、ここってもしかして中国ですか?」

「ちゅうごく? どこだそれは」


中国を知らない? でも長江って言ったし……それにこの人の顔、どこかで見たような気がする。


「もう一つすみませんが、お名前を聞いても良いでしょうか?」

「我が名は甘寧。呉に仕える将だ」


甘寧って、もしかしなくても三国志に出てくるあの甘寧? でも、何故に女性?


『もしもし? 生きてる~?』


突如聞こえてくる悪魔の声。こっちは初っ端から死にかけたと言うのに、随分とのんびりとした様子の声だ。


『一つ言うの忘れてたんだけど、あなたの名前は凌統。字が公績。真名が浩牙ね。それだけ、じゃ!』


あ、名前変わるのか。まあ一度死んだ身だしな。その辺りは理解できるつもり。けど完璧中国系の名前だ、それに真名って確か……。


三国志……甘寧……女性……真名。次々と並ぶキーワードに、俺の記憶が一つの答えを導き出す。そう、思い出した。10年も昔の事だから忘れてたけど、この人は恋姫無双の甘寧だ。真か無印か、さすがにそこまでは分からないが、どうりで見たことがあるはずだ。


そうか、俺が転生したのは恋姫の世界なのか……まったく、随分と修羅な世界に落してくれたものだ。


「ところで、貴様の名は?」


甘寧さんが俺に聞いてくる。まあ、当たり前か。こっちは向こうに名乗らせているんだし。


「俺は凌統っていいます」


俺が悪魔に与えられた名を言った途端、何か不思議な感覚が俺の体を通り抜けた。まるで、何かの流れに乗ったような、そこに居ることが当然であると言ったような感じだ。


それが何を示すのか、俺には分からないが、今の俺に一つだけ分かる事がある。それは、これから始まる俺のセカンドライフが、決して平和なものではないと言う事だ。




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