第一話 ぷろろーぐ
旧作・悪魔にヤられて乱世を行く。この度、復活致しました。所々修正を加えての再投稿ですので、その所をご承知くださいませ。
では、どうぞ。
いつもと変わらない日常、いつもと変わらない街並み。ああ、今日も一日、つまらない日を過ごすのだろう。
俺の名前は霧原浩牙。どこにでもいる普通のNTだ。けっしてニュータイプではないのであしからず。
この就職氷河期だ。こうなってしまう人は必ずいる。例え某大学を出たエリート君でもこうなる可能性があるのだから、世知辛い世の中だ。
全く、こんなカオスな世の中なのだ。何かしらの事件に巻き込まれるぐらいの事があってもいい位なのに。
だが悲しいかな、そんな二次元全開の展開などあるはずもなく、当てのない就職活動を終え帰路へと向かう。
「お?」
いつもと変わらない帰路の途中の工事現場。その中に、いつもと同じで無い光景があった。
「ああぁ~、しびれるー!」
ビキニ姿のゴリマッチョな女性が三角木馬に跨って喘いでいた。俺の脳内に二つの選択肢が現われる。
【大変だ、助けよう!】
【よし、帰ろう】
迷うことなく二つ目の選択肢を選ぶ。長年鍛え続けてきたシュミレーションゲームの勘が俺に訴えている。
一つ目の選択肢は死亡ルートだと!
「よし、帰ろう」
脳内の記憶メモリーからこの映像消去して、家に帰って嫁たちに会うんだ! 走るのも何だから何時も通りの速さでその場を立ち去る。こう見えても俺は紳士……のつもり。
願わくば、あの人の人生に幸多からんことを。
「あぁ~ん、もう、げ・ん・か・いーーーー!!」
ハスキーボイスとおっさん声が3対1の割合な声を張り上げながら、空に向かって飛び上がるゴリ子。消した記憶が即座に上書きされたようだ。
「おいおい、マジかよ」
ついにこの世界も終わりの日が来たか。
空を飛ぶゴリ子
映画化しても絶対に売れない。
「ああーーーんぐふっ!」
生理的に嫌悪感以外生み出さないであろう気持ちの悪いうめき声をゴリ子が漏らす。見れば地上から50メートル位まで跳んだ所でゴリ子が鉄骨を吊るしたままのクレーンに頭をぶつけていた。
衝撃と共に大きく揺れるクレーン。
当然、吊るされてる鉄骨も大きく揺れるわけで……。
ほら、思った通り。揺れと重さに耐えきれなくなったワイヤーがブチッと嫌な音を立てて切れた。
落ちてくる鉄骨。その落下地点は狙ったように俺の真上だ。
「……マジで?」
ぐしゃりと、一瞬の衝撃と共に視界が暗転する。走馬灯すら見えなかった俺が最後に思ったのは、こっちが死亡ルートだったのかと、俺の勘が鈍った事に対する嘆きだった……。
◇ ◇ ◇
「ん? ここは…」
眼が覚めると、俺は薄暗い牢獄のような場所で仰向けになっていた。
とりあえず体を起こすと、俺の眼に飛び込んできたのは亀甲縛りで吊るされてる例のゴリマッチョだった。
「あら、お目覚めぇ~ん?」
「……おえぇー」
起きてそうそう吐いた。ものっそい吐いた。まあ吐いたっていっても口から出たのは何か俺の顔をした魂みたいな物体……なんか吐き出しきったらマズイ気がするのでとりあえず飲み込む。体が温かさを取り戻した気がした。
「大丈夫~?」
縛られ喘ぎながらもクネクネした動きで俺の方まで這いずってくるゴリ子。全身を縛られてなお芋虫のごとく這いずる目の前に物体に戦慄した。
「とりあえず、ここどこ?」
別の意味で引きそうになる衝動を抑え込み、今更ながらに現状確認。とりあえず周りを見回す。
「鞭、手錠、首輪、三角木馬、拷問車輪……」
あるとあらゆるetc。アイアンメイデンまで……なんだ、この拷問器具百式が揃った恐ろしい部屋は……。
これはあれか? 俗に言う地獄なのか?
そこで唐突に思い出す。確か俺は鉄骨にスタンプされて死んだはずだ。しかし地獄に落ちるような悪さを生前した覚えは無いぞ?
「あら、眼が覚めたかしら?」
俺の疑問をよそに、誰かに声をかけられる。声からしてたぶん女性。目の前に悪い例があるので期待をせずに振り返る。
するとそこには……。
「こんにちは」
純白のドレスに身を包んだ美少女が居た……。
「ど、どうも」
思わずテンぱって噛んだ。リアル美人にはまったくと言っていいほど耐性の無い我が身が悲しくなった。
「まず始めに、ごめんなさい」
「はい?」
俺が内心で焦りまくっていると、突然にして美少女が頭を下げてくる。イマイチ状況が飲み込めない。なして俺は美少女に謝られる?
「実は、あなたが死んだのは、私のこの馬鹿弟子のせいなんです」
「いや、それは知ってる」
確かに直接的ではないにしろ、俺の死の原因の一端にはそこの筋肉が関わっている。筋肉が頭をぶつけた鉄骨に潰されて死んだなんて、思い出すだけで悲しくなる死に方だが。
「私とゴリ子は、実は悪魔なんですが、悪魔が現世に干渉すると言うのはかなりの重罪でして……」
そこから始まる長い説明。どうやらゴリ子は大の現生好きらしく、暇さえあれば遊びに出ているらしい。余計な干渉さえしなければ得に問題は無いが、今回は残念な事に俺が死んでしまい、それでお上の方からお叱りを受けたらしい。
「まあ私としては、別にゴリ子が拷問されようが半殺しにされようがどうでもいいのですが……」
仮にも自分の弟子なのに、なんとも冷たいお師匠様である。
「師匠である私のキャリアに傷が付くのは嫌なので、あなたには別の世界に転生してもらい、今回の事件をうやむやにさせていただきます」
加えて自分至上主義の権化でした。人じゃない、悪魔は見た目で判断するな。そんな格言が今この瞬間、俺の中に生まれた。
「え~と、それで、俺は結局どうなるんですか?」
ありない事が目の前にありすぎて正直頭の中がパンク寸前ではあるが、ここで状況理解を放棄するのはかなり不味いと本能が告げている。死んでるくせに取り乱す事が無いのも、そんな余裕がないからかもしれない。
「転生させてあげます」
「転生? それって、あの転生?」
「辞書持ってきましょうか?」
「いえ、別に」
それくらい、調べなくてもわかります。しかし意味が分かるのと理解するのとでは話が別。ぶっちゃけ転生させてやると言われても、俺としては今一ピンと来ない。
「ああもう、面倒臭いわね」
そう呟き、いきなり美少女悪魔がバッとドレスを脱ぎ去る。さっきまでと口調が違う気がするが、もっと違うのがその姿。なんとドレスの下は黒く輝くボンテージ姿でした。眼福です、ありがとうございました。
「観賞の代金は目玉でいいかしら?」
「申し訳ありませんでした」
目の前でパシーンと小気味の良い音と共にしなる鞭に、即座に正座で懺悔する。傍から見れば女王様とドMの図なのだろうが、断じて俺はMではない。
「まあ良いわ。折角だから、転生させる前に一つ、あなたにプレゼントを上げる」
そう言って正座する俺に悪魔が差し出したのは二枚のチケット。
《可愛くて、やさしいコース》
《ゴリマッチョで、厳しいコース》
全くもって、意味が分からなかった。
「これ、何ですか?」
「あなたを簡単に転生させてもつまらないから、どちらかのコースで修行させてあげる」
異議あり、修業とは自ら望んで励むものだと思う。少なくとも強制されるものではない。
「ほら、さっさと選ぶ!」
すかさずしなる黒皮の鞭。恐々としながら、思い切って片方を引く。
「それでは、可愛くて優しいコースへご案なーい! これからあなたには、地獄の最下層でキッチリミッチリ私がちょうきょ――じゃなく、しっかりと手取り足取り修行をつけてあげる」
喜々とした声で読み上げる悪魔の表情は、元が美少女なだけあってとても可愛らしかった。しかし俺のテンションは絶賛タダ下がり状態である。拝啓、両親様。どうやら俺は、あの世に行ってもとことん運が無いようです。
「それでは、素敵なセカンドライフを楽しめるよう、たっぷりと躾…コホンコホン。手とり足とり鍛えて差しあげます」
調教に続いて躾って……しかも手取り足取り二回目だ。って、そんな事はどうでもいい。とりあえず今、俺が言いたい事は一つだけ。
これから俺は、一体どうなるんだ?
そんな思いを胸に、半ば放心していた俺は悪魔な美少女に引きずられて、闇の中へと連れ込まれた。
……つまらない日常から変化を望んだ青年は、こうして奇妙奇天烈な非日常へと足を踏み入れた。
週に1~3話のペースで再投稿出来ればと思います。作者の調子によって変動するので、あしからず。