私の為に争わないでしょ?
まがりにもメーアことメルティアはこの国の第一王女であり、第一王位継承者である。
そんな彼女の周囲侍女、侍従の評価は
『思慮深く、寡黙な姫君。』
担当の教師の評価は
『不可はないが飛び抜けた良もなく…』
国の重心達の評価は
『暗君にはならないだろうが、名君とは呼ばばれないだろう。』
という、詰まるところ
『口数がすくないがまあまあ平凡な王になるんじゃない?』
といったところだ。
取り立てて何かが優れているわけではないけど、悪いところも見当たらない。
毒にも薬にもならない。
そのうち即位して、周囲の国から夫を貰って…
そんな周囲の評価に本人は
『ふーん、あっそう。』
とかいったとか言わないとか。
∴
「ねぇ、お姉様聞いてらっしゃるの?」
キャンキャンと子犬の様に最近とみに煩くなってきた妹が何かのたまっているが、どうせどうでもいいことなので、私は聞き流しながら書類に判子を押したり、奏上された意見書に目を通す。
「聞いてないわ。」
邪魔しかしないなら帰れよこのリア充。
「そこは嘘でも『聴いてるわ、可愛いエヴァンナ』と仰って下さいな!」
あー…マジで黙れよこの事故…ならぬ自己中め。自分が暇だからって絡まないで欲しい。むしろ暇ならこの書類を手伝って欲しいじぇ。
「私、自分に嘘はつかない主義なの。」
しっかり朝食を食べた後は、昼食の前に一仕事。曲がりなりにも王位継承者なのだ。
朝から晩までお洒落とイケメンにしか感心のないおまいと一緒にするなズラ。
(なんか最近王都の人口増加による職にあぶれ率が…あぶれる→お金ない→犯罪増える→治安悪化→…)
「もー!お姉様ったら!!!」
話を聞いてくれない事にイライラしたのか、エヴァンナが大声を出すもんだからこっちは耳キーンと来た!
おまけに机をバンバン叩くものだから書類が雪崩れを…殺意。
そんなお前に私がイラっ☆っとくるよ。
「……分かったわエヴァンナ」
私は軽く溜め息を漏らし顔を上げた。
そして意外と近くにあった妹と間近で顔を突き合わせる事になる。
私の三つ年下の妹でありエヴァンズの双子の姉であるエヴァンナ。
腰まである髪は少し灰色がかった金髪で母譲り。
姉の私とは違い何の癖もなく真っ直ぐでサラサラした髪はきっとクシが絡まって外す為に金鎚でクシを破壊するなんてことは人生で一度も経験したことないんだろバカヤロー。
因みにわたしは三回ほどある。
黒い瞳は父譲り、零れそうな大きな瞳は南海で取れる黒真珠の様に神秘的で吸い込まれそう!
と、もっぱら周囲の男共は馬鹿なことを言っているが、目に入れて痛くないほど可愛いのは孫だけだ。(孫いないけど)お前らが入ってどうする。
むしろ入れてみろ。てか入れろ。
……あれ?なんかちがう。
ともあれサラサラ金髪に黒真珠の瞳のエヴァンナは母の若い頃に瓜二つで、(母は今だって若々しく美しいけど!)母の若い頃をしる重鎮から仕官したばかりの従騎士まで、彼女の貴色と花の紋になぞらえ青薔薇姫と呼ぶ。
(貴色が青だから青薔薇姫…黒真珠の瞳なんだから黒真珠姫でよくね?)
因みに姉であるメーアの貴色は橙色で紋は荊、末っ子で弟のエヴァンズの貴色は白で紋は葉である。
文字通り蝶よ花と甘やかされたエヴァンナはちょっと…いやかなり?我が儘に育ったと思う。
だが誰かを傷つけるほど愚かではない…と、思う。多分。かなりイラっと来るけど。
「ですからね、私の護衛騎士達と親衛隊が何時も喧嘩ばかりして、この間護衛騎士のネルが怪我してしまったの!どうか彼らが私の為に争わないようお姉様がとりなしていただけません?」
眉根を寄せ瞳は悲しそうに潤み、こちらを見つめるエヴァンナこのいかにも
「私を助けられるのは貴方だけなの!」
みたいなかんじがなんかもう、駄目なんだと思う。
「俺が姫を守る!」
みたいな風にかき立てられちゃうんだろうなぁ…。
私にはさっぱり分からないけど。
因みに護衛騎士というのは騎士の団の中から王族個人につけられるもので、そこから更に腕に立つものや忠義の厚いものが指名され親衛隊に入ることを許される。
エヴァンナの護衛騎士は親衛隊はいりたさに年度末までローテーションが決まってるっていうんだから驚きである。
しかもエヴァンナは面食いなので親衛隊はイケメン揃いでいである。
滅べ!馬鹿共が!!
個人的に意見をのべれば互いに傷付けあって滅べばいいと思うが、その争い合ってる馬鹿男共は護衛騎士と親衛隊はまがりにも騎士であり、国の仕官、有事の際の国の守りでありそれよりは何よりも国民の血税で食っているのである。
マジ仕事しろ馬鹿共。あぁ…このままほっといてねずみ算式に被害が増えて行くのもめんどいなぁ…。
その怪我した馬鹿を手当てする薬や包帯も血税なのだ。
「しかたないわね。」
こんな下らんことでお金使うのMOTTAINAI!!
∴
後日こんな張り紙が騎士の詰め所や廊下に張り出された。
【第一王女メルティアの名において城敷地内での騎士らの許可無き私闘及びを禁ずる。】