ミルクって牛乳でしょ?
メーアは読み終えた新聞をたたみ侍女のエセルに渡す。
エセル・クラヴァート歳は十五歳、小柄な体に足首まである濃紺のワンピースと、染み一つない白いエプロンを纏い、襟にはメーア付きの証である、橙色の荊の刺繍があり、白い髪をきっちりと結い上げ帽子の中に入れている。
朝起きるのは苦ではないんだけど、朝食を食べるまではなんかボーってしてしまう。朝食大事だよ朝食。私は朝からしっかり食べる派。
「今日の朝食は 根菜のポトフとチーズリゾットとカットフルーツです。お飲み物はミルクと紅茶どちらに致しますか?」
「牛乳。」
「畏まりました。」
エセルはちょっと困った顔をしてミルクをピッチャーからグラスに注いでいる。
ミルクを牛乳と言って悪いか
エセルが初めて宮中に上がったのはたしか四年前で エセルが11で私が13の時だったと思う…うん…多分。たしか、うん4年前、4年前の春。
行儀見習いのため侍女として大勢の貴族の子女たちと大広間で謁見したのだが、15や17の子女達の中で11歳ののエセルは酷く目立っていた。
(皆必死だなぁ。)
とか、欠伸をかみ殺しながら彼女達を観察する。
彼女達のお目当ては見目麗しくかつ、世界を救った勇者である父キヨテルと、その膝の上で父の上着のボタンを超弄くりまわしている王子エヴァンズと母で王妃ルサーナリア、その膝の上で大人しく座っているエヴァンナと言ったところだろうか。
(あ、ボタン取れた。)
父のボタンを弄くり回していたエヴァンズはとうとう父の上着のボタンを取ってしまった。父は気付いてるのか気付いてないのか…心なしか笑顔が引きつってるような気もする。そしてそのボタンを明後日の方向に放り投げる弟。
壇上の家族に自分達を超アピる令嬢達とそれを観察する私。
そして、エセルの番になって、震えながら彼女は淑女の礼をとると、出身や家柄などの出自をたどたどしく言うとそのまま俯いて黙り込んでしまった。
侍女頭のボーマンが何か尋ねても、俯いたままで、微かに震えて、周りからはクスクスと令嬢達が忍び笑いを漏らしている。
イラっ
それは、決して正義感とか私が助けてあげなくちゃ!みたいな気持ちから出たものではない。
「なら私付きの侍女になりなさい。王家に忠誠を誓い仕えるのであれば、多くの言葉は不要です。」
煩いのよりは静かな方がいいし。
私の一言に気味が悪いほど広間が静まり返ったのを今も覚えている。